2輪
「こんなところに一軒家なんてあったか…?」
いや、なかった。絶対になかった。少なくとも半年ほど前までは。
この辺りはヴィンテルに向かうとき、馬の休憩所として使える綺麗な泉があるので割と通るのだが、いつの間にこんな一軒家が…。
建設許可出てるのか…?なんてのは今はどうでも良いが。
仕事を何とか終わらせて手紙の真偽を確かめに来たはいいものの、いざ見つけたら見つけたで胡散臭くなってくる。
まだ太陽は明るいが、そろそろティータイムの時間だろうか。
もしかしたら買い出しなどで出払っているかもしれないが何にせよ怪しすぎる為、そのドアを叩こうとしたその時、後ろから呼び止められる。
「こんにちわ…?」
「!」
「身分が高い方のようですが、こんな辺鄙な場所に何がご用事でも?もしかして、道に迷われたとかでしょうか?」
「いや…変な話かもしれないがこの辺りに『願いを叶える少女』がいるという噂を耳にして真偽を確かめにきたんだ。そういった話を聞いた事はないか?」
まぁ簡単には教えないだろうと知りつつも、もう情報が真実かどうか確かめる人すら見つかりそうにない。
ダメで元々のつもりだったのだが、その人物から得られた答えは意外なものだった。
「あぁ〜なるほどですね!今ちょうど起きていらっしゃると思うのでどうぞ寄ってってください〜」
「いや、知らなくて当然だ。協力に感謝する……今何と?」
「お嬢様〜、お客さまです〜!ご案内しますね〜」
と目の前の少女が声をかけると家の中からチリンチリンと鈴の音がする。
こんなにあっさり見つかってしまった事に呆然としてしまったがドアを開けていただいているので家に上がらせてもらう。
中は広いとは言えず、必要なものが最低限と花が生けられた花瓶ぐらいしか無いのだが何とも言えない既視感と心地よさに包まれる。
案内された方に歩みを進めると、一つの部屋の前に案内された。
ノックをしてからドアを開けるとそこには言葉にならないような儚さを纏った少女が1人、ベッドの上で体を起こし虚な青の瞳で窓の向こうを見つめていた。