第21話 変わらずいるために変化を
第21話です。
茜さんには今日の理科の話は絶対しないとなー、と思いながらいつもの場所へ行くと、茜さんが既に待っていた。いつもと変わらない表情で。
「お疲れ様です」
「……」
茜さんからの返事はなかった。
「どうしたんですか、茜さん?」
「空は……もう知っちゃったんだもんね……私の病気のこと……」
茜さんは、今まで俺に聞かせたことがないような暗い声で言った。
「…………茜さん、言いたくないですけど……演技ヘッタクソですね」
俺がそう言うと、
「えーーーー!?!?バレてた!?私の演技!?」
本当にいつも通りの茜さんに戻ってくれた。
「いやいや、茜さんそういう柄じゃないですし、普通に発言がめっちゃめちゃに棒読みでした」
「えぇー、マジかぁ」
この様子だと、もし少しでも心配するような素振りを見せていたら、とんでもなく煽られたことだろう。危ない危ない。今日は茜さんのトラップを看破してやった、と思っていると、
「昨日は、「…………まだ茜さんのことを理解出来てないとしか、思えません…………」とか言ってて頼りなかったのにさぁ、一晩でずいぶんと成長したみたいで、ねぇ」
茜さんが、ニヤっと笑みを浮かべながら言った。うーん、やっぱりこの人には言い合いでは簡単には勝てない。ここは両刃の剣である切り札を出すか…………?
「でも、こんな頼りない俺に対して、なんだかんだ茜さん、昨日はなんか駅のベンチで、あの……寄りかかりながら寝たりとか……してましたよね」
「………………」
茜さんは顔を真っ赤っ赤にして黙ってしまった。目も、俺に助けを求めるように訴えかけている。お互い大ダメージだけど、茜さんのかわいすぎる照れを見れたから俺の完全勝利でいいよな?
「真面目な話に戻しますけど、どういう感じで茜さんとこれから関わっていくのがいいですかね?個人的には、今までのを継続していく感じがいいかなと思うんですけど」
我ながらはっきりと自分のためにも他人のためにも思っていることを表現できるようになったなぁ、と言いながら思う。
「そうだね。私も、多重人格なのが知られたからといって別に日々の生活に支障が出るとは思わないしね。なんなら、言い方がアレだけども、そんなことで空は態度を変えちゃうような人だとは思わないよ」
茜さんは、いつもと変わらない声色で、何気なく俺を喜ばせることを言った。
「だけどさ、1個だけ空に、今までと変えてほしいところがあるんだよね」
「何ですか?」
すると茜さんは、覚悟を決めたような、強い一つの決意を固めたような顔になった。そして、
「空には、私の夜の人格とも、変わらずに仲良くしてほしいんだ」
そう、告げた。
「夜の人格とも……ですか」
「空にとっては、ちょっと大変かもしれないけれど、私は、いや、少なくとも昼の私は、2人の人格を両方含んだものこそが月野茜だと思うんだ。だから、私と変わらず仲良くしたいなら、夜の私とも仲良くしてほしい!!」
茜さんの、全てを込めたであろうお願いだった。
「どうだろう……?」
それを聞いて、俺は返す。
「もちろんです。むしろ、茜さんから言われなかったら自分からお願いしたいくらいでした」
「あぁー、よかった。やっぱり空はそうでなくっちゃね」
茜さんは、当然そうだよね、と言いたげな表情でウンウン頷く仕草をした。
「もしこれで嫌そうな顔したら、「私の夜の人格も平等に、大切に扱え!!」って言いながら一撃食らわせてたよ」
「いや、それは怖いんですが」
俺に信頼を置いてくれているのはありがたいが、期待から外れたときが恐ろしすぎる。
「てことでさ、空は私の夜の人格とこれから仲良くしていくと思うんだけど、やっぱり会う機会がそもそもないじゃん?その機会をどうつくるかが問題なんだよね」
茜さんの言うことはもっともだった。茜さんの人格が切り替わるの自体は午後8時でそれほど遅い時間ではないが、そこからそこから話をして交流を深めていくには2時間程度は必要だろう。また、人格が入れ替わる時間のブレも考えると、8時30分以降に2時間程度遊ぶ約束をするのが良いだろう。
ただ、それは中学生にとってはなかなか難しい条件でもある。別に互いの両親がそれを認めない、ということはお互いが信頼している様子を見ても、ないだろう。問題は、補導されてしまう可能性があるために、遊びに行ける場所がないということだった。
「「うーん…………」」
茜さんも俺も、いい場所が思いつかずに悩む。
「補導を恐れないって選択肢は……」
「絶対ないですよ。進学校に通う身として、そんなことがあったら、いくら俺たちの関係でも会うのストップかけられますよ」
「それは絶対ダメ!!!!!!」
「……ですよね?」
今日はなんか茜さんの言動がかわいいな??
「そもそも、補導を避けたいなら公共施設は使えないから、自分たちで遊ぶ内容だったりを考えるしかないんじゃない?」
茜さんは、投げやりに言う。確かに、補導を避けるなら自分たちだけが使えるようなパーソナルな場所で遊ぶしかないかもしれない。…………いや、待てよ?
「夏祭り!茜さん、夏祭りはいけるんじゃないですか!?」
そう、そもそもが夜に行われる公共のイベントなら、自然に夜まで居られるのでは?しかし、それに対して茜さんは
「うーん、いいとこは突いたと思うんだけどねぇ。私たちの町の夏祭り、屋台が閉まるのが10時だから、ちょっと時間が微妙なんだよね。後、まだ時期としてもちょっと早いし」
確かに、まだ夏祭りまでは一ヶ月弱ある。そこまで待っていては、もどかしさで俺がおかしくなってしまうかもしれない。
良さそうだった案が一つ消え、完全に会話も止まってしまった。空気が非常によろしくない。うーん……。
「茜さん、ちょっとニッチかもしれないんですけど……」
実は俺の頭の中には、最初から一つの選択肢があった。しかし、それが茜さんにもウケるかは疑問が残ったため、言わないでいたのだが……この状況なら、とりあえず言った方がいいだろう。
「星、見に行きませんか?」