ファンタジー世界すげぇ
結局私はエルンハルトさんが戻って来るまでの間に、ジークさん相手にオセロで十連勝してしまった。
貴方が弱いんじゃない、私が強すぎるだけだ。
だから落ち込むことは無いんだよ。ふふん。
「……お前は本当に大人気ないな」
おや、イケメンは頬杖を着いてご機嫌ナナメなようだ。
そんな事言われてもなー。
「あら、手加減した方がよかったですか?」
「それはそれで嫌だ」
「そうでしょ?」
エルンハルトさんに出してもらった紅茶を飲みながらにんまり笑う。
いや、これは別に勝ち誇っている訳じゃなくてね。
めっちゃ美味しいんだよこの紅茶。
日本に居た時にも飲んだこと無いくらい美味い。
茶葉が良いのかいれた人が上手いのか知らないけど、渋みが少なくてほんのり甘いし。
ついでに茶請けのクッキーも美味い。
焼きたてサクサクで、口の中にバターと小麦の味がほろりと広がる。
甘さが控えめなところから考えると、もしかしたらこの世界では砂糖が貴重なのかもしれない。
「ジーク。そろそろ諦めては?」
「……そうだな。続きはまた今度だ」
「いつでも受けてたちましょう」
「あぁそれと、俺相手に敬語は使うな。敬称もいらん」
えっと、タメ口で呼び捨てしろと。
でもジークさんって多分お偉いさんだよね?
「ジーク!?」
「俺が構わんと言ってるんだ。そうしろ」
「分かった。じゃあ私のことはリリィ様って呼んでいいわよ」
若干ふんぞり返って言ってみた。
「リリィ!?」
エルンハルトさん、ツッコミご苦労さまです。
「お前な……バカなのか肝が座ってるのか、どっちだ?」
「ふははは! そのバカにオセロで連敗したのは誰かな!?」
「なるほど。ケンカを売ってるんだな? 買ってやるぞこら」
「あら怖い。か弱い女の子に暴力を振るおうだなんて」
バレバレの泣き真似をしてみせる。
いやー。ジークと話してると楽しいな。
最初はイケメンだから緊張してたけど、ノリが良いんだよねこの人。
今もニヤニヤしながら相手してくれてるし。
「ほら、さっさと行ってこい。軍団長が待ってるんだろ?」
ちょっと。犬を追い払うみたいな仕草は酷くないか?
「やっとですか……リリィ、行こう」
「あ、よろしくお願いします」
さてさて。これからお世話になる所だし、ちょっと気を引き締めて行きますか。
※
エルンハルトさんに連れられて街に入ると、そこはやはり異世界だった。
赤っぽいレンガで作られた建物が並んでいて、入口には剣とか杖とか色んな絵が描かれた看板が吊るされている。
道が広いのは馬車が通るからなんだろうか。
その傍らにはたくさんの人(?)が居る。
二足歩行のトカゲとカメが話してたり、半分犬みたいな見た目の人が野菜を売ってたり、背中に翼のあるお姉さんが噴水の前で歌ってたり。
そしてその奥にあるのは、大きくて真っ白なお城だ。
何で外から見えなかったのか不思議なくらいに大きい。
うわぁ、すごいなこれ。
正にファンタジー世界だ。
ただ一つ難点なのが、街の人々の見た目だな。
ほとんど性別が分からん。
エルンハルトさんみたいに中性的って訳じゃなくて、顔が動物とか爬虫類だから見ただけじゃ分かんないわ。
これじゃカップリング出来ないじゃないか。
今のところ知り合った男の人はジークだけだし、せめてあと一人いれば無理やりかけ算出来るんだけどなー。
……ふへへ。ジークは俺様系だけど受けっぽいよね。無理やりされてるのに反応しちゃって悔し涙を浮かべる姿とか。
いやぁ、妄想が捗るわ。
「この先にある城の訓練所で軍団長がお待ちだ。気難しい方だから気をつけろよ?」
「分かりました!」
瞬時にキリッとして返事をした。
危ねぇ。見られてないよな?
とにかく、軍団長さんはちょっと怖い感じの人なのか。
普段よりたくさん猫を被っていよう。
※
大きな城門に到着。両側に全身鎧の兵隊さんが立っていて、エルンハルトさんと何か話したあと中に入れてくれた。
めっちゃ見られてたけど、この街に人間はいないっぽいから当然か。
いきなり襲われなかっただけでも良しとしよう。
お城の中に入るとそこが訓練所だったようで、たくさんの兵隊さんが列を作って立っていた。
え、こわ。なんだこれ、歓迎されてんのか?
頭から兜被ってるから顔も見えないし、威圧感凄いんだけど。
ちょっとビビってると、列の奥から人影が歩いて来た。
人影って言うか、うん。十歳くらいの美少女だな。
長いサラッサラの銀髪と赤い目が特徴的だ。
ほっぺたはぷにぷにしてそうだし、白いドレスみたいな鎧と合わさって全体的に愛らしい。
やべぇ。お持ち帰りしてぇわ。
けど。何でこんなとこに子どもがいるんだ、などと思わない。
話の流れ的に彼女が軍団長で、実年齢は私より上とかそういう奴だろう。
ファンタジーものだとよくある話だし。
「こんにちは。貴女がリリィさんですの?」
何と。声まで可愛いじゃん。
高めで綺麗な、鈴の音みたいに聞きやすい声だ。
ファンタジー世界凄いな。今のところマジで美形しか見てないぞ
……おっと、いかんいかん。挨拶を返さないと。
「はい、リリィ・クラフテッドです」
「私は魔王軍サレス地方軍団長のエリーゼですの。略称ですがエリーゼと読んでくださいませ」
はい大当たり。やっぱりこの人が軍団長か。
真面目に返事してよかったわ。
「エリーゼさんですね。よろしくお願いします」
猫被りスマイルを見せると、天使の様に可愛いスマイルを返してくれた。
やべ、私ってロリコンだっけ。
めっちゃ可愛いんだけどこの人。
「早速本題といきましょう。この街に移住したいと聞いていますけれど、本当ですの?」
「はい、そのつもりです」
「記憶が無いと聞いてますけど、勤め先は決まっていますの?」
あ。しまったな、そこは考えて無かったわ。
エルンハルトさんも動揺してるし……ふむ。
いいや、正直に言ってしまえ。
「まだ何も決まっていません。まずは街の様子を見てから決めようと思っています」
いやまぁ、確実に成功する商売はあるんだけどね。
この世界にマクドナ〇ドは無いらしいし。
私なら原価ゼロだから儲かるだろう。
絶対目立っちゃうから最終手段だけど。
「なるほど。では少しテストをしますの」
テストだと? なんか嫌な予感がするんだけど。
「軍団長。さすがにそれは……」
「あら。私の決定に逆らいますの?」
「いえ、そういう訳では無いのですが、彼女は民間人です」
「ちゃんと手加減くらいしますの」
ほう。これはアレか、お前の力を見せてみろ的なイベントか?
こんな可愛い子と戦うなんて私には……って、おい。
なんだそのバカみたいにでかい大鎌は。
エリーゼさんの身長よりデカいじゃねぇか。
「まぁ、『人間』相手ですし、少しくらい加減を間違えることもあるかもしれませんの」
ニヤリと不敵に笑う美少女、絵になるわー。
絵にはなるけどさ。その発言ってつまり『お前をフルボッコするぜ』って意味だよな?
私にそんな趣味は無いんだけど。
やべぇ、いつの間にか兵隊さんに囲まれてて逃げ場がない。
それならば仕方無いな。
私の全力を持って、初手土下座を決めてやろう。