3話
騎士団長室の扉は凄い音を立てて勢いよく開け放たれた。
そこには輝くような銀髪の長身イケメンのアレクシス・エルドラフ王太子殿下が不機嫌な態度を隠しもせず、現れた。
自分と目が合うと不機嫌な顔に更に眉間に皺が刻まれた。
「ウィリアム!!どうゆうことだ!!」
兄が何かやかしたのか、かなりのご立腹だ。
そんな王太子を見てもどこ吹く風でティータイムを継続中だ。
「アレクシス殿下…、君は王太子という自覚がないのかな??ここは騎士団長室なんだけど、もう少し静かに入ってきてよ。ちゃあんとミックが来客中と告げたはずだけど??」
「来客って、弟だろうが!!それにどうゆうことだ、あの配置は!?」
「弟だろうと、客は客だ。いい加減、家のレイアルトへの態度を改めてもらえるかな??」
苛立ちを隠さずに凄んでくる王太子にも、兄は自分の言いたいことは主張する。
エルドラフ王国最強と名高い上に王太子であるアレクシスに一歩も引かない。
王太子と騎士団長の言い合いという、世にも恐ろしい状況に立ち会ってしまい生きた心地がしない。
「レイアルト、殿下のことは気にしなくていいから、ゆっくり食べてね。」
いや、さっきから緊張を強いられていて全く味がわからないので早く帰りたい。
「なので、殿下は帰ってください。家族団らんを邪魔しないでください。」
「あ、兄上、自分が帰りますので、気にせず殿下とお話ください。」
これを機にこの意味の分からないカオスな状況から脱出しよう。
王太子殿下にこの場を譲ろうとしたのに、アレクシスは益々渋い顔をして睨んでくる。
「まだ、居てもらわないと困るよ。話は終わってないんだから。」
「…え??」
先程の衛兵隊長の左遷ということで話は終わったと思って安心していたが、そうではなかったらしい。
「まだ、言ってなかったのか?!」
「言おうとしたら殿下が突撃してきたので、途中になってしまったんです。」
なんだこの雰囲気は…、大変嫌な予感がする。
兄はやれやれと呆れながら、自分に向き直り話の続きをする。
「レイアルト、君は明日からアレクシス殿下の護衛騎士に任命するよ。ちなみに拒否権は殿下にもレイアルトにもない。」
「俺はそもそも護衛なんていらないし、なんでこいつなんだ!!」
「殿下がお強く、護衛を必要としないのは理解しております。ですが、それは護衛を付けなくていい理由にはなりません。いい加減、王太子であることを自覚頂き、それらしい振舞をしていただかないと困ります。」
「だからって、なんでこいつなんだ。よく問題を起こすし、強くもないのを護衛にしてどうする?!」
「殿下はそんなんだから、王妃様に付け入られるんです。優秀な護衛騎士を副官として業務をサポートしてもらえれば、王太子らしくなりますかね?」
「お前は本当にいつも不敬な奴だな…。」
「でしたら、それなりの行動をしていただけますか?」
目の前で繰り広げられる状況と自分が殿下の護衛騎士という事実を受け入れられずに茫然としてしまった。
「で、殿下!!申し訳ありません。若輩者の私では不足がありましょうが、精一杯務めさせていただきますので。」
この場を収めようと騎士の礼を取ったが、王太子は更に不機嫌というよりは憎々し気にレイアルトを見やった。
「母上を守れなかった護衛なんて御免だ!!」
「……!!」
ズキッ…。
ナイフで刺されたような感覚に襲われ、鼓動が跳ね上がるのを感じる。
実際に刺されたわけではないが、それぐらいの衝撃を受けた。
一瞬にして血の気が引いていくのがわかった。
「あれはレイアルトだけの責任ではない!だから、騎士団総帥と騎士団長が更迭されて我々がこの座にいるのです。あの時の処罰は陛下がお決めになりました。その判断に間違えがあるとでも?」
兄は自分を庇いながらも、この国の王である陛下の判断ということを強調しながら侯爵家が騎士団のトップに残ったという事実を突きつけた。
あの時の判断をお前には責める資格はないとでも言うかのように兄にしては珍しく厳しい表情で王太子に対峙していた。
「だが……」
「アレク…。君の気持はわからないでもない。でも、レイアルトだけを責めるのはお角違いだ。先ほども言ったが、俺の弟を侮るのはやめろ!」
それでも言い募ろうとするアレクシスに対し、騎士団長としてではなく兄馬鹿のウィリアムとしての言葉を放つ。
不敬にも程があるが、兄と王太子は幼馴染であるのと同時に騎士団学校の同級生である。
王太子の護衛兼侍従みたいな役割で同年に入学するように調整をしたのだ。
レイアルトもアレクシスと幼馴染ではあるが、何がきっかけかはわからないがいつのまにか嫌われて疎遠になっていた。
喧嘩した記憶はないが、なんせ子供の頃の話なので曖昧だ。
きっと気に障るようなことを自分が言ってしまったのだろう。
謝るしても何が悪かったのかが解らなかったので、謝る機会を逸してしまい今に至る。
「ふぅ…、明日からレイアルトとグランツ・ロイアークはアレクシス王太子殿下の護衛騎士に任命する。」
「拝命致します。」
「殿下もいいですね。」
王太子にも有無を言わせない絶対的な態度と絶対零度の笑顔で凄む。
勢いよく入ってきた王太子もすごすごと引き下がるしかなくなった。
結局、最後までタルトを楽しむことが出来なかった。