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かいしんのいちげき!


 半強制的に店の外に連れ出されてしまった私は、現在勇者と向かい合っている。

 とても楽し気な様子で無邪気に笑う彼女――フレアさんに向け、とりあえず一言もの申すことにした。


「人に迷惑かけておいて、何か言う事は無いんですか?」

「迷惑? なにが?」


 こいつまじか。きょとんと首をかしげてっぞ。


「いや、人とテーブルを投げつけられたんですけど」

「あーそっか! ごめん、この酒場じゃいつもの事だからうっかりしてた!」


 いつも人とかテーブルが飛んでんのかよ。どこの世紀末だ。

 ちらりとジークを見ると、苦笑いで首を横に振っている。

 だよね。そんな訳ないよね。てことはこの人が毎回投げ飛ばしてるって事か?

 やっべぇなこの人。流石勇者、人の家に不法侵入してタンスを漁るだけの事はある。

 いや、偏見だけどさ。


「そんなことよりさ! 早くやろうよ!」

「はぁ……何をですか?」

「もちろん、拳での語り合いさ! 今日は物足りなかったから丁度良いっ!」

「は?」


 何言ってんだコイツ。

 初対面で理由もなく殴りあうとか、頭おかしいんじゃないか?

 ……いや、初対面でべろちゅーしてきた奴もいるけど。


「いやですよ面倒くさい。周りにごめんなさいして大人しくお酒飲んでてくださいよ」

「え、ウソ、断るのっ? ボクの誘いなのにっ!? ボク、勇者だよっ!?」


 すげぇ事言うなこの人。

 どんだけ甘やかされて育ったんだよ。

 つーかこの世界での勇者ってどういう立ち位置なんだ? 魔王と戦わない勇者って無職と変わらないのでは?


「ほら、勇者の頼みを聞くのは常識でしょっ!?」

「知らんわそんな常識」


 こちとら異世界人だぞ。なめんな。


「むうぅ……こうなったら問答無用だっ! いくよっ!」


 ふくれっ面を見せたかと思うと、フレアさんは眉尻を上げてこちらに飛びかかってきた。

 どんだけワガママなんだよこいつ。迷惑だなおい。


 あれ、でもかなり遅いな。

 あ、わかった。アレか、構ってほしくてふざけて殴るみたいなやつか。

 ……完全にいじめっ子の発想じゃねえかソレ。


 前言撤回。こういうのは周りの大人が早めに矯正しないとダメだわ。


 ねぇアテナー、この人って私がぶん殴っても大丈夫?


(大丈夫ですよー)


 よし、ならいっか。レベル差とかあるだろうし、相手は勇者だし。大事にはならないだろう。

 でも一応、全力を出すのは怖いから半分くらいで。

 さて、格闘スキル先生、出番です。やっちゃってください。


 背中が見えるほど大きく身をひねり、腰あたりで拳を力いっぱい握りしめる。

 ごちゃごちゃ言っても聞きそうにないし、落ち着かせるためにも実力行使といこうか。


 悪い子には、オシオキだ。


 飛び込んできた勇者の拳を右手でガード。トラックが衝突したみたいな派手が音が鳴るけど、私自身は痛くもかゆくもない。


「御託はいらねぇっ!」

 

 叫びながら、カウンター気味のボディブロー。

 背中から衝撃波が突き出し、体が浮く。

 からのー。


「タイランレイ〇ッ!」


 某格闘ゲームの真似をして放った右ストレートは、何故か炎を纏って勇者の胸元に吸い込まれた。


 轟音。まさに爆心地かのようなデカい音が響き、路地が炎に照らされる。

 そして勇者は、地面と水平に吹っ飛んでいった。


 ……おい。今の、死んでねぇよな?

 よくわからん魔法陣っぽいものを最低五枚は貫通してたっぽいんだが。


 アテナー?


(大丈夫です。ギリギリ生きてますよー)


 おい、大丈夫ってそういう意味かよ。

 人としてアウトな奴じゃねぇかそれ。


(いやぁ、みんな勇者には困ってたので助かりましたー)


 そういう問題なのかこれ。いや、言いたいことは分かるけどさ。

 さっきの感じだと、勇者って言うかただのチンピラだもんなぁ。

 だからってちょっとやりすぎた感はあるけど。

 ……まぁ、地味にイラついてたのかもな、私。

 ケンカとか嫌いだけど、それ以上にイジメが嫌いだからなー。

 前世でもそれでよくトラブルに巻き込まれてたし。


「あはははっ! すっごいっ! ボク負けたの初めてだよっ!」


 あ、戻ってきた。思ったより元気そうで何よりだ。

 地面とかひび割れてんのに頑丈だなこの人。

 万が一が無くてよかったけど。


「ほら、迷惑かけた人たちに謝りましょうね。悪いことしたらごめんなさいでしょ?」

「え、そうなのっ? ボク何か悪いことしてたっ?」

「人とテーブルは投げちゃいけません」

「そうなんだっ!? それは知らなかった!」


 うわ、マジな目だこれ。誰か常識くらい教えておけよ。

 ……いや、教えても聞かなかったのか。こんな性格だもんな。


「みんなごめんねっ! 覚えたから次からは大丈夫だと思うっ!」


 フレアさんがハツラツと笑いながら店の人たちにぺこりと頭を下げた。

 思ったより素直だな。本当に常識が無かっただけなのかもしれない。

 いや、それはそれでどうかと思うけど。


「おぉ……勇者様が頭下げたぞ」

「あの勇者様が謝るなんて……」


 おい、どんだけ迷惑かけてきたんだこいつ。

 周りの感謝の視線がやばいんだけど。


「いやぁ、そっか、迷惑かけてたのかっ! 反省しますっ!」

「……あんたさー。誰かに説教されたこととか無いの?」

「ないよっ! 親はいないし、それに勇者だからねっ! 偉いから誰も怒らないんだよっ!」


 あーなるほど。そういう感じか。

 何が正しいのか教えてくれる人が居なかったから分かんないのね。


「よし、じゃあ何かあったら私を呼んで。事の良し悪しを教えてあげるから」

「えっ? 良いのっ!?」

「だって他にフレアさんを叱れる人、他にいないんでしょ?」

「うわぁ! ありがとう!」


 両手を掴んでぶんぶん振り回された。

 うーん。なんて言うか、話してみた感じだと悪い子じゃないんだろうな。

 素直な性格だし、これなら最低限の常識を教えてあげれば大丈夫かもしんない。

 

「じゃあこれあげるっ! 通信用の魔導具っ!」

「おっけ。あまり乱暴な事はしないようにね?」

「わかったよ先生っ!」


 誰が先生か。あ、いや、正しいのか?

 つーかまた厄介事に首突っ込んじゃったなー。

 まぁ仕方ないか。こいつ放っておいたらヤバそうだし。


「んじゃ気を取り直して……みなさーん! お騒がせしてすみませんでしたー! お詫び代わりに今日は私が奢るから、好きに飲んでいってくださーい!」


 ざわっと場が盛り上がる。

 お店の人にはあとで改めて謝るとして、とりあえずはこれで良いだろう。

 私もお酒飲みたいし、あそこで驚いた顔をしてるジークを巻き込んで一杯やるか。

 もちろん、勇者からは目を離さずにね。


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