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第11話 穴場の公園

第11話です。

 「うっわぁ、すげぇ……。」

俺は、目の前に限りなく広がるように思える花々に、俺は思わずそう零していた。茜さんが俺を連れてきたのは、花々が広がる公園だった。赤、白、黄色、青、紫、ピンク……、色とりどりの花々が列を成していくつもの層のように重なるその光景は、まるで触れる虹のようだった。

「すごくいい感じの場所でしょ、ここ。」

茜さんは花々に目を奪われている俺に向かって誇らしげに言う。俺は感心しながらも、

「なんでこんなすごい場所を知ってるんですか?周りに人がほとんど見当たらないあたり、結構な穴場だと思うんですけど。」

俺たちの周りには2、3グループしか見当たらない。学校の敷地ほどはあろうかというような広さの公園にしては、明らかに人が少なかった。

「まあ、家族で一回前に来たことがあってね。その時は偶然ナビに公園の表示がされていて興味で来ただけだったんだけど、その時に気に入って、それからはたまに一人で来てたのよねー。」

「へぇー、わざわざこんな遠いところまで来るなんてすごいですね。しかも、一人ってことは自転車を黙々と漕いで来てるわけじゃないですか。」


茜さんがこんな遠いところまでわざわざ行くことを不思議に思った俺は、そう尋ねる。

「なんか、ね?私のどこかがここを求めている気がしてたまらなくなるときがあるよねー。」

「はぁー、俺にはわからないですけど、たまに何かに引っ張られるようにどこかに行きたくなるってのはわからなくもないですね。まあ、大抵の場合、睡魔に引っ張られてベッド行きなんですけど。」

「いやもう、なんていうかな、何かに引っ張られるとかじゃなくて、私自身が引っ張ってるかのようにここに来たくなるの。これは本当に私じゃないとわからない感覚だと思う。」

茜さん曰わく、真の自分が求めるような感じなのだという。確かに俺にはそこまでの感覚はわからなかった。「まあ、他人のすべてがわかるわけなんてないしな。会ってまだ1ヶ月もたたない人なら尚更。」俺はそう割り切るのだった。


 「ところで、ここの花々、本当に綺麗ですよね。しかも、ただ単に綺麗なんじゃなくて、それぞれの花一つ一つが絡み合うようにしてこの広い広い公園全体を大きな一つのものにするような、そんな美しさがあってすごく好きです。」

俺は「決まったな……!」と思いながら感想を口に出す。『花一つ一つが絡み合うようにして』ってのがイケてるぜ!

「……。」

そんな俺はよそに、茜さんは花々を見て自分の世界に浸っているようだった。それを虚しく見つめるしかない俺は、「おおぉぉい!?マジか!?」と心の中で絶叫する。


 しばらく周りを花々に囲まれながら歩き、写真を撮ったり花の名前を調べたりしていた俺たちだったが、ある程度開けた場所に着いた。一息つこうかと俺が思ったとき、

「そろそろ昼食でもとろうか。」

と、ちょうど茜さんが言ってくれた。時計を見ると、時刻は既に1時30分を回りそうだった。

「そうですね。そろそろ食べましょう。」

俺は昼食をとるのに賛成し、いい感じの場所を探すと、ちょうど2人座れそうなベンチがあったのでそこで食べることにした。ちなみに、帰りは元々午後になる予定のため、弁当は持ってきていた。周りを花に囲まれながら食べる昼食は、なんだかいつもよりも気分が晴れやかだった。


「午前中で、結構回りましたかね?」

俺は、昼食を食べ終わると茜さんに聞く。

「まあ、ほとんど全部回っちゃったかも。」

茜さんは少し残念そうだった。

「時間的にももう2時ですし、仕方ないですよ。あんまり遅くは帰れないですし。」

「まあ、そっか……。せっかく2人で来たんだから、もう少し楽しみたい感じはあったけど、しょうがないね。」

「なんかもう全部回っちゃったみたいな空気になっちゃったじゃないですか。とりあえず、残りの部分回り終えてから寂しがりましょうよ。」

「何言っちゃってんの。『寂しがりましょうよ』ってどういうワード?面白すぎるんだけど。」

茜さんは、笑いながら言う。俺は自分の発言に手応えを感じて心の中でガッツポーズをした。

「まあ、空の言うとおりか。とりあえず回ろっか。」

茜さんがそう言い、俺たちは残りの部分を回ろうとベンチから立ち上がった。


 ベンチから立ち上がってから30分くらいたった頃、俺たちは公園全体を回り終えた。

「本当に回り終えちゃいましたね。」

俺はポツリと言う。今日初めて来た場所ではあったが、俺はここがかなり印象に残ったので、少し寂しさを覚えていた。しかし、茜さんはさっきとは違い、なぜか心躍るような表情をしていた。

「どうかしたんですか?さっきまであんなに寂しそうにしてたのに。」

俺は疑問を口にする。

「いやさ、本当にちょっと恥ずかしいんだけどさ…………ここに来た本当の目的忘れてたんだよね……。」

「え?」

謎過ぎる告白だった。

「いやだから、本当は花を見て回るのは本当の目的じゃなくてサブの目的だったんだけど……花見るのに夢中になっちゃって忘れてたっていうか……。」

この人……マジか?

「ウッソでしょ!?マジで笑っちゃうわ!」

この人はこういうところが抜けてるから面白すぎる。

「ちょちょ、止めて止めて!本当に恥ずかしいから!」

茜さんは本気で恥ずかしいようで、俺を静かにさせようとしてくるが、俺は笑いを止めない。というか、止められない。


 俺が笑い止んだ5分後、俺は茜さんに導かれて公園を出て、茜さんの真の目的地へ向かう。

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