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第8話 サボリ会議の終結と未来を見て。

第8話です。

 「もう一つの『息子さんの経験』のことと交えて、娘が抱えるものについてお話させていただきます。」

茜さんのお母さんはそう告げた。

「その場面については、私から説明します。」

そう言ったのは……、茜さんだった。内心俺は驚くが、茜さん本人がわざわざ話す……その重みを感じ、何も言えなかった。



「私は、今さっき両親から説明があったように、今はあなた方には言えませんが、命に関わる可能性があるものをもっています。そして、その命に関わる可能性があるものというのは、……恐らくあなた方に未知の体験をもたらす。そう考えています。」



……というのは、どういうことだ?俺の頭では、今の言葉を完全に理解することはできなかった。俺の父も、わからなかったようで

「具体的には、どういうことでしょうか。」

と聞き返した。茜さんはどうしようかといった表情で彼女の両親を見た。すると、茜さんの父は

「今は、ただ、あなた方に未知の体験をもたらす、としか言えません。ただ、その未知の体験は必ず息子さんが部活に参加することで得られる経験と同等、いやそれ以上……私たちはそう考えています。」




 茜さんの父はさらに続ける。



「『茜と一緒に過ごす時間』、それが部活に参加しないことの穴を埋め、それ以上のものをもたらす。そう考え、『あたりまえの毎日を茜と一緒に過ごす』……これを、私たちは、息子さんの経験という視点での問題を解決する方法として提案します。」



茜さんの父はそう言い切った。

「部活の穴を埋めるために具体的な活動を何かこちらで行うということはせずとも、息子さんに十分な体験を与えることが茜にはできる、私たち親はそう信じています。」

その言葉は、厚い、娘への信頼が滲み出るようだった。しかし、俺の父は手放しで納得はできないといった表情をしていた。

「確認ですが、何か具体的なアクションを起こしていただけるわけではないのですよね?」

父は、ゆっくりと、自分の中で先ほど言われた提案を反芻するかのように言った。

「はい。茜が何を抱えているのかを今ここでは開示できない以上、私たちが言った『未知』というものへの、あなた方家族の価値観にすべての判断基準が懸かっています。この条件で、息子が部活に所属しないことを認める親は、実際あまり居ないとは思います。でも……、でも、茜との毎日は、必ずや息子さんの人生観を揺さぶるようなことが起こる。親である私たちは、本当にそれをよく知っています。だから、お願いします。どうか、……どうか部活に所属しないことを、許可していただけないでしょうか!!」

今日一番に大きな茜さんのお父さんの声が、リビングに響いた。


 ……しかし、父はそれでもまだ、何か引っかかるところがあるようだった。俺の母は父にすべての判断を託しているようで、何も言わずに父を見ている。茜さんの両親は、父の返事を待ち、父の目を見つめている。誰も何も発さず動かない、時という概念がなくなったような瞬間が続いた。


 ……この状況をビリビリに破くかのように話し始めたのは……茜さんだった。

「私たちは、結局、何も具体的には行動するとは言っていません。なので、信頼する材料に欠ける点はあると思います。」

突然話し始めた茜さんを、その場の全員が見つめる。

「ただ、もし今ここで部活に所属しないことを認めていただければ、いつか、……いつか必ず、私が抱えるものについては、真実をあなた方に伝えます。感謝を込めて。」

茜さんの魂の声だった。茜さんの両親が、一番驚いているように見えた。一拍置くと、

「……わかった。部活に所属しないことを認めよう。」

そう、俺の父は言った。


 「今まで、様々なスタイルでお願いをされて、確かに部活に所属しなくても、空には十分な経験を与えられるかもしれない……心の中では、結構前からそう思っていたんだ。思ってはいたけど……どこかで私たちはこの人たちに騙され、何かに利用されようとしているのではないかという恐怖が抜けなかった。そして用が済めばそれでもう関係を切られるんじゃないか……。そう思って、部活に所属しないことの許可を堂々と出せなかった……。申し訳ない、話し合いを長引かせてしまって。」

父は、自分の心の内を隅から隅まで語り尽くすように、ポツポツと言った。その場の全員が、父を何も言わずに見つめていた。



「ただ、今の茜さんの言葉で、俺の迷いは晴れたよ。この人たちは信頼できる、そう何の迷いもなく思えた。だから、俺は空が部活に所属しないことを許可する!」

話し合いは、これで終結を迎えた。




 「おっと、もう気づいたら5時か!?」

緩んだ場に、父のさっきまでとは打って変わって明るい声が響いた。

「そうだよ本当、長すぎ。」

俺は父に呆れた声で返す。

「いやー、マジで今認めなかったら、あと2.3時間は延びてたんじゃねーか。」

俺がそう言うと、

「いやー、そうなっちゃったら本当に本当に大変でしたよ。私たちもそうなったらどうしようかと、内心ヒヤヒヤでした。」

茜さんのお父さんが言う。茜さんのお父さんも、俺の父に似て、真面目なときと普段の差がとても大きいようだった。

「今日は、部活に所属しないことを認めていただき、ありがとうございました。後日、手続き等で紙が何枚か行くかと思いますが、よろしくお願いします!」

茜さんのお父さんは帰り際にそう言って、帰っていった。

「ふぅ……。」

本当に長い一日、いや午後だった。ただ、これで茜さんとの今の日常が続くと思うと、俺は嬉しすぎて、奇妙な踊りを踊らずにはいられないほどだった。




「今日は本当によかったわね、認めてもらえて。」

月野家、深夜1時、月野茜の母の声が響く。その向かいには、月野茜の父が居た。ただし、月野茜本人はもう寝たようで、その姿はない。

「ただ、茜が“あんなこと”を言ってしまったからな。これは茜に対しても、月見さんたち家族に対しても、どうしたものか……。」

「そうね。それは考えないとね……。」

そう言うと、二人は寝る準備を始めるのだった。


前回、かなり散らかった構成で雲行きが怪しくなりましたが、今回はかなり納得が行く流れに持っていくことができました。というか、後半の穏やかな空気になっていくほどすらすら書けたので、自分は真面目な場面は現実で苦手だけど、空想の中でも苦手なんだなー、って思いましたね。自信作です。

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