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 ──学園から帰宅し、食事と入浴を終えたあと。

 私が私室で休んでいると、窓からノック音が聞こえてくる。

 その音に気づいて窓の方に向かおうとした途端、いつの間にか部屋に男が現れる。

 私は突然私室に現れた男に抗議をする。


「両想いになりましたとはいえ、いきなりレディの部屋に入ってくるのは困りますわ。ワドルディ様」

「だからと、ノックをしたではないか。手厳しいな、娘は」


 突然私室に現れた聖ワドルディは、わざとらしく肩をすくめる。


「婚約関係にまでなったのだ。もう少し、我の登場に喜んでもいいだろう」

「このように会えるのは嬉しいのですが、タイミングというものがあります。貴族の実情に未だ疎い私でも、それくらいは心得ていますの」

「我が貴族になったのは、ほんの数日前だ。そのような心得、わきまえておらぬ」

「ワドルディ様が公爵になられたのは、半年も前のことですわ。そのような感覚も貴方様らしいといえば仕方ないのですが、もう少し考慮してくださいませ」


 そうやって会話をしていると、聖ワドルディはあからさまにねた態度をみせる。


「別に我はお前と口論しにきたわけではない。婚約者として仲睦まじくありたくて、ここにきた」

「私も口論したいわけでは……。ちょっと、ワドルディ様っっ!?」


 聖ワドルディは私の両腕をガシッとつかんで、私室のベッドの縁に座らせる。


「たしか、お前の産まれた日と同じ日にであったか。お前──リーゼリットが恋する少年(・・・・・)たちの告白を断ってまで、我に告白をしてきたのは」

「そうです。ラドゥス様やシュジュア様、ターナル様には、お返事を待たせておいて悪いことをしてしまいましたわ」

「少年たちを愛していたのだろう?」

「ええ、人として愛しておりました。でも、恋心というものが芽生えたのは貴方様──ワドルディ様がはじめてだったのです」


 転生してすぐは推しとして、推しも生きている人間だと実感してからは、人として推したちを愛していた。

 けれども、聖ワドルディに助力してもらううちにいつの間にか恋情が生まれて、これが本当の恋だと知った。

 推したちの心を翻弄させておきながら卑怯だとは思うが、自分の想いに嘘はつけずに告白を丁重にお断りした。


「まったく、罪な娘だ」

「そうは言っても、ワドルディ様だってあの手この手と私を口説いてきたではありませんか」

「我も少年たちに敗北したくはなくてな。つい躍起になってしまった」


 聖ワドルディはしれっと言ってのける。

 相変わらず癖の強い男だが、そんな男を私は好きになってしまったのだ。


「ワドルディ様、私と仲睦まじく過ごしにきたのでしょう?」

「……そうであったな。リーゼリット──いや、リゼと呼んでいいだろうか?」


 先程とは違い、優しく私の腕を掴み続けながら聖ワドルディにそう呼ばれる。

 はじめてそんな呼ばれ方をされたはずなのに、なぜかしっくりくることに驚く。

 自分でも不思議に思っていると、聖ワドルディは語りだす。


ユカリ(・・・)がお前をそう呼んでいた。おそらく、前世の名前とゆかりがあるのだろうな」

「そうだ……そうだったわ、私の名前は理世りぜだった」

「おそらくお前は、くるべくしてこの世界にきたのであろう」

「でも、前世の記憶はほとんど思い出せなくて……」

「それはお前が往生したからだ。前世で急死したユカリ(・・・)とは違い、魂が完全に本来の娘と合わさってしまった。ゆえほころびがなさすぎて、前世の記憶への糸口が細かったのだろう」


 そこまで話すと聖ワドルディは、私のひたいに口付けをする。


「リゼ。我の一生は只人ただびとより長い。それでも、生涯そばを離れないでいてくれるだろうか」

 「ええ、末永くよろしくお願いします」


 聖ワドルディの真剣な眼差しに、私は心からの微笑みで応えた。


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