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幼女殿下のお守り役〜拾った幼女は未来の魔王妃でした〜  作者: 語部シグマ
序章:男は少女と出会う
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少女に魔族のことを教える

 魔族────それは膨大な魔力をその身に有し、魔法に長け、あらゆる魔法を振るう存在。


 その容姿は主に角が生えていたり、翼を持っていたり、尾を生やしていたりと様々だが、全て人族とは違う容姿である。


 どれほど濃度が高い魔素の中でも生活することができ、魔素を取り込み魔力に変換することが出来る唯一の存在でもある。


 また人型に近ければ近いほど強力であるとも言われ、初代の魔王は人族と変わらない見た目であったともされている────



「〝故に魔族は数こそ他の種族より少なかれども、優れた種族であると言えよう〟.......つまり、魔族にも色々いるんだね?」



 書店で買った本を朗読しながら、ポラリスは俺にそう問いかけてきた。



「魔族とは本来は〝魔素を糧とする種族〟という意味でな。故に魔素自体を食料として生きる魔族も多い。人族では〝魔族は人族を食べる〟なんて噂が広まっているが、そんなん出処不明のデマだ。魔素を糧とする魔族がなんでわざわざ人を食べなきゃならないのか.......」


「どうしてだろうね?皆知らないだけでどこかに人を食べる魔族がいるのかも?」


「そしたらそいつは魔族ではなく〝魔物〟だ。魔族と魔物の違いはソコでもあるからな」



 俺はそう言うと手にしていた小枝を目の前の焚き火に放り込んだ。


 今、俺達は先程の街から出て魔王城を目指し移動している。


 そしてその途中で見つけた川の川辺で休憩を取っているのだった。



「そういえばシドはそれが魔族の姿なの?それとも人に化けてるの?」


「人に化けてる時の姿だな。俺の魔族としての姿はちょいと異端なんだ」


「見てみたいなぁ」


「はぁ?好き好んで見るようなもんじゃねぇぞ?」


「それでも見たい!」


「はぁ〜.......ったく、見ても泣いたりすんじゃねぇぞ?」



 俺はその場で立ち上がると、少し離れて人化を解く。


 すると俺の周囲を魔素が包み、次第に肌は黒く染まっていった。


 そうしてポラリスの目の前には肌は漆黒の闇のように深く暗い黒色に染まり、そこから緑色の眼光が光る人型の何かとなった俺がいた。


 ちなみにだが服はそのままである.......この服は俺の古い知り合いが作ってくれた、唯一俺の力の影響を受けないものである。


 とにかく俺の姿を見たポラリスはその場で目に涙を浮かべ────る事はなく、目を輝かせながら俺の周りをクルクルと回り始めた。



「かっこいい〜!なんで肌が真っ黒なの?尻尾や羽根、角は無いの?」



 キャーキャー叫びながら興奮気味にそう捲し立ててくるポラリスに思わず呆気にとられてしまう。



「怖かねぇのか?」


「別に?だってどんな姿でもシドはシドでしょ?」


「まぁ.......そうだな」



 今まで俺の魔族としての姿を見た者達は全員が揃って表情を引き攣らせていた。


 中には心底脅えてしまい、逃げ出す者までいる始末.......故に俺はいつしか魔族としての姿でいることは無くなった。


 それに比べてポラリスは、こちらが呆れてしまうほどに気丈な奴であった。



「俺は元からこういう魔族なんだよ。邪神族という稀少な種族らしくてな.......だから親もいなけりゃ兄弟もいねぇ」


「だから角とかも無いの?」


「そうだ。だから昔から魔王に.......────って、この話はいいか。とにかく、そこら辺の有象無象に後れを取るような事はねぇってわけだ」


「へ〜.......ちなみにシドはどんな特性があるの?」



 〝特性〟────それは魔族のみにある固有スキルのようなもので、それぞれにその種族の特性が備わっている。


 例えば魔族としては有名どころの吸血鬼族には対象の血と共に魔力や生気を吸う〝吸血〟や、自身や他者の血を操る〝血界術〟といった特性が備わっている。


 他の魔族もそれぞれに特性があるのだが、特性は個人ごとではなくその種族共通の能力である。


 しかし、奇妙なことに俺のような〝邪神族〟はそれぞれに違う特性を持っているのだ。


 そしてその俺の特性というのは.......。



「俺の特性は〝虚無〟だ。〝虚空〟とも言われているな」


「虚無.......?」


「こういうもんだよ」



 俺は首を傾げるポラリスの前で焚き木を手に取ると、その手だけ魔族化させた。


 すると焚き木が薄く黒い球体に覆われ、その球体が収縮すると共に、瞬く間に球体ごと消え去った。



「俺の特性〝虚無〟は全てを消し去る能力だ。たまに〝消滅〟と同一視される時があるが、こちらは絶対に防ぐことが出来ず、それでいて一瞬だ」



 俺はその後に、その特性を武器に宿して使うことも可能だと教えると、ポラリスは少し呆けた後に手を叩いて賞賛していた。



「凄い特性だね!もしゴミが出てもゴミ箱要らずだね!」


「ゴミば────?!」



 ポラリスの斜め上の感想に思わず途中で言葉を失ってしまう。


 未だかつてこの特性を知った者でそのような事を言う奴は誰もいなかった。


 誰しもがこの特性に恐れ慄き、そして俺を避けていた。


 古き知人達でさえも俺と一線を引いて接してきたというのに、目の前のポラリスは恐るどころかそんな寝ぼけた事を言い放ったのである。


 これには俺も思わず絶句せずにはいられなかった。



「どうしたの?」


「いや.......そんな事を言ったのはお前が初めてだよ.......」


「だって本当のことじゃない?結局、その能力をどう使うかはその人次第でしょ?それに私がいた世界ではこんな言葉があるの。〝馬鹿と鋏は使いよう〟って」


「馬鹿と鋏.......それはどういう意味だ?」


「え〜?例えばどんなにお馬鹿な人でも、ちゃんとその人のことを考えて動かせば、ちゃんと結果を出すことが出来たり、鋏だって本来は紙とかを切るのに使うけど、使い方を間違うと人を殺しちゃう凶器になるよね?」


「まぁな.......」


「つまり、どんなものでも使い方次第で役に立つか否かが変わってくるって意味なの」


「なるほど.......俺のこの特性も使いようってわけか」


「そういうこと♪︎」



 俺はポラリスの言う〝馬鹿と鋏は使いよう〟という言葉は分からねぇが、とりあえず彼女が言わんとしている事は何となく理解出来た。


 多分、彼女は俺の事を励ます意味でもそんな話をしたのだろう。


 俺がポラリスのそんな気遣いに少しばかり感心していると、彼女は何やら紙を丸めたものを俺に手渡し、そしてニコッと笑みを向けてきてこう言った。



「だからこれもお願いね?」



 うん.......先程の感心は訂正しよう。


 こいつは体良く俺をゴミ箱代わりにしたいだけのようだ。


 とりあえず俺はニコニコしているポラリスの頭にゲンコツを落とすのであった。






 ◆






「そういえばシドってお城が嫌いなの?」


「なんでそう思った?」



 休憩を終え、再び馬で移動を始めた際にポラリスがふとそんな事を聞いてきた。



「だって.......お城に行くってなった時、どこか嫌そうに思えたから」



 意外と勘の鋭いポラリス。


 確かに俺は城へ行くことに少しばかり抵抗がある.......しかしそれは〝嫌悪している〟からではなく、〝とある事情〟により、城に行きづらいのである。


 まぁ、その事情について話す気は一切無い。


 なので俺はその答えをはぐらかす事にした。



「別に.......俺はそういった格式ばった所が苦手だってだけだ」


「本当に?」



 なんでコイツはやたらとこういう事に鋭いんだ?


 俺がそう訊ねると、ポラリスは〝女の勘〟という訳の分からない答えを返してきた。


 左様ですか.......。



「まぁ、ともかく.......好き好んで城へ行く奴はそうそういねぇな。魔族は魔王に忠誠を誓っちゃいるが、基本は自由なんだよ」


「魔王様に忠誠を誓ってるのに自由なの?」


「自由を愛しているってだけだ。別に好き勝手してる訳じゃない。自由を謳歌しつつ、魔王の為ならば何でもするってことだ」


「皆、魔王様の事が好きなんだね?」


「当然だ。魔族あっての魔王、魔王あっての魔族.......持ちつ持たれつで、だからこそ良好な関係を築けているんだ、魔族大陸はな」


「でも、中には魔王様に反抗している人もいるんじゃないの?」


「もしそういう奴がいたら、ソイツはとんでもなく阿呆な奴か、命知らずの馬鹿だろうよ。そんな奴が打倒魔王と謳ったところで、周囲の奴らから袋叩きにされるのがオチだな」


「そんなに?」


「そうなって当然なほど、魔王は絶大な信頼をされているんだよ。なにせ、未だかつて暴虐無尽な魔王はいなかったからな。まぁ今はまだ二代目だからだが、それでも先代である初代魔王も、今の魔王も魔族の事を大切に考えてくれている人だしな」


「随分と知ってるような口ぶりだね?」


「だから大戦前から生きてるって言ったろ?」



 〝そうだった〟とポラリスは俺の前で可愛らしく舌を出していた。


 俺はやれやれといった様子で馬を進めてゆく。


 そろそろ次の領との境にある関所が見えてくる頃だろう。



「少し飛ばすぞ?しっかり掴まってろ」


「うん」



 ポラリスが俺に抱きついてくるのを確認してから、俺は馬の速度を少し上げたのだった。


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