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第3話 バスの中で

第3話です。

 「えっ……?」

俺は思わず驚きを口に出してしまった。だって、そこには俺が一本早いバスで帰ることになった元凶(まあ俺の自業自得なのだが)が当たり前のように居たからだ。

「いやー、運動とか全くできなさそうなのに、結構走るの速いんだねぇ」

「まあ、小学校の頃は代表のリレー選手だったくらいなんで……じゃなくて、なんであなたがここに居るんですか!?というか、名前は!?」

疑問が多すぎる。まあそもそも、今日話したのは20分弱でこんなに親しい感じなのがおかしいのだが、色々と彼女のことを考えていた俺はそんなことには気づかなかった。

「まあ、今日名前も知れずに終わっちゃって残念に思ってたところで、偶然また会えたってのは何か感じるし、自己紹介くらいしたほうがいいか。私は月野茜つきのあかね。二年生ね。普段からバスで登下校してるよ」

「自分は月見空、一年生です。よろしくお願いします」

「よろしくね」


 自己紹介を聞いた俺は、いくつかの疑問を抱いた。

「いくつか疑問はあるんですけど、まず、普段このバス乗ってましたっけ?」

まずそこは俺にとって大きな疑問だった。俺も普段からこのバスに乗っているのに、こんなに目立つ髪の人が居ることに気づかないわけがないと思ったからだ。しかし、茜さんは

「あなたいつもバスで寝てるじゃん」

と一言。なるほど、確かにそれはそうだ。

「怖いくらいいっつも寝てるから、無意識に注目しちゃうんだよね。あなた何か滅茶苦茶に忙しい生活だったりするの?」

「いや、ちょっとロングスリーパーで毎日10時間寝ないと足りないって感じなだけなんですけど。まあ、普通に夜遅くまで起きちゃってるんですよね」

「……!!!!」

茜さんは俺のその告白はかなり驚いているようだった。さすがに驚きすぎではと思い、

「そんなにですか?」

と聞くと、

「いやー、完全にゲームばっかりしてて夜更かししてるゲーマーとかかと思ってたから、ちゃんとした理由があってビックリ」

とのこと。俺、若干バカに見られてるな?と思ったが、先輩なので黙っていることにした。

「ていうか、ロングスリーパーを、堂々と言えて、しかもそれのケアのために人前でも眠れるのって凄いね」

と茜さん。

「まあ、自分は大切にしないといけないので。これは自分だけじゃなく、他の人も自分を大事にしてほしいですけどね。勉強を一日中やってるっていう同級生とか見ると、本当に言いたくなります」

これは心から自分が普段から思っていることだったが、茜さんには結構衝撃だったようだった。そう思っていたら、

「……自分大好きじゃん、あなた」

と茶化された。前言撤回。この人には恐らくあんまり響かなかった。


 先輩にいじられているような感じのやり取りが続いたが、そもそも先輩なのにここに居るというのも不自然だった。他の大半の上級生は、今は部活をしているはずだ。

「そういえば、二つ目の疑問なんですけど、茜先輩何部なんですか?普通ならこのバスには居ないと思うんですけど」

「あ、先輩呼びはめんどいからいいよ。呼び捨てとかさん付けとかで」

「じゃあさん付けにしておきますね」

「ならよし」


 その時、俺の心の中では「なんか自然に部活の話題を避けられたんだが……?もしかして、茜さん、サボリ……?」と悪い予測がグルグル回っていた。これ以上つっこんで聞いていいのか迷ったが、ここで聞かないと、ずっと疑いの目を向けて茜さんと接することになりそうな気がしたので、ここは地雷を踏んでもしょうがない覚悟で、さらに聞いてみた。

「茜さんって、部活サボリだったりしますか……?」

結構ヤバい質問かと思ったが、茜さんは落ち着いて

「うん、そうだよ」

と悪びれもせず一言。「この人には遠慮はいらないんだな」とこの時学習した俺だった。更に話を聞いてみると、なんでもこの学校で最も人気がある部活、女子バスケ部の部員だが、そのメンバーに入る競争に疲れてしまったのだそう。「大変だなー」と他人行儀に思ったが、相手もこんな感じだしいいだろう。気がつけば雰囲気はかなり緩んでいた。


 そして、雑談もそこそこにしていると、バスはもう茜さんが降りるバス停まで来ていた(茜さんは俺より一個後のバス停で降りるとのことだったが、雑談がしたかったので俺はあえていつものバス停で降りなかった)。時刻は7時15分と、珍しく15分も遅れていたが全然気にならないような時間だった。

「じゃあ、またね」

「また」

俺は、普段より少し遠いバス停から家の目指す。今日のことを思い出すと、心も足取りも軽くなっていく感覚があった。








 「はぁ……。よりによってこんないい人を見つけた日にバスが遅れるなんて。これじゃ喜びに浸る時間もないよ……。急いで帰ろう。そして、あの人のことは、早いうちに親に伝えよう」

月野茜は、家に向かい、駆け出した。

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