66話 始祖を救済します -1-
お父様の言葉に、私は驚愕する。
"ホープ"の光が見た目でわかるほどに弱っているということは、それほどまでに聖ワドルディが衰弱しているということだ。
王子同士の決闘終了後、真っ青だった聖ワドルディの尊顔が浮かび上がってくる。
小説では、聖ワドルディは魔力の喪失により消息不明となってしまう。
それにより、"ホープ"の力までもが消失し、このシェイメェイ王国の権威の失墜となってしまう。
だがそれは、王家以外の三つの"ホープ"の願いが果たされてしまったからである。
この世界線では、願いが果たされた"ホープ"はロイズ公爵家の一つだけだ。
考えられる理由があるとすれば、聖ワドルディが私に魔力を分け与えてしまったからだ──。
では、小説はこの事態をどう乗り切ったかというと、ヒロインのユリカが聖ワドルディの始祖であり"大魔法使い"としての意志を引き継いだ。
ユリカは聖ワドルディから魔法のあり方を伝授され、魔力で不老長寿となった身体で、"ホープ"に新たな魔力を吹きこみ、このシェイメェイ王国を支えていくのだ。
けれども、以前のユリカの反応を見るに、いまだ聖ワドルディとの面識はないままだ。
このままでは、小説よりもさらなる危機に陥ってしまうこととなる。
せっかくここまで原作改変をしてきたのに、水の泡になってしまっては元も子もない。
私は急いで、この事態の打開策を考えなければいけないこととなった。
私はまず、お父様に相談することにした。
私の小説・前世の記憶・能力の三つの"天啓"について明確に伝え、登城と国王への謁見の許可を貰うことにしたのだ。
しかし、お父様から許可を貰うことができなかった。
むしろ、"天啓"の件に関しては口外しないように強く言及されてしまった。
私自身、自分が国家に利用されるかもしれないことをわかっていて、国王に能力について話すのは気おくれしてしまう。
お父様はそんな私を案じてくれて、断固拒否してくれているのだ。
お父様を納得させるのは難しいだろう。
でもこのままだと、埒が明かない。
私はお父様の説得を諦め、次の作戦に向けて行動を開始した。
*****
「──そういうわけで、私は学園長の許可を得て、国王陛下への謁見をお願いしたいのです」
「リーゼリット嬢、やめておいた方がいい。君自身が国家案件に関わるべきではない。今はすでに"天啓"通りではないらしいが、きっとろくなことにならないぞ」
「リーゼリット殿、私もそう思います。いくら聖ワドルディ様に魔力を分け与えていただいたことに気負いを感じていても、それとこれとは一緒にしてはなりません」
私は学園の昼休みに推したちを呼んで、相談場所としても兼ねている美術室で、聖ワドルディと"ホープ"の件を相談しあっていた。
シュジュアとターナルにも、お父様のように反対をされて、私は困惑してしまう。
時間は限られているのに、相談の段階で立ち止まっているわけにはいかないのだ。
「……どうしても駄目ですか?」
「ああ、どうしても駄目だ」
(今回ばかりは、私一人でなんとかするしか──)
ラドゥス王子にまで反対意見を述べられたと思ったが、その言葉には続きがあった。
「……と言いたいところだが、そなたは決して聞かぬのだろうな。どうやら後押しするしかなさそうだぞ、シュジュア、ターナル」
「ラドゥス様、本当ですか!」
「リーゼリット嬢のためを思って、止めていたんだけれどね。でもそれが、君の意思に反するのなら仕方ない。俺もできる限り手助けしよう」
「リーゼリット殿は諦めが悪い方ですからね。私としても止めたかったところですが、一人で解決しようとされては困りますのでお手伝いしましょう」
「シュジュア様、ターナル様、ありがとうございます!!」
推したちの協力を得られるようになった私は素直に喜ぶ。
その矢先に、ラドゥス王子から待ったがかかる。
「リーゼリットは三つの"天啓"を交渉にして、何を陛下に懇願し、どう行動するつもりだ? 場合によっては、僕は後押しではなく、そなたのために阻む可能性もあるぞ」
何を陛下に願い、どう動くか──。
それが、今回の聖ワドルディ救命の要点である。
いままでのように行き当たりばったりでは、今回ばかりはどうにもならないかもしれない。
だから、私が必死に考えて出した考案は。
「私の考えは─────」
*****
──今日の放課後。
学園長との面談は、明日となった。
急を要すると申し出たとはいえ、こんなにもすぐに時間を空けてもらえるとは驚きだ。
私はその面談の前に、今回の件について一番話さなければいけない相手と今から談話する。
ヒロインの彼女の大幅な介入なしに、いままで原作改変を目指していた私もよくなかったかもしれないが、今になって頼らざるを得ないのは何より申し訳ない。
「ごめんなさいね、ユリカさん。急に呼び出してしまって」
「リーゼリット様、ご用件はなんでしょうか?」
ユリカは純粋に疑問の目を向けてくる。
そんなヒロインに、私は自分の"天啓"についてと今後の作戦についてを話す。
「リーゼリット様に、そんなお力が……。わたしを助けてくださったのは、リーゼリット様が本当に停学になる可能性と、わたしが"大魔法使い"になる必要性があったからなんですね」
「はじめはそうだったかもしれないけれど、今は違うと言いきれるわ。ユリカさんのことは大事な友人だもの、助けるのは当たり前よ」
「──!? ありがとうございます……」
ユリカは顔を真っ赤にして照れていて、とても可愛らしい。
でも、私はそんなヒロインに酷な選択をしてもらわないといけないのだ。
「ユリカさんは、もし私の作戦が失敗した場合、新たなる始祖として"大魔法使い"になる心構えはあるかしら?」
「わたしは聖ワドルディ様にお会いしたことはありませんし、"大魔法使い"としての心構えは正直よくわかりませんのでかなり不安です。でも……」
「でも……?」
「リーゼリット様が作戦成功に向けて、努力してくださるのでしょう? それならばわたしも、もしものときの失敗をつらく考えないようにします」
ユリカは私を信頼してくれているのだ。
ならば私も、その期待に応えなければならない。
「ユリカさんの気持ちはよく伝わってきたわ。この作戦、絶対成功するように頑張るわね!」




