第16話 海で遊ぶ!(予定)
第16話です。
「美味しかったー」
かき氷を食べ終え、茜さんが言う。
「そろそろ、海行きますか」
「そうだね。誰かさんのせいで、午前中ほとんど海に入れてないしねー」
「うっ」
申し訳ねぇ……。
「とりあえず、その責任は後でとってもらうとして、ごちそうさまだけしよ」
と茜さんが言ったので、
「「ごちそうさまでした!!」」
俺たちは席を立ち、海に向かった。
「どうしてこうなるの…………」
「いや、俺に言われても……」
俺たちが海に入って遊び始めてから10分たったかたたないかといったとき、空に暗雲が立ち込めてきた。
「まだ流石にすぐには降ってこないだろうし、まだ遊べるよね?」
「流石に大丈夫だと思いますよー。これですぐに降りだしたら、もう泣くしかないじゃないですかー」
「それもそうだよねー」
「「ははははは」」
……ポツ、ポツ。
「「ん?」」
パラパラパラパラパラパラ。
雨の音だった。そしてそれは‥。
パラパラパラララララザザザザザザザ。
あっという間、いや、実際にはあまりにも急に降りすぎて俺も茜さんもビックリして声が出なかったから っという間に雨が降り出し、豪雨になった。
「ヤバいですよ、一旦建物に入りましょう!」
「一刻も早く入らないと、相当濡れちゃうよこれー!」
「うわ、雨がもはや痛いんですけど!」
「走れーーー!」
……こんなことがあって、今のこのずぶ濡れの有り様というわけだ。
「もうこれ風邪ひいちゃいそうですね。茜さんは大丈夫ですか?亅
「まあなんとかなったかな。それよりも空のほうが心配なんだけど、大丈夫?もう着替えを買う分のお金残ってないでしょ?」
「なんとか乾きはするかなーと思うので大丈夫です」
茜さんはこういうところで気がきくんだよなぁ、と感心しながら俺は答えた。
「なら良かった。空との特別な思い出ができないことよりも、空とのいつもの日々を過ごせなくなる方が私は嫌だからね」
ふいに、こういう俺をドキンとさせる発言をするのはやめてほしかったりもするが。
茜さんの発言に心は熱くなった俺だったが、外は依然として雨が降り続けていて、なんならますます強まり、気温も下がっているようだった。
「うーん、外の様子を見る限り、これはもう帰るしかないかねぇ」
茜さんがそう言ったとき、時刻は2時を過ぎたくらいだった。
「まあ、門限までは余裕がありますけど、無理に遊んで帰れなかったりしても大変ですしね」
「まだまだ時間あるのに、そんなことを考えてくれてるんだ」
茜さんは驚きと感謝が混じったような、言葉では言い表せないような優しい声を出した。
「やっぱり、自分も他人も大切にするには、その人が大切にしているものや、それに関する約束は守らないといけないと思うので」
「さすが空だ」
「あっ、はい」
ストレートに賞賛されるのは、普段の茜さんとのやり取りではなかなかないので、少し反応に困る。
「ただね……」
「?」
「私もそれくらいはシッカリ考えてるから!!!やっぱり空は私のこと全然分かってないし、なんなら軽く見てる!!!」
全然褒められてなかった。むしろちょい怒られてた。
「あのねー、前にも言ったけど、私は時間で……」
このあと、10分以上茜さんのありがたいお話が続いた。
そんなこんなで話をした後(まあ俺はほとんど話を聞かされてたんだが)、俺たちは豪雨の中を駅に向かって傘をさして歩き始めた。結構上り坂がキツく、雨もあって、来たときのように進まない。すると茜さんが、とんでもないことを言う。
「ごめん、さっきちょっと怒りすぎて電車の時間ヤバいかも」
????????
「え、本気で言ってますか??」
この人はさっきまで何を語っていたのだろうか。まさか現実でこんな即落ち2コマを、登場人物として見ることになるとは。
「あの……本当に……ごめん」
「全然大丈夫です。こういうところも含めて茜さんだと思ってもいるので」
「…………ありがとう」
さすがに今は、茜さんといえども言い返そうとは思わないようだった。
「というかそれなら、走って駅行きましょうよ」
「そうだね」
そして俺たちは駅へと走り出した。……のだが、
「っ痛!」
走り出してちょっとすると、隣を走っていた茜さんの姿が後方に消えた。
「大丈夫ですか!?」
「ちょっとやっちゃったかも」
見ると、茜さんの右足首が赤くなり腫れ上がっている。雨で滑るか何かして、ひねったようだった。
「えーと……肩、使いますか?」
そう言って、俺は左肩を差し出す。普段の俺なら、100%出てこない行動だったが、なんだかミスをして縮こまっている茜さんの前なら、ちょっとカッコつけられる気がした。
「…………両肩、お願い」
「わかりました」
「……ごめんね、私は傘に入らないでいいから、空が存分に使ってね」
両肩に掴まってないといけないような状況でありながら、茜さんは俺を心配してくれているようだった。確かに、俺は自分が濡れたくはないから、俺は傘に入る。ただ、俺は他者にも、自分を大切にしてほしい。
「大丈夫ですよ。俺の傘、2人なら余裕で入れるくらいには大きいので」
「……さすが空」
そして俺と茜さんは、寄り添いながらゆっくりゆっくり駅へと向かう。