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第14話 海に飛び出せ!

第14話です。

 とうとうこの日が来た。7月第3週、夏休みに入る直前の土曜日。俺と茜さんは海に行く約束をこの日にしていた。この日の一週間ほど前から、土曜日は激しい雨だという予報が出ていて延期も検討していたところだったが、なんとか金曜日に予報が晴れに変わり、無事に海に行けるのだった。


 今の時刻は8時30分。約束の時間は9時だったが、茜さんは早く来るのがわかっているので、「せっかく初めて自分から場所を提案したのだから」と、俺はかなり早めに来ていた。ただ、少々早く来すぎた感じはある。どうやって時間をつぶそうかと考えていると、

「おはよー。来るのなかなか早いね?」

茜さんがもう着いた。「そんなに長くどうやって時間をつぶそうか考えていたかな?」と疑問に思い時計を見るが、時刻はまだ8時40分。茜さんもいつもより気合いを入れて来てくれていることに嬉しくなる。


 「茜さんも、いつも早いですけど、いつも以上に早いですね。」

「まあね。ちょっと楽しみな気持ちが抑えられなくてね。」

茜さんがウキウキなのが声色からもわかり、俺はさらに嬉しくなる。

「まだ20分前だけど2人揃ったし、もう行っちゃおうよ!少しでも長く、海を楽しみたいからね!!海でそんなにやりたいことがあるわけじゃないけど、周りの海の家とか見るためにも、時間は必要だし!お昼何食べようかなー……。」

「茜さん、電車なんで早く集まっても早く行けるわけじゃないですよ……。」

「あっ……。」

ちなみに言っておくと、このあたりは、電車は1時間に1本しかない。そんなわけで俺たちは、30分ほどのもどかしい時間を味わうことになった。


「次は、○○通り前、○○通り前~。」

電車内に、アナウンスが告げる。

「着きましたね。行きましょうか。」

俺と茜さんは二人で電車から降り、駅の出入り口へと向かう。


 「ここから海までは、さっき調べたところ、歩いて15分くらいだそうですよ。」

俺は電車に乗っているときに調べておいた情報を告げる。

「まあそんなに遠くもなく近くもなくって感じかぁ。」

「そんな感じですね。」

「ところでさ、こっちの方向かってる人結構少なくない?」

茜さんのその一言に俺は周囲を見回す。確かに、絶好の海日和というくらいに晴れている今日にしては、人が少ないように感じ、俺は一瞬疑問に思うが、すぐに頭の中で一つの答えをはじき出す。

「恐らく、昨日の午前中までは今日雨の予報だったからじゃないですかね。」

「あー、なるほど。」

茜さんは納得したようだった。

「じゃあ、人も少なそうだし、今日は海を空とたっぷり楽しめそうだね!!」

今日も楽しい日になりそうだ。


 そんなこんなで歩いて10分弱、砂浜がはっきりと見えてきた。

「さっき調べたのよりも早く着きそうですね。」

俺はつぶやく。

「結構急な下り坂だったからかな?」

茜さんが言う。会話に夢中で気づかなかったが、振り返って見ればそこには、帰りが思いやられるような上り坂があった。

「帰りが結構辛そうですね、これは。」

俺は苦笑しながらつぶやいた。


 「まあ、確かに帰りは辛そう。」

茜さんは言った。

「ただ、思っていたよりも早く着くことができたのは紛れもない事実!早く遊ぼっ!!」

そう言うと茜さんは砂浜に向かって駆け出し、砂浜を越えて……海にジャンプで飛び込む!!

「てりゃー!!」

「!?」

豪快な水しぶきと水が跳ねる音が茜さんを包んだ。茜さんの突然の暴走に俺は驚く。だが……、

「行くぜ!」

ここで続くのがこの俺だ!と俺も駆け出す。そして、

「よっしゃー!!」

大きないくつもの雫が、俺を包みこんだ。


 「くー、気持ちいー!」

俺は叫ぶ。いつぶりかは忘れたが、久しぶりの海を体感し、俺は感動する。

「この独特のあたたかさ!潮を感じるにおい!足の裏をくすぐるサラサラの砂!最高!!」

俺の全力の叫びは、この無限の広がりを感じさせてくれる海が受け止めてくれる。これまた安心感があって心地よい。


そんな風に満足している俺を見て、茜さんは申し訳なさそうな表情をしている。何かあったのか?

「どうしたんですか?何か飛び込んだときにケガでもしたんですか?」

俺は少し心配になって聞く。

「いや、そういうことでは全くないんだけど……。」

茜さんはさっきよりも申し訳なさそうな表情をする。

「本当に何ですか?」

俺はもう一度聞く。



「あのさ……着替え……、持ってきたの?帰りの電車、困らない?」



「あ。」

「私は着替えあるから飛び込んでもよかったんだけど……、大丈夫……じゃないね……。」

俺は水着は中に着ている安心感から、すっかり帰りのことを忘れていた。」


 「終わった……。」 

俺は一人、砂浜でつぶやく。茜さんは、俺の服を買うために、近くのショッピングモールに駆けていった。もちろん服を買うためのお金は渡した。3000円が、自分があまり興味がないファッションというものに消えた悲しみと怒りは大きい。100%俺のせいであるため、怒りを覚えるのはおかしいかもしれないが、これは黙ってはいられないだろう。


 そんなこんなでたっぷりあったはずの、俺たちの午前の海で遊ぶ時間は溶けていった……。

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