第6話 対面…?
第6話です。
次の日、学校を終えて部活動体験も終え、俺はいつも茜さんが居る辺りに向かう。
「昨日、なんだかんだ気まずい別れ方になっちゃったけど、茜さんどうせ昨日のこととかはあんまり気にしてないだろうしな。ちゃんと親と相談もしたし、堂々と会おう。」
いつもの辺りに、茜さんは立っていた。
「お疲れ様です。」
「ん、あなたもお疲れさん。」
ちなみにいつもこんな感じで会話は始まる。
「昨日のことですけど、しっかり家族と相談しましたよ。」
「おー、したんだ。あなたのことだからビビってしないかと思ってた。」
あっぶねー。煽られるところだったじゃねえか。
「俺をナメてもらっちゃ困りますよ。」
「ふーん。」
この全て見透かしてるような返事が、最初は恐怖でしかなかったが、今では茜さんを感じさせてくれる、重要なものだと思えるようになってきた。
「で、結果は?」
……とうとう聞いてきたか。茜さんのことは少しずつわかってきたと思っていた矢先に、昨日の出来事があってのこの質問。この返事の正解は、俺にはわからない。……正直にありのままを話すしかなかった。
「~ということで、却下されました……。」
「まあ、仕方ないね。」
この返事は想定外だった。てっきり、何か言われると思ったのに。
「まあ、息子が突然部活サボリたいって言い出したのを認める親じゃなくてよかったよ。信頼できる。昨日は私の存在を印象づけるのが大事だったからね。目的は十分達成よ。」
そうだ。この人は感情で動いているようで、目的までの道筋・手順の構築がしっかりとしているから安心できる。まあ、昨日のことは、さすがにわけがわからないのだが。
「ってか、さっきの話でも出したと思うんですけど、今回親が部活サボリを許可しなかった理由としては主に2つで、まず正体不明の息子の友人という、遠い関係の人の、目的もわからないことに協力する気が起きないという点と、息子の学生生活での学び、経験が減ってしまう点だったと思うんですよ。俺も理由がわからないのは辛いので、できれば教えてくれませんかね、茜さん。」
そう、許可をする親側でなく、許可されてサボリをする側の俺までもが目的がわからない。これは非常によろしくない。
「本当は昨日聞いて、説得しやすくするべきだったと思うんですけど、昨日聞けなかったので……。」
茜さんはこのお願いに答えない。じっと何かを考えているようだった。
「わかった……。」
茜さんはようやく口を開く。会話が終わってしまわなかったことに俺は安堵したが、それも束の間、茜さんから発せられた言葉に、驚かせられる。
「じゃあ明日、私が両親と一緒に、あなたの家に行っちゃおうかね。」
「……。」
「?」
「はぁー……!?」
俺は驚きを隠せない。そもそも、俺の家にはあまり人が来ない。親戚の集まりなども、俺の親の親、祖父母の家で行われるし、人が来る目的がないのだ。今年、宅配便やセールス、宗教の勧誘以外で来たのは、近くに引っ越してきた家族くらいだった。ましてや、人を入れたことなど家を建ててから一度もないのではないだろうか。
「え……それはちょっと親から断られそうなんですが……。」
「うーん、まあそうか。じゃあ、連絡先交換しとく?」
「え。」
「だって、断られたら場所を変えたり、日にちを変えたりしなちゃいけないでしょ?」
「まあ、そうですね……。」
なかなかに唐突な提案で、連絡先を交換している人が少ない俺にとっては驚きだったが、まあ合理的だし、連絡先を交換した。連絡先を交換するほどの友達が少ない俺にとっては、結構嬉しい。ちなみにだが、この学校には遠くからも人が通って来るため、連絡手段として、スマホや携帯の持ち込みが許可されている。実際、俺らもバスで隣の街から通っている。ただ、連絡先を交換しても、まだ俺には疑問がある。
「てか、なんでそもそも家来るんですか。わざわざ来なくても、他に方法あるでしょう!?」
「まあ、私という人間を正しく知ってもらうためには、やっぱり一度は会わないとね。」
茜さんは、突然しっかりとした声で言う。
「明日、話せる限り、あなたとあなたの両親にこのことについては話すよ。これは、絶対。約束する。」
茜さんは、何か覚悟を決めたようだった。こういうときの彼女の目の強さには、吸い込まれるような感じがある。こういうときの彼女に反対意見をいうのは、どうしてもおこがましく思ってしまう。俺は、賛成できない部分もあったが、
「わかりました。じゃあ、今日親に伝えて、結果を送りますね。」
親の返事次第では、家に来ることはないということもあり、とりあえず了承した。
「ありがとー。急な提案だったけど、OKしてくれてマジ助かるよー。」
テンションジェットコースター人間か。
「あ、そうだ…。」
また急に真面目になる。
「今日の7時30分までに、絶対に連絡はしてね。じゃないとすごく困るから。」
「ん?なんか親からスマホ使用制限されてたりするんですか?」
「まあ、そんな感じかな。」
なんとなくハッキリしない返事に感じたが、まあいいだろう。これでとりあえず今日やることは確定したし、連絡手段も確保した。
「じゃあ、よろしくね。」
別れるときにそう言われ、俺は家に帰った。
「ただいまー。」
現在時刻は7時10分、今日は約束もあるし、比較的早足で帰ってきたので余裕はあるが、俺はすぐに話題を切り出した。
「昨日話した茜先輩に今日会って、昨日の結果を話したんだけどさ、なんか明日この家に来て、話せる限り話すらしいんだけど、さすがに家には入れないよな?」
今日は早く帰ってきたのだろうか、もう夕食を食べ始めようとしていた両親に告げる。すると父は
「いや、別にいいんじゃないか?」
と一言。ウッソだろおいおい。
「昨日、何かあったら言うように言っておいて、それは断らないよ。」
と父は言う。
「いやでも、さすがに急すぎないか?少し失礼というか、そんな風には思わないの?」
「それだけ早く伝えたい、重要なことなんだろう。空の学校生活に深く関係してくる可能性がある人たちが、それだけ空のために動いてくれるんだ。むしろ、信頼できる人のように、俺は思うぞ。」
そのように親には映るのか……。確かに、俺は相手方の思いについて考慮できていなかったかもしれないと、少し反省した。しかし、まだ俺は納得しきれない。
「でも、この家に入られるのは、嫌なんじゃないの?今まで誰も入れて来なかったでしょ。」
「それは、ただ単にこの家の中に入れるだけの重要さがあることがなかったってだけさ。息子の大事な判断のための話し合いなら、喜んで家に入れるよ。」
……なるほど。これには何も言えなかった。
「お母さん、お兄ちゃん、今言ったのでいいよな?」
と父が言うと、二人とも強く頷く。これによって、茜さんの家族が家に来て、俺の家族と対面することが確定したのだった。
「じゃあ、許可が下りたってことで連絡するよ。」
そう言って、俺はスマホを取り出す。時間を見ると、7時22分。結構時間が危ない。なぜ7時30分以降はダメなのかはよくわからなかったが、約束は守るに越したことはない。『許可が下りました。明日、何時に来ますか?』と送ると、すぐに『13時30分で。こちらの親からも、予定は空いてると許可出ました。』と返事が来た。いやそっちの親の予定もわかってなかったのかよ!とツッコみたくなるが、まあいいだろう。……とうとう明日、家族同士が対面する。
今回は、かなり1区切りが長いうえに何回か修正を入れたので大変でした。