第7話 サボリ会議 開始
第7話です。
俺の両親と茜先輩の両親が対面する日がいよいよ来た。午後1時30分からとはいえど、なかなか落ち着かない。そもそも、家に人を入れるということ自体が初めてなのだから、どのような流れ・空気になるのかが全くわからない。戸惑いながらも昼食を食べ終えると、時刻はもう1時を回ろうとしていた。「ヤベェ……、特に何か怪しいことを話すわけじゃないのに、めっちゃドキドキする……。」テーブルの周りを片付け終わると、時刻はもう1時20分。俺の両親も緊張しているのか、誰もテレビをつけようとすらせず、無言で何もない空間を見つめる時間が続いた。ちなみに、兄は昼食を食べ終えるとすぐに部活に行ってしまったので家には居ない。なんとも言えない空気に黙っていると、
「ピンポーン。ピンポーン。」
無機質にインターホンがなった。鍵を開けると、茜さんとその両親と思われる人がそこには居た。ついに話し合いが始まる。
「今日はよろしくお願いします。」
その茜さんの父の一言から、話し合いが始まった。茜さんの両親は、正直変な人なのかと思っていたが、実際会ってみると驚くほど普通な見た目だった。いや、娘の部活のサボリを公認する親が普通だとはなかなか思わないだろう。
「こちらこそよろしくお願いします。」
と、俺の父も返し、母も軽く頭を下げた。
「こちらから聞きたいこと、この点はこちらに不利益がないようにしてもらいたいということは大きく2つです。」
と父。いきなり本題に入っていく。ここで俺は、父の昨日の対応の謎が解けた。父は、本当に息子を思っているなら相手の気持ちも考えて早く茜さんの両親と会おうとする反面、もし遊び半分や、俺たち家族に不利益をもたらすのを承知で部活サボリを提案するような親なら、容赦なく、迅速に関わりを断つつもりなのだ。そのためにも、こちらのこの話し合いへの本気具合を見せ、相手にも本気の対応をしてもらおうとしているのだ。この、人をみる状態になった父を何度か見たことがあったが、恐ろしいほどに、普段とは纏う空気が違うのだった。
「息子の経験と息子の学校からの目です。これらをどうするのかを説明し、私たちにいかなる面でも不利益をもたらさないのであれば、私はあなたがたのいうように、息子のサボリを認めます。」
「……。」
俺の母はこう言うことをあらかじめ聞いていたのだろう、表情一つ変えていなかった。対して、茜さんの両親は、モードに入った父に驚きを隠せないようだった。しかし、
「……わかりました。1つずつ説明させていただきます。」
茜さんの父は強く言い切った。
「まず、学校からの目については私が説明させていただきます。」
茜さんの母が言う。
「学校からのサボリによる評価の低下についてですが、茜はそもそも学校公認で部活に参加していません。」
「……えっ?」
俺は思わず口に出していた。以前聞いた話では、部活の雰囲気に耐えられなくなって、自分で勝手に部活に行かなくなったと茜さんは語っていた。……茜さんと説明が違う?
「ちょっと待ってください、聞いていた話と違います。これではどちらかが嘘をついていることになります。本当にさっき言ったことは合ってるんですか?言い間違いではなく?」
この大事な場面で正しくない情報が混じっていることに、俺は不快感を覚えたし、それ以上に茜さんから嘘をつかれていたかもしれないと思うと、一周回って寒気がするほど悲しかった。
「先輩、嘘ついてたんですか?それとも、先輩のお母さんが嘘ついてるんですか?何か言ってくださいよ!」
今まで入る場面もなかったためか、一言も発していなかった茜さんに俺は必死で呼びかける。すると、
「落ち着いてください。話せることを私たちがすべて話してから、何か言ってください。」
と茜さんのお母さんに咎められた。父を見ると、「落ち着け。」と言わんばかりの表情だった。俺は恐ろしいほどに襲ってくる、疑問を解消したい衝動をこらえ、話の続きを聞く。
「茜は、特殊な事情で元々部活に所属していない、これが真実です。恐らくあなたは、茜からバスケ部だという説明を受けたのでしょう。」
このままでは、何かが崩れそうな予感がしていた。
「茜の説明が、嘘です。」
っ。茜さんのお母さんのその言葉で、一度抑えた俺の衝動は、また暴走した。
「会ってから1ヶ月弱、俺は何であなたと出会えたかも俺だけが理解できずに過ごしていたってことですか、茜さん!俺との出会いがもう既に嘘だった!?」
出会って、知り合っていくきっかけになったことすら、俺は教えてもらえていなかったなんて……なんだか俺は、気持ちの芯が抜かれるようだった。しかし、
「月野さんの話を聞け。」
父は、一言で俺を黙らせた。
「続けてください。」
「わかりました。この部活に関しての嘘は、本当に申し訳なく思っています。なので、今日はその嘘の訂正の意味も込めて、ここに来させていただきました。」
父は、それに対して、ある疑問を抱いたようだった。
「それは大変ありがたく結構なことなんですが、そもそもなんで学校公認で部活に所属していないんでしょうか。」
それは、俺たち家族みんなが持っていた疑問だっただろう。その質問を受けると、茜さん家族は顔を見合わせた。そして、茜さんのお母さんは、こう言った。
「それは……言えません。」
「「「え?」」」
俺たち家族みんなが声をあげた。茜さんのお母さんは、構わず話を続けた。
「これに関しては……本当に申し訳なく思っています。ただ、これは絶対に、何があっても、今ここでは言えません。絶対にです。」
そのお母さんの声には鋼のような意志が感じられ、茜さんが真剣に何かを言うときと、同じ感覚がした。
「学校公認で部活に所属していない原因であることからもある程度察せられると思うのですが、これは、茜の人生に関わる可能性があります。」
「なっ。」
驚きだった。
「もしかして、そのような想定はしていませんでしたか。そうであれば申し訳ありません。」
いや、謝られても困るが……。そんなに重要な何かを、茜さんが抱えていたなんて……。全く気づけなかった自分がどうしようもないバカに思えた。
「何かは言えませんが、人生に関わる可能性がある何かが原因で部活に所属しておらず、それは学校公認のため、部活サボリで評価が下がっているということはない……という状況なんですよ、茜は。そして、先ほどは大きな誤解を生んでしまいましたが、部活の話題になったときに、面倒なことになるのを避けるために、バスケ部という嘘をついていたわけなんです。」
俺は、茜さんから嘘をつかれていた原因がわかり、心が晴れ渡っていくのがわかった。
しかし、茜さんのお母さんは続けてとんでもないことを言う。
「そして、それに関連することとして、そちらの息子さんである、空くんも学校公認で部活に所属しないでいただきたいと考えています。」
「えっ。」
俺は驚くが、
「なるほど。」
と父は想定したとおりと言わんばかりに茜さんのお母さんの考えを聞いてうなずいていた。
「話の流れからそうなるのかな、とは思っていました。」
しかし、この考え方にはさまざまな疑問が浮かぶ。
「まあ、流れから言えばそうなりますけど、そんなの実際に学校が許してくれるんですか。てかそもそも、なんで俺が茜さんに合わせて、部活に所属しない人としてあなたがたに選ばれたんですか。これは今聞くのはズレている気もしますが、もっと部活に対する意欲が低い生徒は居たと思います。」
俺は、疑問を口にする。
「そうだな。確かにその2点は聞きたいですね。」
父も同じことを思っていたようだった。こんなことが、本当に許されるのだろうか……。しかし、茜さん家族は、それに対してはもう解答があるようだった。
「まず、学校にはもうお話をして、後は息子さんの賛成だけでできる状態になっています。」
「!!」
仕事の早さに驚かされる。もう許可がとられているなら、学校が許すのか、という点に関しては文句無しで大丈夫だ。しかし、どちらかというと俺が聞きたいのは、もう一つの方だった。
「では、なぜ俺なのかは……?」
「……これは、茜の抱えているものに関わります。残念ですが、答えられません。」「そうですか……。」
まあそうなのかとは少し思っていたが、実際そうとわかると少し釈然としない感じはあった。
「ただ、この娘が抱えるものに関連して、本日最初の質問のうちのもう1つ、『息子さんの経験』についてを説明させていただきます。」
「!」
俺の父が提示したもう一つの視点についての茜さん家族からの説明が、始まる。
本来、ここは本筋と関係が薄いので、ここはさっくり書いても良かったのですが、『親の愛情』という点からリアリティを持たせたいという考えから、ここをガッツリ書くことにしました。正直、内容がねじれて酷い出来になってしまいましたが、お許しください。