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幼女殿下のお守り役〜拾った幼女は未来の魔王妃でした〜  作者: 語部シグマ
序章:男は少女と出会う
4/10

少女、自分が魔族である事を知る

 食事をしたあと、俺は一人でベンチに腰かけ新聞を読んでいた────というのも今は〝とある用事〟を済ませている最中であり、それを待っている間の暇潰しとして読んでいるのである。


 その〝用事〟というのが────



「見て見てシド!すっごく可愛いでしょ?」



 満面の笑みで駆け寄ってくるポラリス。


 彼女の容姿は先程の薄汚れた雑巾のような服ではなく、可憐な衣服を身にまとっていた。


 ポラリスはそんな可愛らしい服を着た自分を俺に見せるようにしてその場でクルンと回り、そして期待を込めた眼差しでそう問いかけてくる。



「お〜、良かったな」



 そう返して再び新聞に目を落とそうとすると、何故かポラリスは不満げな表情となり、到底〝睨み〟とは言えない目で睨みつけてくる。



「なんだよ.......」


「ダメだよ〜、そこはちゃんと〝可愛い〟って言わなきゃ〜」


「似合ってるからいいじゃねぇか」


「え?そう?本当に?えへへ♪︎」



 急に文句を言ってきたかと思えば直ぐに照れ始める.......女のガキというものはよく分からんな。


 そういやセラも幼い頃はよく分からん事で怒ったり喜んでたりしてたっけな?



「えへへ♪︎」



 上機嫌なポラリスは水溜まりに映る自分を見ながらその場で何度もクルクルと回っている。


 そんな彼女が食事の時と大きく違っているのは服だけではない。


 今のポラリスには白い翼と尻尾、そしてその頭にはウサギの耳が垂れたような形の角が生えていた。






 ◆






 食事中にまるで自分が人族であると思い込んでるような言動が目立つポラリスに、俺は店を出た後すぐに彼女を裏路地へと連れていった。



「どうしたの?」



 キョトンとしているポラリスに俺はどうしたもんかと頭を悩ませる。



(この年頃の魔族は親から翼や尻尾を隠す術を教わる.......それは日常生活において翼などが邪魔にならないようにする為だ。しかしコイツに関してはその真逆.......はてさていったいどう教えたらいいものか.......)


「ねぇねぇどうしたの?」



 俺はしばらく悩み、そしてポラリスにこんな指示を出してみた。



「ポラリス、目を閉じて自分の身体の中に意識を向けてみろ」


「目を閉じるのはいいけど.......自分の身体の中に意識を傾けるって言われても分かんないんだけど?」


「イメージ的には井戸の底を覗き込むような.......う〜ん.......あっ、そうだ!」



 今の例えも十分だが、俺はポラリスの足元に円を描く。



「例えばこの円の中は水が張っていて、その中で魚が泳いでいたとする。お前はその魚をもっと近くで見たい。そこでお前はその水に顔をつけた」


「そこまでしなくても見れると思うけど?」


「例えの話だっつってんだろ!いいか?そういうイメージで自分自身の中に意識を傾けてみろ」


「う〜ん、分かった。とりあえずやってみる」



 ポラリスはそう返すと静かに目を閉じる.......変化が現れたのはそれから一分もしない内であった。


 ポラリスの周囲に魔素が纏われ始めたかと思えば、彼女の背中側の服が盛り上がる。


 尻尾も服から覗き始め、角も生え始めてきた。



「シド〜.......」


「どした?」


「背中.......なんかキツいし痛い.......」


「そういやそれ用の服じゃなかったな」



 変化を終えたのを確認した俺は直ぐに腰に差していたナイフでポラリスの服を()ち切る。


 するとそこから彼女の髪色と同じ白銀の翼が待ってましたとばかりに勢いよく飛び出した。


 よく見れば尻尾も白銀色.......角は瞳と同じ紅蓮であった。


 ポラリスの魔族としての姿に俺は驚きのあまり呆気に取られていた。


 何故ならば黒い翼と尻尾が一般的である魔族において白銀の翼と尻尾というのはかなり重要な意味があるからだ。



(大戦の時代.......当時の魔王の前に一人の女性魔族が現れた。その女性は魔族では見たことの無い白銀の翼と尻尾を持っていたという.......まさか、ポラリスは────)


「シド!」


「うおっ?!」



 思考の海に潜り込んでしまっていたのか、突然耳元でポラリスの声が飛び込み、思わずその場で飛び上がってしまいそうになった。



「さっきから黙っちゃってどうしたの?私、そんなに変?というか今の私どうなってるの?」


「あ〜.......それは自分の目で確かめてみた方が良さそうだな」



 俺はそう言ってすぐ側の水溜まりを指で指し示す。


 俺に促されたポラリスは恐る恐る水溜まりを覗き込み、そしてそこに映った自分の姿に声を上げていた。



「なにこれ?!なにこれ?!ナニコレ?!私の頭に角が生えてる?!しかも羽根も!尻尾も?!」


「驚いてるところ悪ぃが少し落ち着け」



 本当にコイツは魔族か?


 俺は食事中でも抱いた疑問を更に大きなものとしていた。


 そしてそばに置かれていた木箱に腰掛けると、思い切って彼女に問いかける。



「お前.......俺に隠してる事が無いか?」


「えっ.......何よ急に.......?」



 どうやら図星だったらしい.......ポラリスは見るからに焦燥に駆られた表情をすると、目を泳がせながら下手くそな誤魔化しをし始める。



「な、無いわよ隠してる事なんて!そ、そうだ!さっきあっちに可愛いお洋服屋さんがあったの!行ってみない?」


「あ〜、確かに新しい服を見繕わなきゃならねぇな」


「そ、それじゃあ直ぐに行きましょ?ね?」


「お前の隠し事について聞いてからだけどな」


「うぅ.......」



 ポラリスは言おうか言うまいか迷っている様子だった。


 見ての通りの子供に尋問じみた事はしたくは無いが、これから旅を共にする以上、隠し事があると信頼性に欠けてしまう。


 しかし.......。



「まぁ言いたくねぇんなら無理して言わなくていい」



 俺はそう言うと立ち上がり、服屋へ向かう為に表通りに出ようとする。


 するとそんな俺の服が少し引っ張られる感覚があり、顔を向けてみればポラリスが意を決した表情で俺を見ていた。



「話す.......」


「無理せんでもいいんだぞ?誰だって人に言いたくない事の一つや二つくらいは.......」


「一緒に旅をするなら、いつかはバレちゃうだろうし.......それに貴方にだけは知っていて欲しいから.......」


「そうか.......」


「でも、絶対に他の人には話さないで!」



 懇願するように不安を滲ませながらそう頼んでくるポラリスに対し無言で頷き了承する。


 そうして俺は人目のつかない所まで移動し、改めてポラリスの身の上話を聞くことにした。


 しかし、その話は斜め上を行くものであった事を、俺はこの後に知ることになるのだった。


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