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幼女殿下のお守り役〜拾った幼女は未来の魔王妃でした〜  作者: 語部シグマ
序章:男は少女と出会う
3/10

少女にこの世界についての説明をする

「なるほど.......つまりお前は歌で相手を操ったり眠らせたり、傷を治すことも出来るわけか」


「うん。〝この人の傷を癒したい〟、〝この人がよく眠れますように〟って願うと、歌詞とメロディが頭の中に浮かんでくるの。そしてその通りに歌うと、本当にそうなるの」


「はぁ〜.......そいつァまた、稀有な能力だなぁ」



 あれから飯を食いに出た俺とポラリスは、近くの食堂で食事がてらポラリスの力について話をしていた。


 しかし聞けば聞くほどポラリスのような力なんて聞いたことも見たことも無い。


 魔物には歌を使って相手を誘き寄せる者もいるが、ポラリスのように様々な効果をもたらす程ではない。


 魔法では無いのだろうが、しかしスキルのような気でも無さそうだ。



「謎だ.......」


「やめてよ!そんな正体不明みたいに言うの」


「まったくもって正体不明なんだがな」


「そんな風に言わなくてもいいじゃない!考えてみてよ?素敵でしょう、歌で傷を治しちゃったりするのって。私、昔から歌うことが好きだったからこの力は本当に嬉しいの」


「昔からって.......お前、今いくつだよ?」


「じゅ────けふんけふんっ!五歳よ!」


「とても五歳とは思えねぇけどなぁ」


「べ、別にいいじゃない!それよりも今度は貴方のことを教えてよ?」


「俺の事?」



 ポラリスが何かを誤魔化したような気がするが、まぁこれから旅を共にするならば少なからずお互いの事は知っておいた方が良いだろう。


 それに、どうにもコイツは世間知らずのような気もするしな。



「まぁ、俺の事を話す前に先ず聞きたいことがある。お前、ここがどういう所か理解しているか?」


「え?それはどういう意味?」


「ここにいる奴らは全員、人間じゃないって事を理解しているか聞いてんだよ」


「そういえば.......確かに皆、角が生えてたり羽が生えてたり.......」



 やはりよく理解していなかったか。


 俺はため息をつくとかいつまんで説明を始めた。



「ここは魔族大陸という、簡単に言えば魔族しか住んでねぇ土地だ。だから人間やその他種族は誰もいねぇ。いたとしても行商人か観光気分で来たお偉いさんくれぇだな」


「.......」



 ポラリスの顔がサーっと青ざめる。


 どうやら自分はとんでもない所にいると思っているようだ。


 そこは訂正しておかねばならないだろう。



「言っておくが魔族が他の種族と戦争をしていたのは遥か昔.......それこそ1000年以上も前の話だからな。今は互いの大陸同士交流を深めようって風潮になってるし、現魔王陛下も親和派だし、大戦なんざ余程のことがない限り起きねぇだろうしな」


「でも、人を襲って食べたりするんでしょ?」


「お前なぁ.......いったいどんな作り話の影響を受けてんだよ?大戦が起きたのも元は人間達が理不尽な理由で戦争を仕掛けてきたからなんだぜ?俺ら魔族は自分達の場所を守る為に戦ったに過ぎねぇンだよ」


「そうなの?」


「つーか当時の対戦は〝人族〟対〝亜人、獣人、龍、魔族連合〟だったしな」


「え?人間だけだったの?」



 衝撃の話にポラリスは心底驚いた顔をする。


 俺は対戦時の人間の振る舞いについて一つ一つ教えることにした。



「当時は.......いや当時〝から〟、人族は欲深い生物だった。しかも傲慢で自分達こそ至高の存在だと信じて疑わなかったんだ」



 〝から〟と訂正し強調したのは今も尚、人族による亜人や獣人、魔族を対象とした奴隷の売買が横行しているからである。


 特に亜人に含まれる人魚族などは今も高値で取引されているらしい。



「人族は次第に他の大陸の土地や、そこで採取される資源を我がものにしようと思い始めた。それ故に先ず標的となったのが獣人達だ。ポラリス、お前はどの大陸にどの種族が住んでるかなんて.......知らねぇか」



 訊ねるようにして言葉の端をすぼめると、ポラリスは無言で首を横へと振った。



「え〜と.......そこのお嬢さん。申し訳ねぇが世界地図なんてねぇか?」


「世界地図ですか?ちょっと店長に聞いてみますね〜」



 羊のような角が特徴的なウエイトレスはパタパタと店の奥へと姿を消す。


 そして暫くして綺麗に折り畳まれた地図を手に戻ってきた。



「前にお越しになられたお客様が忘れていったものですが.......こちらでも宜しかったですか?」


「構わない。それにしても丁度よくあったものだな?」


「なんでも世界各国を旅しているお客様だったらしくて、これの他に様々な国や各大陸の地図をお持ちになっていたので大丈夫だとは思いますけれど.......」


「まぁ何にしても運が良かった。お礼といっては何だが、グァラの果実酒とオレンの果実水を一つと、コイツにカラオケーキを一つ注文しよう」


「はい、かしこまりました♪︎」



 注文を受けたウエイトレスはパタパタと厨房へと向かって行った。


 そのタイミングでポラリスがジト目をしながらこちらを見てくる。



「こんな真っ昼間からお酒飲むの?」


「果実酒と言ってはいるが、俺らからしてみれば果実水のようなものだ。他の酒と違い微々たるもんだから、まぁ食事と共に嗜む程度の奴のための飲み物だな。さてと.......」



 空いた食器をまとめて端へと寄せ、テーブルの上に渡された世界地図を広げる。



「どうせ読めねぇだろうから一つ一つ指さしながら説明するぞ?」


「大丈夫、ちゃんと読めるから」


「お前は本当に子供か?まぁ、それについては今はいい、先ずこの世界にある大陸は全部で五つ.......人間大陸、亜人大陸、獣人大陸、龍大陸、そして俺らが今いる魔族大陸だ」


「この真ん中にある小さな島は?」


「そこは〝精霊島〟と言ってな。精霊王が統べる精霊だけが住める島だ」


「私達がその島に行ったらどうなるの?」


「残念ながらそれは答えられない。何故なら未だかつてそこまで辿り着いた奴がいないからな」


「そうなの?」


「そう.......なんだが、厳密に言えば一人だけしかいなかった」


「一人だけ?」


「そうだ。唯一この島に辿り着いた者.......それは当時の人族の勇者だ」


「勇者!」



 〝勇者〟という言葉に妙に反応するポラリス。


 どこか興奮しているような、喜んでいるかのような顔を浮かべているポラリスだが、そんな彼女も魔族であると自覚しているのだろうか?


 かつて人族に〝聖女〟と呼ばれる存在がおり、その聖女も白銀の髪を持っていたが、瞳の色は銀色であった。


 血のように紅い瞳は魔族特有の色なのである。


 話が少し逸れた.......ともかく唯一この島に辿り着いた勇者はその後、精霊王の加護や祝福を受けて長きに渡る戦争を終わらせることになる。



「さて、その精霊島の真上にあるのが魔族大陸だ。この大陸のみ〝魔素〟と呼ばれるものが漂っててな。人族はこれを〝瘴気〟と呼んでいる」


「危険なの?」


「そう思い込んでんのは何も知らねぇ人族だけだ。魔素ってのは魔力の素となるもんなんだ。ただあまりにも濃度が高いと暴走し、人体に何かしらの害を与える事は既に解明済みの事実だ」


「そうなんだ」


「人族の中には魔素を全て浄化すれば自分達も住めるだろうと考えてる奴らもいるが、実際に出来たとしたら魔法が使えなくなって苦労するだろうな」


「説明通りならそうなっちゃうね」


「まぁ、この地は無限に魔素が湧き出る土地なんでな。全てを浄化するなんざ無理な話だがな」



 俺はそう締め括ると、次に魔族大陸の、俺から向かって右隣.......地図上の西側にある大陸を指さす。



「ここが人間大陸だ。ここにいるのは全員が人族だ。そしてその次.......下にあるのが獣人大陸、その次が亜人大陸、そして龍大陸となる。人族達はその順番で大陸を支配しようとしていたんだ」


「人間達は魔族が嫌いなのに、一番最後にするの?」


「そこが人族の狡賢さだな。魔族以外の種族を蹂躙し、支配し、奴隷にする事で魔族を圧倒しようと目論んでたんだ。まぁ、直ぐに亜人大陸のエルフ族や龍大陸の龍人族達が介入した事で事なきを得たがな」


「エルフさん達やドラゴンさん達が助けたんだね。でも、別々の大陸に住んでるからお互いに仲良くないと思ってた」


「お前.......魔族のくせに随分と人族みたいな事を考えるんだな?」


「私は人────.......魔族?」



 何かを言おうとして直ぐにコテンと首を傾げ出すポラリス。


 おいおい.......まさか本当に自分が魔族だなんて思ってなかったわけじゃねぇだろうな?


 俺はふと考え込むと、一つ試してみるかと思い至った。


 その頃には注文していた飲み物やケーキが届き、とりあえずはそれを頂いてからだなと、俺は果実酒に口をつけるのだった。


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