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エンドロールは流れない

 夜会が終わった後から、アウレウスは私の補佐に復帰した。実の所、正式に補佐を降りた訳ではなかったみたい。ただ、対外的には一応『補佐を降ろされた』ということになっていて、フラグを折ったという形を取ったみたい。週替わりで補佐の人が変わっていたのは、アウレウスが神官見習いから正式に神官になるまでの繋ぎだったらしい。


 夜会の日に、送ってくれた補佐の人が先に帰ってしまったのは、帰りはアウレウスが私を送ることが判っていたからなんだそうだ。私、アウレウスの手の上で転がされてない?


 アビゲイルとテレンシアには、夜会の日のうちに、アウレウスと仲直りしたことを報告しておいた。アビゲイルはちょっと泣いていて、テレンシアは「良かった」と笑ってくれた。


 ルーナ先生はというと、夜会で挨拶することはなかったけれど、私がアウレウスと一緒にいる時に目が合って、やれやれと肩をすくめられてしまった。きっと呆れたんだろうな。


 アウレウスの復帰について、嘆いていた人もいる。ヒラルドお兄様だ。


 夜会の夜、初めての夜会の感想を聞こうと私の帰りを待っていたのだろう、馬車から降りた私をヒラルドお兄様が出迎えてくれた。しかし、エスコートしているのが、アウレウスであることに気付くと、「送迎、ご苦労」と言って、飽くまでパートナーではなく送迎役であるという念押しをしていた。


 アウレウスが帰った後はと言えば「彼は補佐を降ろしたんじゃなかったのかい!?」だとか「まさか泣かされたのかい!?」などと質問攻めに遭ったので、帰ってから就寝できるまでに時間がかかってしまった。


 ヒラルドお兄様に、アウレウスと両想いになって、しかもアウレウスは本夫を目指しているんだという話をしたらどうなるんだろう? ……怖いことは考えるのを辞めよう。


 夜会の後から変わったことはいくつかあるけれど、魔法学園の制服を着ている間、アウレウスの口調は、未だに敬語だ。これは学園の送迎の間は補佐として行動してるからなんだって。


 休日にアウレウスが私服を着てうちに来た時には、ため口で喋っていたからびっくりした。「私は公私を分けるからね」と、ウィンクされたけれど、アウレウスの容姿もあいまって、急な言葉遣いの変更は女誑しにしか思えない。


 普段からスキンシップも多かったし、手も早いのかもと戦々恐々としていたけれど、予想に反してアウレウスは何にもしてこない。むしろ両想いになってからというもの、アウレウスが一番変わったのは、過度なスキンシップがなくなったことだった。


 今までずっと公私混同した言動が目だっていたのに、補佐として動いている時には、エスコートはしてくれるけど、必要以上のボディタッチはしないし、学園にいる間に口説くようなこともない。代わりに、ふたりきりで会っている時には、「かわいい」だとか「愛らしい」だとか、ヒラルドお兄様が乗り移ったかのような賛辞を言ってくるから、赤面してしまうけれど。


「百面相をなさって、どうしたんです?」


 学園からの帰りの馬車の中で、今までのことを考えていたら、アウレウスは私に問いかけてきた。


「アウレウスのこと考えてたの」


 私が笑ってそう言うと、アウレウスはそっと目を伏せて、やや頬を赤くする。アウレウスは私が彼に気持ちを示すのが未だに慣れないみたいで、よく照れる。考えてみれば、夜会以前は、アウレウスの気持ちを拒絶してばっかりだったから、そうなるのも当然なのかもしれない。


「それは、光栄です」


 口元を隠して、息を整えた後、アウレウスはまた背筋を伸ばして涼やかな顔に戻った。多分、夜会以前なら、私がこんなことを言えば嬉々として隣に移り座ってきて、手に口づけたりしてたと思う。……それを当たり前のように受け入れてたのが、今考えるとおかしいんだけど、そういう色仕掛けめいたスキンシップが、アウレウスから消えたのだ。


「私の顔に、何かついてますか?」


 まじまじと見つめていると、アウレウスが居心地悪そうに再び問いかけてくる。


「アウレウス、私に触らなくなったなあと思って考えてた」


「なっ」


 大声を出しかけて、すんでのところで思いとどまったアウレウスは咳き込んでそれを誤魔化した。


「以前は、貴女を口説くのに必死でしたから……」


「もう口説かなくていいから触らないってこと?」


 その割には、口では甘い言葉を囁いてくるけど。


「違いますよ!」


「うん。何となくそれは判るけど……何で変わったのかなあって」


 私の質問に、アウレウスは伏し目がちになって、口元を押さえ、何事かを呟いた。


「うん?」


「だから……その、うかつに触れると、押さえが利かなくなりそうなので、我慢しているんですよ」


 聞き返して得られた答えに、驚きで目が点になってしまった。


「……あんなにベタベタ触っておいて……?」


「あれは……クレア様に、その気がないのが判っていたので……。今は、両想いですから、応えてくださるかもしれないと思うと……」


 片手で顔を覆って、アウレウスはそれきり黙ってしまった。


「……そっか」


 言って、私は正面からアウレウスの隣に移り座る。


「私の話を聞いていたんですか?」


「うん」


 抗議の声に頷いて、私は座席に降ろされていたアウレウスの手に、自分のを重ねた。


「今は『補佐』だから、公私混同せずにできるんでしょう?」


 私がそう言うと、アウレウスは溜め息を吐いて、手を反転させたかと思えば、指を絡めてくる。


「理性がもつことを祈りますよ」


 アウレウスがぼやくのを聞いて、私は笑う。


 また少しずつ、アウレウスとのことは変わっていくことが増えるんだろうな。夜会のイベントは終わったけれど、魔法学園の生活も、聖女としてのお仕事もまだまだこれから。はぁれむ・ちゃんすは終わったけれど、エンドロールは流れない。


 ここからは、判らないことだらけだと思う。でも、そんなの前世の記憶が蘇る前までの生活と同じだよね。アウレウスや、他の皆と一緒に生きていける。


 私は、アウレウスの手をきゅっと握り返して言う。


「これからも、よろしくね」

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