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龍と  作者: もんちょ
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2話 兄は優雅な騎士団長様

あの衛兵隊長との騒ぎがあった後日、騎士隊長の執務室に呼び出しを食らってしまった。

王太子殿下の部屋の目の前で騒ぎ立ててしまったのだから、呼びだされても仕方ない。

もしかしたら、騎士団を辞めさせられるかと思い覚悟しながら執務室の扉を叩く。

「レイアルト・エリディアールです。」

「入って」

「やあ、レイアルト!!よく来たね!」

「……」

ものすごいいい笑顔でエルドラフ王国騎士団長ウィリアム・エリディアールが両手を広げ歓迎の様子だ。

「……」

あまりの歓迎ムードに自分が緊張してきたのに台無しだ。

優し気な雰囲気で騎士団長の制服を着ていなければ、美形の貴族青年にしか見えない。

ただのイケメンである。

しかしこの若さで騎士団長になるだけあり、魔力量は桁外れな上に騎士としても騎士団上位の実力だ。

我が兄ながら出来すぎで、恐ろしい。

「あの…今日は呼び出しをされたと思ったのですが」

「あぁ、そうだね。今、お茶入れるね。ビリーが特別気合を入れてタルトを作ってくれたよ!」

ビリーは侯爵家の料理長で晩餐よりも、レイアルトへのデザートに気合を入れて作るという変な人だ。

ベリーが輝くように飾り付けられおいしそうだ。

呼び出したことを何でもないことのように流すのはやめてほしい。

要件がわからないとおいしそうなタルトも楽しめないというもの。

「はい、座って。レイアルトに悪い話ではないから。」

「…はい」

しぶしぶと兄からの給仕を受けると話を始める前に優雅なティータイムが始まってしまった。

慣れた仕草で紅茶を飲む兄をじとっと見ながら、タルトを一口を含み味を噛みしめて見たがよくわからない。

「わかったよ。先日の衛兵隊長が騒ぎを起こした件だけど、アレクシス王太子殿下から衛兵隊長はクビにしろと言われたので左遷がに決まった。レイアルトには何も言われてないから特に王太子殿下からの処分はないよ。」

「そうですか。」

よし、これでタルトを楽しめる。

内心ガッツポーズを決めて、兄は本当についでにティータイムに自分を呼んだだけのようなので遠慮なく、余すところなくタルトを堪能しよう。

「レイアルトもやっちゃって良かったのに。後のことは僕が何とでもするよ。」

「しませんよ。問題を起こす気はないので今まで流してきたんです。」

問題を起こすことなく過ごし、目的を果たすこととおいしいお菓子を食べることに力を入れたい。

いつも何かにつけて、貴族がどうとか兄や父のコネと七光り等やサボってると言われなくて良かったが、あの衛兵隊長がこんな処分を受けて納得するとは思えない。

貴族であることを何よりも誇っていて、未来の子爵という約束された立場を利用し尊んでいた。

レイアルトが侯爵家なのに衛兵隊長が下に見ていたかというと、侯爵家を継がない奴は平民同然と思っていたのだろう。

貴族の家の嫡男以外は家を継げないため、騎士団や官吏として生計を自分で立てなければならない。

早めに婚約して婿入りを決めてしまう者も少なくない。

騎士としても、ある程度の地位に上れば爵位と領地をもらえることもあるので、騎士家系貴族は大抵騎士学校へ行き、卒業後は騎士団に所属していた。

レイアルトも家を継げず、兄や父のコネを頼っている可哀そうな奴と見ていた。

しかも、王妃様という強力な後ろ盾がいることも態度を増長させた原因の一つになっていた。

絶対王妃様に泣きつくだろう…。

容易に想像がつき、またタルトの味がわからなくなってきた。

今回のことで、普段から印象のよくないアレクシス王太子殿下に目を付けられてしまったであろう。

本当に勘弁してほしい。

「それにこれ以上、兄上と父上には迷惑かけられませんよ…」

「それこそ気にしなくていいよ。いざとなったら国なんて捨ててもいいんだから。一応、母上のお墓があるから最終手段だけど、レイアルトが苦しむくらいならそれもアリだね。」

騎士の家とは言え、公爵家で高位貴族なのにこの柔軟さにはいつも驚かされる。

「家族を失ってまでの地位なんていらないさ。」

優雅に紅茶を飲みながら、とんでもない発言をしているがこの様子だと父とは話し合いは終わっているのだろう。

騎士団総帥と騎士団長揃って国を出たら、クーデターレベルの国防の危機ではないのだろうか。

これは全力で日々を穏便に過ごさなければならない。

「大丈夫!!上手く逃がしてあげるから!」

「いや、外国に行くときはスイーツ食い倒れの旅にしたいので、そんなのはごめんです。」

「そっか、逃げたくなったら遠慮なく言うんだよ?」

「はは…」

やっと落ち着いてタルトを楽しめそうだと思った瞬間に自分が張った警戒魔法の範囲で急速にこちらに近づく人間がいた。

常に要人の近くにいるときは風魔法で索敵をしていた。

ゆっくり、静かにそよ風よりかすかな微風にて人から漏れ出る魔力を感知する。

この魔力は…。

「!!…兄上、来ます!」

「ん?誰が?」

兄は自分がいつも警戒探知魔法を展開していることを知っているので、特に焦りもしない。

扉の外が騒がしくなっていた。

兄の副官のミックが制止に入っているが、意に介さず強引に押し入って勢いよくノックもせずに扉を開ける。

バンッ!!

「アレクシス王太子殿下です………。」

入ってきた瞬間に自分と目が合い、かなり嫌そうな顔をされた。

タルトの味が更にわからなくなってきた。

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