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幼女殿下のお守り役〜拾った幼女は未来の魔王妃でした〜  作者: 語部シグマ
序章:男は少女と出会う
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少女、自身の身の上話をする

 私、北山 星那(きたやま せな)は日本に住む女子高生だった。


 様々なことを学び、仲の良い友人達と笑い、楽しみ、そして遊び、時には恋バナをしたりして、青春を謳歌していた普通の高校生だった。


 けれど.......。


 私はある日、家に帰る途中で車に撥ねられてしまった。


 私を撥ねた人はしきりに〝お前の父親のせいで!〟とか〝あのクソ上司ざまぁ〟なんて言ってたけれど、意識が薄れゆく私にはよく聞こえなかった。


 そして目が覚めた時には一面見渡す限りの花が咲き誇る景色の中にいた。


 そばには綺麗な女の人がニコニコと私を見ていたのだが、直ぐに姿勢を正すと私に頭を下げてきた。



「ごめんなさい.......貴女はあの場では死ぬ運命ではなかったのに.......」



 〝どういうことですか?〟────そう言おうとするも何故か声が出せない。


 ただ金魚のように口をパクパクとさせているだけなのに、どうやら目の前の女の人は私が言おうとしていることが分かるらしい。


 その場で一つ頷くと、またあの綺麗な声で私の疑問に答えてくれた。



「本来であれば貴女はあの後すぐに助かるはずでした。ですが私の我儘により、貴女の魂をこちらで引き揚げさせて頂きました」


 なんのために.......?


「貴女の魂が、私が創造した世界に住まう魔王の番となるに相応しいものだったからです」


 えっ?!


「驚くのも無理はありません.......本来ならこちらの世界でそれに相応しい魂を見つけるべきなのですが、残念ながら今の時代ではそれに該当する魂を持つ者がいないのです」


 でも.......魔王って人類の敵ですよね?


「それは偏った知識です。魔王や魔族は貴女達のように平穏を望み、家族と共に暮らし、幸福を是としている者達です。争いなど、望んではいないのです」



 女の人の話では、その世界の魔王は文字通り魔族達の王様であって、人間達を滅ぼそうと考えているわけではないらしい。


 そして、魔族の番.......つまり魔王の奥さんになれる人は、それに相応しい魂を持つ人でないとなれないらしい。



 もし.......その〝番〟って人が現れなかったらどうなるんですか?


「魔族は長命です.......しかし彼らも死にます。それは魔王であっても例外ではありません。その魔王の後継がいなければ、魔族達はゆるりと衰退し滅ぶでしょう」


 他の魔族が魔王になればいいんじゃないの?


「魔王はなるべき者がなるべくしてなる存在です。他の者が魔王になる事はなく、たとえなったとしても、それは名ばかりのものとなるでしょう」


 でも、魔族がいなくなったら喜ぶ人が多いんじゃ.......


「人族の大半はそうでしょうね.......しかし、その場合、世界の均衡は崩れ、私の世界は消滅するでしょう。たとえ、〝■■■■■〟がいたとしても.......」


 え?なんて?今、よく聞き取れなかったのですが.......?


「え?あぁ.......思わず重要な単語を滑らせてしまいましたか.......。今のはお気になさらずともいいですよ?」


 はぁ.......それで、もし私が魔王の番になるのを嫌がって、元の世界に戻りたいって願ったらどうなるんです?


「心から願うならば戻しましょう。今ならまだ間に合いますから.......」



 そう話す女の人の表情はとても悲しそうなものだった。


 本当は今すぐにでもお父さんとお母さんの所へ戻りたい.......でも、ここで断ったら、なんだかこの人を見捨ててしまうようでいたたまれない。



 あのぅ.......もしそれを引き受けたとして、私はどうなるんですか?


「貴女は魔王の番として.......魔族として転生します。しかし、貴女がどのような環境で転生するのかは私でさえも選ぶことが出来ないのです」


 それって、もし危険なところに転生しちゃったら私、またすぐに死んじゃうかもじゃないですかー!


「ですので貴女には私の恩恵、加護、祝福を授けます。どのような状況下になろうとも、結果的にそれらは貴女の幸運へと繋がるようにさせて頂きます」


 〝チート〟ってやつですか?


「魔王の番として転生するに至って当然の待遇ですよ」



 私は暫く考え、そして女の人の手を取って転生することを選んだ。



 私、貴女の世界へ転生します!


「本当ですか?!」



 断られると思っていたのか、女の人は驚いた様子でそう話す。



 二言はありません!


「しかし.......貴女にはご両親が.......」


 いいんです。それにもしこれを断って帰ったら、それはそれでお父さんやお母さんに怒られそうですし


「ふふっ.......貴女はとても優しい方なのですね。いいでしょう、それでは貴女の魂を私の世界へと転生致します」


 あの〜、その前に一つだけいいですか?


「何でしょう?」


 貴女のお名前をお聞きしたいんです


「どうして?」


 だって、せっかく出会えたんですから名前を聞きたいのは当然じゃないですか!それに私、貴女と友達になりたいんです♪︎


「友.......達に.......ですか?」


 はい!私、仲良くなった人とはお友達になりたいって考えてるんで♪︎


「友達.......友達.......ふふっ♪︎いいでしょう。私の名は〝アウローラ〟。貴女が転生する世界アルカディアを創造し、そして管理している女神です」


 私は星那!北山星那!セナって呼んでください!


「ふふっ、セナ.......もしかしたら機会があれば私達はまた出会えるでしょう。そうです!セナという名は私と貴女だけの特別な名前とし、貴女には新たに〝ポラリス〟という名を授けましょう」


 ポラリス?


「はい♪︎北山の〝北〟と星那の〝星〟.......貴女が住んでいた世界において〝北極星〟の意味を持つ名前。一番光り輝く、まさに貴女の魂のようなその星の名を、貴女は転生後の世界で名乗りなさい」


 ポラリス.......一番光り輝く星.......はい!ありがとうございますアウローラさん!


「ふふっ、アウローラとお呼びして構いませんよ?なにせ貴女は私の友人なのですから」


 貴女のような綺麗な人とお友達になれるなんて嬉しい!ありがとう、アウローラ


「こちらこそ、貴女と友人になれたこと嬉しく思います、セナ」



 共に笑顔で笑い合う私とアウローラ。


 すると不意に身体を引っ張られるような感覚に襲われる。



「おや?そろそろ時間のようですね.......それではセナ。貴女の新たな人生に幸が多からんことを」


 それじゃあねアウローラ!また会おうね♪︎


「〜〜〜〜〜〜っ!.......はい♪︎」



 こうして私はアウローラと別れを告げ、アルカディアという世界に転生した。


 そして再び目覚めるとそこは深い森の中で、目の前には何人かの男の人達が私のことを見ていた。



「旦那ァ、コイツは中々の上玉のようですぜ?」


「そうだな。コイツも売れば高値で買い取って貰えるかもしれん」



 私を舐めまわすように見ながらそんな不穏なことを話している男の人達.......どうやら私は異世界でよくいる〝奴隷商人〟とやらに目を付けられたらしい。


 私が心の中で〝アウローラのアホー!〟と叫ぶと、どこからか〝ごめんなさぁぁぁい!〟というアウローラの声が聞こえてきた。


 そこまでが、私がこの世界に来た成り行きである。


 そしてその後、奴隷商人の馬車に乗せられた私は、他の子達と共に移動中、怖い動物に襲われたのだが、檻の中にいたおかげで奴隷商人達のように食べられることは無かった。


 しかし他の子達が鳴き始めたので、私はその子達をあやすように子守唄を歌い始めた。


 そして.......その時に私は一人の男の人と出会う事になる。


 どこかの傭兵のように口は悪いけれど、けれど心優しく温かいその人────シド・ヴェノムヴェインについて行こうと心に決めたのであった。


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