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幼女殿下のお守り役〜拾った幼女は未来の魔王妃でした〜  作者: 語部シグマ
序章:男は少女と出会う
2/10

少女を拾い、街へと向かう

 ガラガラと音を立てて走る荷車────


 それを引くは真っ黒な影のような馬……そして御者の位置にてその手網を握る俺の隣には白銀の髪と紅い目を持つ少女が一人。


 俺達は今、次の街へと向けて移動をしている。


 目的は今、荷台で寝ている子供達を引き取って貰うためだ。


 未だあの馬鹿息子の領地内というのは甚だ遺憾ではあるが、流石に十数人もの子供達を連れて旅を続けることなど出来ない。


 まぁ、そうする事に決めるまで一悶着があったのだが……。






 ◆






 俺に気づいた少女は警戒心を露わにしていた。


 多分、俺の事を人攫い屋だか何だかと勘違いしていたのだろう。


 子供ながらに威嚇する彼女は可愛いものだったが、しかし誤解を解いてしまわないと話をするに出来ない。



「あ〜……警戒する気持ちは分からんでもないが、とりあえず俺はお前らの敵じゃない」


「……」



 どうにも子供を説得するという事に関して俺は下手くそだと思う。


 そういや昔、セラと出会ったばかりの頃も打ち解けるのにかなりの時間を有した記憶があるな。



「全てを信じてくれとは言わないが、せめてお前らを無事に送り届けるという事だけは信じてくれないか?」



 俺はそう言うと檻の鍵を壊し、その扉を力任せに取り外した。


 その音のせいで子供達が起きてしまったものの、俺は子供達を他所に檻の扉を放り捨て、そして数歩程その場から離れる。



「.......?」


「追いかけはしない。捕まえることもしない。逃げるなら好きに逃げればいい。ただ、この森を無事に抜けられる保証は出来兼ねるが.......」



 子供達はそこから動かなかった。


 代わりに先程の少女が自ら前へと出て俺の前へと降りてくる。



「さっきも言った通り俺はお前らが逃げようと追いかけねぇし捕まえることもしねぇ。だが、逃げた先でどうなろうと関与は一切しない」


「なら、貴方と一緒に逃げるわ」


「.......はぁ?」



 少女が言い放った言葉に思わず拍子抜けしてしまう。


 流石にこの返答は予想していなかった。



「あのなぁ.......俺がお前らを連れていくことに何のメリットがある?」


「ん〜.......奴隷商人から私達を助けたという名誉かな?」


「そんな名誉なんざ要らねぇンだが」



 不思議なことに目の前にいる少女はどうにも年相応には思えない程、大人びた喋り方をしていた。


 何となく子供というより大人と会話しているようだった。



「俺は自ら好き好んで誰かを救うような奴じゃねぇぞ?」


「それは嘘。もしそうなら、今こうして私とお話してないでしょ?」


「逃がすと思わせて、やっぱり捕まえて売り飛ばすかもな」


「それなら、わざわざ檻なんて壊さずにそのまま売りに行けばいいのに」


「お前.......本当にガキか?」


「見た目はね」


「あん?そいつァいったいどういうこった?」


「そこまでは教えてあげない。教えて欲しかったら私達を街まで送り届けて」


「チッ.......妙な奴と出くわしたもんだ.......」



 俺は頭をガシガシとかくと、荷車の前に二体の影で作られた馬を出現させる。



「あら?私のお願いを聞いてくれるの?」


「聞かなかったら後が怖そうだ。だが、次の街まで送り届けたら、お前らとはそこでおさらばだからな」


「分かってるわ」



 俺は中にいた子供達に街まで送り届ける事を伝えてから幌を閉める。


 そして御者席へと座ると、何故か少女が俺の隣へと座った。



「おい.......」


「いいじゃない、後ろに乗ってても暇なんだもの。ところで私の名前は〝ポラリス〟って言うの。貴方は?」


「名乗る義理はねぇな」


「名乗ってくれなきゃ次の街で〝奴隷として売られちゃう〟って叫んでやるんだから」


「.....................〝シド〟だ」



 どうにもこのポラリスという少女は人を手玉に取るのが上手い。


 俺は大きくため息をつくと、ゆっくりと馬車を走らせるのであった。






 ◆






 そうして馬車を走らせること数時間後.......日はすっかり昇り、俺達は次の街へと到着した。



「止まれ。荷の確認をしたいのだがいいか?」


「あ〜、確認する前にちと話しておきてぇ事があるんだが?」


「それは今じゃないと駄目なのか?」


「荷台の中についてだ」


「分かった」



 俺は門番を連れて馬車から少し離れると、この馬車は森の中に放置されていたこと、荷台の中は子供達しか居ないこと、この馬車の持ち主は奴隷商人の可能性が高いということ、そして持ち主は魔獣に襲われ食われたかもしれないということを包み隠さず全て話した。



「ふむ.......魔王様の発令により奴隷の売買、また所有することは禁じられている。まさかそれに逆らう者がいたとは.......」


「囚われていた子供達が全て魔族であることから、奴隷商人は魔族では無いかもしれない」


「まさか.......他の大陸の者か?」


「食われっちまったせいでそこまでは分からねぇが、ともかく子供達の引き取り手を探している」


「むぅ.......生憎とこの街には施設などは無い。次の街ならば施設があるのだが.......」


「すまねぇが流石に俺一人で面倒は見きれねぇぞ?」


「そうだろうな。もし良ければ我々が一時的に保護し、もし家族がいる者には送り届けられるが?」


「願ってもない事だ。俺はこれからまだ旅を続けるんでね」


「そうか.......しかし、見ず知らずの子供達を無事にここまで送り届けてきてくれた事、感謝する」


「いいって。成り行きだっただけだしよ」



 俺はそう言うと子供達を門番達に任せることにした。


 先程の門番は他の門番に指示を出し、俺はポラリスに保護してもらえることを伝えた。



「つー事でお前らとはここでお別れだ。達者で暮らせよ?」


「元気でね!もう掴まっちゃダメよ。」


「うん、待て待て待て待て」



 ごく自然に俺の隣で子供達を見送ろうとしていたポラリスを抱き上げ、馬車へと乗せる。



「ちょっと?!」


「言っただろ?連れてくるのはこの街までだって。あとは彼らの言うことを聞いて連れてって貰うといい」


「嫌よ!私は貴方について行く!」


「俺の旅はなんの宛もない危険なものだ。流石にお前を守りながら魔物や魔獣とは戦えねぇよ」


「その時はちゃんと隠れてるから!」


「なら今から隠れてるんだな!」



 俺は最後にそう言うと勢いよく幌を閉めた。


 そして馬車を門番達に託し、街の中へと入ろうとしたその時だった。



「〜〜〜♪︎」


「────っ?!」



 突然、荷台から歌声が聞こえ始め、門番達は勿論、周囲にいた商人や冒険者、また旅人達がその歌声に聞き惚れる。


 しかし俺が驚いたのはそこでは無い。


 ポラリスが歌う歌詞は何か懇願するかのような内容で、それを聞いた門番達が彼女を降ろし、俺の前へと連れてくる。



 ──願うならば〜♪︎彼と共に〜♪︎


 ──旅をして行きたい♪︎


 ──その為に手助けして欲しい♪︎


 ──彼を説得して欲しい♪︎



 歌はまだ続き、気づけば俺は周囲の奴らから一斉に睨みつけられていた。



「おいおい、こんな可愛い嬢ちゃんの言うことを聞いてやってもいいじゃねぇか」

「そうよ!私が貴方だったら素直に連れてってあげるわ!」

「申し訳ないが、我々は君がこの子を連れてゆくべきだと判断する」


「いったいどうなってんだこりゃ.......なんでいきなり.......?」



 戸惑う俺にポラリスが歌いながら微笑む。


 その笑顔に俺は直ぐに〝してやられた〟という事に気づいた。


 ポラリスの歌声には魅了のような効果が含まれている可能性があった。


 彼女は自らの歌声で周囲の者達を操っているのである。



「どう?私って結構やるじゃない?」



 歌い終えてドヤ顔でそう話すポラリス。


 俺はそんな彼女を見据えた後、キョトンとしている門番にこう伝えた。



「やっぱりこの子だけは俺が連れていくことにする」


「え?あ、あぁ.......それは構わないが.......そちらのお嬢さんはそれでいいのかね?」


「もちろん♪︎」



 可愛らしく俺に抱きつきながらそう答えるポラリス。


 門番達はそれ以上の詮索はせず、馬車をゆっくりと移動させ始めた。


 それを見届けた俺は直ぐにポラリスを担ぎあげると、直ぐに宿へとチェックイン。


 幸いにもこの街は馬鹿息子(ニルギリー)の手は回ってはおらず、宿を取るのは容易であった。


 俺は案内された部屋へと入ると、勢いよくポラリスをベッドの上へと放り投げる。



「ちょっと!」


「〝ちょっと〟じゃねぇ.......お前、何をしやがった?」


「何って.......?」


「さっきの歌だよ!お前、アイツらを操ったのか?」


「え?あぁ.......何故か私が歌うと色んな効果があるの。それに私が願うと頭の中に歌詞が現れて、その通りに歌うと発動するの。だからさっきも私を貴方と一緒にしてくれるよう歌ったのよ。凄いでしょ♪︎」



 俺はポラリスの顔のすぐ隣を掠めるように壁を殴った。


 その事に彼女は身体を大きく震わせる。



「あ.......あの.......」


「いいか?次にその力をあんな事に使ったら、俺は迷わずお前を置いてゆく。俺に状態異常は効かねぇが、人を平気で操るような奴は嫌いなんだよ」


「あの.......私.......どうしても貴方と一緒に行きたくて.......だから.......その.......ご、ごめんなさ.......」



 ポラリスは謝りながらポロポロと大粒の涙を流し始めた。


 俺はいたたまれず拳を戻すと、大きなため息をついて頭を掻きむしる。



「次、気をつければそれでいい。それに、もう後には引き返せないしな」


「それって.......」


「ほれ、先ずは飯を食いにでも行くぞ?その後は服だな。あとはこれからの食料の買い出しと.......うん、やる事は沢山あるな」



 俺はやる事を数えてからポラリスへと手を差し伸べる。



「一緒に行きてぇんだろ?」



 そう問いかけると、彼女は表情を明るくさせて大きく頷いた。



「〜〜〜〜〜っ.......うん♪︎」



 なんかとんでもない事になってしまったが、まぁ旅は道連れ世は情けと言うし、一人で旅をするよりも話し相手がいた方が良いだろう。


 俺はポラリスの手を取り立たせると、手を引きながら街へと出るのだった。


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