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41話 交流会に参加します -4-

 シュジュアは私と手を繋いだままにして"ホープ"に手をかざし、私の発言とほぼ同じ言葉を唱えた。


 その瞬間、"ホープ"は黄金色の輝きを部屋中に放ち、元の美しい黄金色に戻った。


「「「戻った──」」」


 私とシュジュアとジオは、同じ言葉を発した。


「リーゼリット嬢! ──今のは君がいつも言っている、"天啓"による"お告げ"ではなかったのか!?」

「確かに"天啓"にはうたれましたが、既に運命は変えられた後だったので………当てずっぽうも正直ありました」

「リーゼリット嬢!!」


 シュジュアは顔を真っ赤にして、私の名を連呼してくる。


「いいじゃないですか。"ホープ"は元の綺麗な黄金色に戻ったのですから」

「それは確かによかったことだが……それだけではないんだ!」

「落ち着いてください、シュジュア様。リーゼリット様は鈍いんですから仕方がないのです」


 今さらっとジオに失礼なことを言われた気がしたが、シュジュアが黙ったので追及はしないことにした。


 ほんの少し時間が経過して、シュジュアは安堵の表情を浮かべている。


「……これで"ホープ"は、我がキュール公爵家のものに戻ったんだな」

「ええ、そうです。シュジュア様の探し物は、これでようやく手元に戻ってきましたわ」

「ああ。ああ、そうだな。やっと……やっと探し出すことができた」


 シュジュアの長年の悩みを解決できて、私自身も胸をなでおろした。




 キュール公爵家の家宝である"ホープ"紛失事件の犯人は捕まり、"ホープ"も元の黄金色に戻った。

 これにて一応一件落着なので、私達はそのまま解散になるかと思われたが、私はなぜかシュジュアの事務所に呼ばれてしまった。


「なんで私、シュジュア様の事務所に呼ばれたんですか? まさかまた私、やらかしてしまったとか!?」

「リーゼリット嬢のやらかしは、いつものことなので気にしてはいないが……。君の侍女がいないうちに、伝えておこうと思ってね」


 そう言って、向かい合わせで座っているシュジュアが深く頭を下げてきた。


「今日はありがとう、リーゼリット嬢。お陰で俺が血眼になって探していた、我がキュール公爵家の家宝をようやく見つけることができた」

「シュジュア様のお役に立ててよかったですわ。私も情報収集に明け暮れておろそかになっている、シュジュア様のお体をずっと心配していたのです」


 私の言葉が響いたのか、シュジュアははにかんでいる。


「……ずっと、ずっと探していたんだ。我が家の象徴たる宝玉を。紛失したとは大掛かりには言えずに、ずっと秘密裏に探していた。それを君が見つけ出してくれたんだ」

「我がノーマン侯爵家にも同じく宝玉がありますが、紛失すればきっと、私も同じようになっていたことでしょう。見つけ出すことができて、本当によかったですわ」


 シュジュアはずっとはにかみながらも、言葉にして感謝を伝えてくれる。


「……こうして俺が、キュール公爵家の一員として胸を張れるようになったのは、君の力なんだよ。リーゼリット嬢、君はそれだけのことをしたんだ」

「そんな大袈裟おおげさな……。今日のことは、私だけの成果ではありませんわ。それに、最終的に宝玉"ホープ"の場所を突き止めたのはシュジュア様ですし、元の黄金色に戻したのもシュジュア様ではないですか」


 今日私が行ったことというのは、刺繍交流会に参加したぐらいだ。


「情報屋を続けていてよかったよ。途中で挫けそうになったことが幾度もあったが、君に出会えるきっかけになった」

「あまりあの恥ずかしい行動につきましては、思い出さないでください。それにあのときは、私情も挟んでいたので」


 実際にあのときは私情ばかりで、オペラグラスを片手にシュジュアを見ようとしていたのは事実だ。


 先程まで向かい合わせに座っていたシュジュアが、いつの間にやら同じソファに隣り合わせに座ってくる。

 そして、私の片手をシュジュアの片手でしっかりと繋いできた。


「以前から君のことが気になって仕方がなかったが、今日になってようやく確信した──」


 シュジュアはこちらを向いて、真剣な眼差しで私をまっすぐに見つめてくる。

 これは現実かと疑ってしまったが、決してまやかしなどではない。


 シュジュアは、俄然がぜん本気の表情で囁きかけてくる。


「俺は、君のことを愛していると──」


 愛している??

 愛している──。

 愛している───。


(えぇぇぇぇぇえええ~~~~~!!)


 私は心の中で、大絶叫をあげた。



 *****



 その後はシュジュアの事務所から、どうやって帰ってきたのかはよくわからない。

 私はいつの間にやら、我が家のノーマン侯爵邸に戻ってきていた。


「お嬢様、帰ってくるのが遅いです! 刺繍交流会がこんな時間まであるわけがないですよね。どうして、こんな時間になるまで帰ってこなかったのですか!」

「そんなどころではないのよ、ジェリー。私、明日からどうやって学園生活を送ればいいのかわからないわ」

「わからなくて結構ですから、とりあえず食事と入浴はお願いします。それ以降なら、いくらでもベッドで悩んでくださって結構ですから」


 私は侍女にされるがままに食事と入浴を行って、ベッドでひたすらに寝返りを打っていた。



 シュジュア様が、この私を『愛している』ですって~~~!?

 私はただの侯爵令嬢よ!

 そして、元・悪役令嬢なのよ!!



 理解をしたくても、納得ができない。


 だって、今回は本当に刺繍交流会に参加しただけなのだ。

 刺繍交流会に参加して、モジュール伯爵夫人に刺繍を教えてもらっただけなのに。


 キュール公爵家の"ホープ"の場所を突き止めたのは私だ。

 でもそれは、聖ワドルディにヒントを教えて貰えたからだ。

 私一人では、キュール公爵家の親類という情報だけからは割り出せなかった。


 それに──。


 シュジュア自身が交流会に参加したからこそ、モジュール伯爵夫人との談話の時間が取れた。

 "ホープ"の場所をモジュール伯爵夫人の目線から判断したのは、他でもないシュジュアである。

 "ホープ"の色を黄金色に戻す手段は私の考案であったが、それを実行したのはシュジュアだ。


 シュジュア本人がやったことばかりで、私自身はほとんど何もしていない。

 シュジュアの頭の中で、私のお陰になっていることの方がおかしいのだ。


 ただ──シュジュアの運命は変えられた。


 情報収集に明け暮れて、体も心も壊してしまうシュジュアは、もうこの世界には存在しないのだ──。


 そう考えると、とにかく嬉しくてたまらない。



 やったわ!

 やっと、1人目の原作改変を成し遂げたわ!


 もうシュジュア様は、苦難に満ちあふれた人生を歩まなくて済むのよ!

 もうシュジュア様の、必死かつ覚悟を決めた眼差しを見なくて済むのよ!


 眼差し?

 眼差し──。


 ああぁぁぁぁぁあああ~~~~~!!


 また、シュジュア様の『愛している』を思い出してしまったわ~~~!!


 あれは、宝玉"ホープ"が見つかった極度の安心による気の迷いよ!


 そうだわ!

 きっと、そうに違いないわ!!



 私は無理やりにでも現実逃避をして、就寝を優先することにした──。


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