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64話 決闘を応援します -9-

「いいえ、お邪魔などではございません! お越しいただきありがとうございます、カトル様!」


 私はこちらまで来てくれた人物に素直に喜ぶ。

 私がここに呼んだカトルは、いたって素朴そうな少年だ。


「ご令嬢からお手紙が届いたので驚きましたよ。我が家で一騒ぎになってしまいました」

「それは……申し訳ございませんわ。私が迂闊うかつでした」


 私が侯爵令嬢であったことを忘れて、普通に手紙を送ってしまった。

 縁談と間違われたり、変に勘違いされても困るので、今後は相手を考えて気をつけるしかない。


「なんだ、カトルじゃないか。おまえもここに呼ばれたのか」

「サトゥール様。そうなんです、そちらのリーゼリット様とラドゥス殿下に呼ばれて参りました」


 どうやら、サトゥール王子とカトルは知り合いらしい。

 同じ2年生同士なので、既に交流もあるのだろう。


「カトル様。ここには、魔法がかけてありますので盗み見や盗み聞きの心配もありませんわ。普段通りで大丈夫です」

「──そうみたいだね。とはいっても、魔法は常にかけっぱなしだからね。あれからの普段通りはこの状態だから、気づいてもらった方が早いかな」


 カトルの口調は変わり、佇まいも風格も様変わりする。


「ダリアン兄上、お久しぶりです。ご機嫌いかがでしょうか? サトゥール、最近元気がなさそうだね。おまえが元気にしてくれていないと俺も困るよ。ラドゥスも久しぶり。泣き虫は止んだかい?」


「──!? まさか、その口調とその所作は……カドゥールか?」

「──!? ……カドゥール? カトルが本当にカドゥールなのか?」

「カドゥール兄上、お久しぶりです。お元気そうで何よりです──。泣き虫はとっくに治まりました」


「ダリアン兄上。そうです、俺ですよ。サトゥール。おまえが気づかないように、いままで気を配っていてごめんな。そう言いながら、もう泣いてるじゃないかラドゥス──」


 カトルあらためカドゥール王子は、一筋の涙を流しながらクスクスと笑っていた。



 本当は兄弟水入らずで私は邪魔なのだろうが、不慣れな魔法の維持のためにその場に残っていた。

 それからのカドゥール王子は、兄弟王子たちに事の経緯を話し始める。


「一度俺が行方不明になったときがあっただろう? あのときに、ちょっとヘマをしちゃってね……。サトゥールやラドゥスにも配られていた、丸玉を取り除いたつもりが危うく魔法を発動しそうになってしまって。それを転移魔法の女性が救ってくれたんだ」


 転移魔法の女性というと、ノラやカイの言っていた"魔法使い"サロメのことだろう。

 彼女がカドゥール王子を救っていたのは、小説バイブルにも載っていなかったので私も全く知らなかった。


「その転移先で、今もお世話になっている"魔法使い"に会ってね。俺は悪い意味でも目立っていたから、今後も命が狙われるだろうとのことで、偽装工作を手伝ってもらうことになったんだ」

「なんで……なんで、一言も相談してくれなかったんだよ! 双子の兄弟じゃないか!」

「サトゥールに話していたら、絶対にバレていた自信があるよ。でも、おまえ以外に相談するのも気が引けてね。だから、誰にも話さなかった」


 カドゥール王子は淡々としつつも、引き続き経緯を話す。


「それからの俺は、平民カトルとして生きてきた。そうしているうちに男爵に養子として見込まれて、学園に入学することになったんだ。元平民としての入学だから苦労はしたけれど、今はクラスの皆にも一員として認められていると思うよ」

「当たり前だ! おまえを認めない奴なんか、俺が許さない!」

「そういうサトゥールも、突っかかってきたことあるじゃないか?」

「あれは! あれは……俺よりも勉学に長けていて腹が立ったからだ」


 既にカドゥール王子が成りすましたカトルと、サトゥール王子は一悶着ひともんちゃく起こしたあとらしい。


「でも、武術に関してはサトゥール、おまえの方が上だろう?」

「当たり前だ! 俺がどんな思いで、身体を鍛えてきたと思っている! ……まぁ、そんな俺も、ラドゥスに負けてしまったがな」

「サトゥールにラドゥスが勝ったの!? 強くなったんだね、ラドゥス」

「いえ、姑息こそくな手を使ったうえでの勝利でしたので。純粋な実力は、サトゥール兄上の方が上です」


 今度はサトゥール王子が、カドゥール王子に昨今の出来事の経緯を話していく。


「またおまえは、ダリアン兄上に迷惑をかけて! 申し訳ありません、ダリアン兄上。サトゥールも、面と向かって謝る!」

「……申し訳ありませんでした、ダリアン兄上」

「いや、カドゥールが謝る必要はない。私が不甲斐ないせいだ。サトゥールもいろいろ不安だっただろうに、気遣ってやれなくてすまなかった」


 カドゥール王子がいれば、王子同士の権力争いはこんな短気決着ですんだことがわかった。

 恐るべし第2王子である。


「……そろそろ今日はお開きかな? 久しぶりにお話できて嬉しかったです、ダリアン兄上。サトゥール、また学園で。カトルとしてしか会えないけれど、待っているよ。泣き虫ラドゥス、達者でやりなよ。それでは、リーゼリット。これからもラドゥスと仲良く、ね?」


 そう言葉を残したあと、カドゥール王子はカトルとしての所作に戻る。


「カドゥール、王子として王宮に戻る気はないのか?」

「何をおっしゃっているのですか、サトゥール様。カドゥール殿下は、不幸な事故に見舞われて亡くなってしまわれたのです。──それでいいんだ、サトゥール」


 こっそりと一言呟つぶやいて、カトルは集合場所から去っていった。



「リーゼリット、貴殿がどうやってカドゥールを探し当てたか不思議でならないが、心より礼を言う。いろいろ聞きたいことは山積みだが、今日はこれで失礼する」


 本気で私に質問したい気持ちが山々そうであったが、ダリアン王子も集合場所から去っていった。


「リーゼリット、俺もいろいろ聞きたいことがあるが一つだけ質問する」

「はい、なんでしょう? サトゥール様」

「令嬢がカドゥールの居場所を知っていたなら、決闘を俺の不戦敗にすることもできただろう。なぜ、そうしなかった?」

「……カトル様もおっしゃっいました通り、カドゥール様はもうこの世にはいらっしゃらない方です。そのような方に頼るなど、もってのほかではございませんか?」


 我ながら、出過ぎた回答であることは承知の上だ。

 でも、ここは私の意見をはっきり告げるしかない。


「そうか。過去に生きていたのは、俺だけだったか……」


 それだけ吐露とろしたのち、サトゥール王子はこの場から離れていった。


「私たちも帰りましょうか、ラドゥス様」

「そうだな、リーゼリット。今日という出来事を作ってくれたこと、本当にありがとう」


 目くらましと防音の魔法を解除し、私とラドゥス王子もそれぞれの馬車で学園から帰ることになった。



 *****



 学園から邸宅へ戻ると、ノーマン侯爵邸はなにやら慌てふためいていた。

 何事かと思い、私は急いで、先に帰宅していたお父様のもとへと会いに行く。

 そこで、お父様から発せられた言葉は──。


「我がノーマン侯爵家の"ホープ"の光が、弱まっているですって──!?」


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