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幼女殿下のお守り役〜拾った幼女は未来の魔王妃でした〜  作者: 語部シグマ
序章:男は少女と出会う
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シドが去った伯爵家にて・その1

 シドがポラリスと共に旅をしていた頃────シドが去った後のアルトバイエルン伯爵家の屋敷では、当主であるニルギリーがシドを追い出し清々とした表情で椅子にふんぞり返っていた。



「ふはは!あの邪魔なシドを追い出す事が出来たし、奴が今まで築き上げてきた信頼も功績も全て私のものにしたし、これで私は名を知らしめる事が出来るぞ!」



 部下の功績を横取りするという領主らしからぬ行いを自慢げに話すニルギリーに対し、そばにいた使用人達は一同に彼を褒め称えていた。



「流石は旦那様に御座います!それに領民達の話ではシドは馬すらも買えずにこの街を去ったそうですぞ?」


「馬鹿な奴だ。この私に従っていれば今頃ひもじい思いをせずに済んだものを.......」


「馬鹿だからこそ、旦那様の素晴らしさが分からなかったのでしょうな」


「違いないな!よしっ、今宵は盛大に祝おうではないか!せっかくだから豪勢にな!何なら街の者達も招待しよう!」


「流石は旦那様!なんと懐の大きい方でしょう!かしこまりました、直ぐに用意させましょう」


「任せた!おっ.......そこにいるのは我が愛しのセラではないか!」



 偶然ニルギリーの前を静かに通り過ぎようとしていたセラは名を呼ばれ、心の中で〝げっ.......〟という声を上げた。


 しかしそれを表情に出さず、いつもの無表情でニルギリーに挨拶をする。



「これはこれは旦那様.......私のような者にお声をかけて下さりありがたき幸せ」



 セラはカーテシーをしながらそう挨拶をするが、その声には一切の感情が含まれていなかった。


 しかし愚鈍なニルギリーはそれに気づく様子もなくセラへと近寄ると、断りもなくその腰に手を回した。



「セラ、今宵は豪勢で盛大な宴を催そうと思っている」


「そうなのですか?いったいどのような理由での宴なのでしょうか?」


「もちろん、愚かなシドを追放した記念としての宴だ」



 セラは思わずニルギリーの顔面を殴りそうになった。


 拳を握り締め、震えながらもそれを我慢しニッコリと笑ってニルギリーを見る。


 その目は一切笑っていなかったのだが、やはりニルギリーは気づかない。



「それは喜ばしい事ですね」


「そうだろう?そうだろう?そして、宴にはもう一つ理由がある」


「それは何でしょうか?」


「私とセラの結婚報告だ!」



 セラは胃の内容物が込み上げてくる感覚に苛まれた。


 笑顔のまま固まった表情で、込み上げてきたものが漏れ出ぬよう必死に耐えている。


 今すぐにでも吐き出してしまいたかったが、さすがに淑女としてそれは如何なものかと思い必死に耐えた。



「わ、私のような者を伴侶になどと.......恐れ多い事です。旦那様には私のような者ではなく、もっと相応しいお方がおられますよ?」


「セラ以外に相応しい者などおらぬ。私の隣にはセラが相応しいのだ」



 全身の鳥肌と毛が総毛立つ感覚がセラを襲った。


 〝ヒィィィ〟という声が思わず漏れ出てしまいそうになったが、それは自身のスカートを握り締めることで何とか耐え抜いた。


 しかしニルギリーの気色悪い愛の囁きは止まらない。


 そして遂に〝セラ〟という名の火山が大噴火する言葉が発せられる事になる。



「宴が終わったあとは早速、初夜を迎えることにしよう!うむ、私とセラの子なら、きっと素晴らしい存在に成長するだろうな!」


「ふざけるな、この豚がぁぁぁぁぁ!!!!」


「くぁwせdrftgyふじこlp────!!?」



 セラの強烈な回し蹴りはニルギリーの男のみ持つ急所へと吸い込まれるようにしてクリティカルヒットした。


 ニルギリーは自身の股間を抑えながらその場にもんどりを打って崩れ落ちる。



「先程から聞いていれば.......何故、貴方のような屑で下衆な男に私が靡かねばならないのですか?!それに私が貴方ごとき豚に身体を許すとでも?私が心よりお慕いしておりますのはただ一人.......シド・ヴェノムヴェイン様のみです!決して貴方のような豚ではありません!」


「セラ、貴様!旦那様になんたる無礼.......!」


「えぇ無礼な行為ですね!なので私はたった今この時をもってこの屋敷から立ち去らせて頂きます!今後二度とお会いすることは無いでしょう!」


「貴様.......ここを出たとして宛は無かろうが!」


「この伯爵領では無いでしょうね。でも魔王領ではどうでしょうか?あそこは貴方のような伯爵程度の発言で私の次の就職先に口出し出来ないでしょうしね!」



 セラは〝それではお世話になりました〟と頭を下げてから直ぐに荷物を纏め、屋敷を出ていった。


 そしてそのまま街を出て、魔王領へと向かうのであった。


 ちなみにメイドであるセラがたった一人であの森を抜けれるのだろうかと疑問に思う者もいるだろう。


 だが実は、セラは戦闘にも覚えがあり、シドに技を教わった人物である。


 アルトバイエルン伯爵家唯一の戦闘メイドであるセラはこうして伯爵家から去っていった。


 これにより伯爵家の没落までのカウントダウンが更に縮まることになる。



(シド様と会うことも無いでしょう.......しかし、このセラは何となく、このまま魔王領へと向かえば貴方に会えるような気がするのです)



 セラは行く.......次の自身の居場所へと。


 そしてこの時にセラが感じた予感がその通りになろうとは、この時のセラ自身でさえ知る由はなかった。


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