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68話 始祖を救済します -3-

 ──いざ当日。

 私は平静を装って学園に向かう。

 侍女のジェリーは何か私に異変を感じていたようだが、何も言ってはこなかった。


 肝心の"ホープ"の方は、昨日国王より密かに収集命令が出ている。

 キュール公爵家も、我がノーマン侯爵家も、緊急事態であることはわかっているために拒否することはなかったようだ。


 そして私は学園から、六人乗りの大きな馬車に乗って聖ワドルディの居場所へと向かう。

 乗車しているのは、私、ラドゥス王子、シュジュア、ターナル、ユリカだ。

 他にももう一台、馬車が出ているようだがそちらに誰が乗っているかまではわからなかった。


「リーゼリット、昨日は僕たちから逃げただろう?」

「なっ、なんのことでしょうか? ラドゥス様」

「そなたの嘘はわかりやすいのだ。いい加減に気づけ」


 そうなのだ。

 昨日国王と面談を終えたあとの私は、心配してくれている推したちに気まずくなって、ユリカとの準備をいいことに逃げてしまった。

 今回の件に失敗しても成功しても、これからは王国のために奉仕する運命を推したちに嘆かれたくはなかったのだ。


「リーゼリット嬢、たしかに俺はろくなことにならないと止めはした。だが、君に拒絶されることが一番堪こたえてしまう」

「シュジュア様……」

「リーゼリット殿、我々はあなたを後押しすると言いましたね。その言葉に嘘はありません。もっと私や周囲を頼ってください」

「ターナル様……」


 本当は推したちにもっと相談したかった。

 でもそれは、私らしくない優柔不断な気持ちを押し付けることになる。

 私は推したちに、自分勝手な感情を押し通したいわけではない。

 私を愛してくれている推したちに、この煮え切らない心情をぶつけるのは不義理に思えてしまったのだ。


「何を悩んでいるのかはあえてふれないが、そなただけで決め込もうとするな。そなたは元気が取り柄なのだから、かげりのある表情など似合わないぞ」

「ラドゥス様……」

「リーゼリット様。甘え下手のわたしが言うのもなんですが、ときには信頼する方にゆだねるのも大事ですよ」

「ユリカさん……」


 皆が皆、私を心配してくれている。

 甘えてばかりはいられないと思っていたが、これからも私らしくいるために、もっと気持ちを吐露とろしていった方がいいのかもしれない。


「皆様、ありがとうございます。これからは、ちゃんと甘えるようにしますわ」




 そんなことを話しているうちに馬車が止まった。

 到着したのかと思いきや、そうではないらしい。

 どうやら、なんらかの魔法でこの先の行く手が阻まれているようだ。

 私たちは馬車を降りて、様子を確認する。


「これは──結界ですね。リーゼリット様に流れている魔力と酷似しています。聖ワドルディ様のようなお方でしたら、もう少し精巧に誤魔化せるはずですが……」


 "魔法使い"であるユリカが、行く手を阻んでいる魔法を分析する。

 この結界魔法の作成者は、聖ワドルディで間違いないようだ。


「それだけ、今の聖ワドルディ様に余裕がないということね。ユリカさん、同じ魔力なら私に何かできるかもしれないわ」


 私はユリカにそう言って、自ら結界に触れる。

 ユリカに教わりながら結界の精度を強化しつつ、馬車が入れるように融通する。

 生粋の"魔法使い"ではないのもあって苦労はしたが、無事に結界内に入ることができた。


 それから10分も経たないうちに、聖ワドルディが住んでいると思わしき小屋に到着する。

 御者ぎょしゃを率いて先導していた、護衛騎士がここで止まったので間違いないようだ。


 私たちが馬車を降りていると、もう一台の

 馬車からも人が降りてくる。

 私はその降りてきた人物に驚愕する。


「ダリアン様にサトゥール様! マリウス様にザネリ様まで! いったい、どういうことなのでしょうか!?」


 この場に推したち3人の兄が集結している。

 私しか驚いていないのを見ると、推したちやユリカは薄々勘づいていたようだ。

 私の反応を察してか、ダリアン王子が前に出て声をかけてくれる。


「リーゼリットよ、貴殿が陛下に此度の一件を進言したのであろう。それにより陛下は、私やサトゥール、マリウス、ザネリに"ホープ"の管理を任されたのだ」

「そうだったのですね。皆様、お引き受けくださりありがとうございます」


 "ホープ"がどうやって、聖ワドルディの居場所まで運ばれてくるのかを国王は教えてくれなかった。

 私が同伴者を指定したときには、国王は静かにここに向かう人を決めていたのかもしれない。


「リーゼリット、おそらく貴殿とユリカ以外の人間はこの中には入れん。ゆえに今ここで"ホープ"を渡す」

「そうなのですか?」

「リーゼリット様は魔力が同調しているので気づかないのかもしれませんが、ここは魔力の渦が凄いです。きっと普通の人が中に入ると、息ができなくなります」


 ユリカが補足してくれて、ようやく納得がいく。

 よく見ると、推したちや推しの兄たちの顔色が悪い。

 ここで私とユリカ以外が入るのは自殺行為になるだろう。


「かしこまりました。よろしくお願いいたします」

「では、私から。王家の"ホープ"だ。我が国のかけがえない宝玉、丁重に扱ってくれたまえ」


 私はダリアン王子から、王家の"ホープ"を渡される。


「次は僕かな。君が見つけてくれた、キュール公爵家の"ホープ"だ。君に託すよ」

「その次は私ですね。"聖石"に関連ある地であるからと、ガラティア侯爵家が預かっていたロイズ公爵家の"ホープ"だった"聖石"です。よろしく頼みます」


 マリウスが私にキュール公爵家の"ホープ"、ザネリがユリカにロイズ公爵家の"聖石"を渡す。


「最後は俺だ。ノーマン侯爵家の"ホープ"は俺が預かっていた。……せいぜい頑張れ」


 サトゥール王子からユリカにノーマン侯爵家の"ホープ"が渡され、シェイメェイ王国の4つの宝玉が私とユリカの手元に集まった。

 この全ての宝玉を使って、集まってくれた人たちの為にも、私は聖ワドルディを救済するのだ──。

 この国の危機に連なるため、一度も失敗は許されないだろう。


「それでは、今から聖ワドルディ様救済作戦をはじめます」


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