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縁を結ぶお守り

「テレンシアも知ってるの?」


「ええ」


 テレンシアは頷いて、まじまじとアビゲイルのペンダントを見つめる。私は見たことがないし、聞いたこともないお守りだ。


「わたくしも頂きものですが、一つ持っているのだけれど……」


「おおお、お揃いだったんですね。こ、これずっと身につけておくと、こ、効果があがるって……」


 少し嬉しそうにアビゲイルが言うのに、テレンシアはなぜか困ったような顔をした。


「じゃあテレンシアも今つけてるの?」


「いえ……以前はつけていたんですが、辞めたんです」


 テレンシアの答えに、アビゲイルはショックを受けたような顔をする。それに対して「ごめんなさいね」と付け加えてから、テレンシアは私の方をちらりと見てからアビゲイルに目を移した。


「このお守りは『運命の人との縁を結ぶ』『想い人の運命を引き寄せる』という触れ込みなのですわ。でも……運命なんて、関係ないとわたくしは思い直したから」


 テレンシアが微笑んでそう言うので、私は驚いてしまう。テレンシアは、確かにお茶会でそう言ってた。あの時も思ったけど、本当にテレンシアは、闇落ちきっかけである『運命』という言葉から解放されたんだな。


「そうだったんだ……」


 じんわりと胸が暖かくなる。


「わたくしがそうだからと言って、アビゲイルさんのお守りを否定する気はありませんのよ。それは貴女の大事なお守りなのですもの。大事になさってね」


 表情がややしぼんでしまったアビゲイルに対して、テレンシアが言う。


「は、はい……」


 アビゲイルがそう答えた時、応接室のドアがノックされた。


「グランツさんがいらっしゃいましたよ」


「遅くなって悪い」


「あっ」


 入ってきた2人に驚いたのか、アビゲイルはペンダントをとり落としてしまった。テーブルの上に落ちたペンダントはカシャン、と音を立てて私の傍まで滑ってきた。


「大丈夫?」


 ペンダントを拾おうと手を伸ばした瞬間に、バチンと音がして、強い力に弾かれたように、手に衝撃が走る。


「え……?」


 驚いて固まっていると、テレンシアもアビゲイルも驚いたように、ペンダントに目を向けた。


「どうかなさいましたか?」


 アウレウスが近寄りながら聞いてくるのに、私は首を傾げる。


「何だろう……?」


 もう一度ペンダントに手を伸ばすと、今度は普通に触れて、手の平に乗せることができた。しかし、次の瞬間に――。


「クレア様!?」


 手の平のペンダントから、黒い影が勢いよく噴き出てくる。やけに冷たいその影を見ていると、急に目の前がスローモーションになった。誰かの叫び声が遠くに聞こえたように感じる。視界の端では、アウレウスが腕を伸ばしながらこちらに駆け寄ってくるのが見えた。持っていてはいけないと思うのに、ペンダントを乗せた手が、どうしても動かない。


 黒い影が私の視界を覆って隠されそうになったのと同時に、私の胸元では激しい熱を感じた。黒い影よりも先に、全身から迸る光に覆われて、真っ白になる。


「……っ!」


 叫びにならない声をあげて、何秒経ったか判らない頃に、ふっと光が消えて少しずつ視界が戻り始めた。


 私の身体はいつの間にかソファに身体を預けるように倒れこんでいて、アビゲイルのペンダントを強く握りこんでいた。


「クレア様! お怪我はありませんか!?」


 アウレウスが私の背に手を添えて、そっと助け起こしてくれる。


「うん……」


 呆然としながらもそう答えて、アウレウスの顔を見ようとすると、その動きだけで眩暈がした。


「クレア様」


 肩に腕が回されて、支える力が強くなるのを感じながら、私は薄く笑う。


「……ちょっと、だめだったかも」


 小さい声で答えて、ふう、と息を吐く。


 また、聖属性魔法を使ってしまったんだろう。前は気絶してしまったけど、今回はそこまででもない。多分、アウレウスにこないだもらったペンダントが、助けてくれたんだろう。服の下のペンダントが、まだ仄かに熱い。


「申し訳ありません、側を……離れるべきではありませんでした」


 低く歯がみするように言うのに対して、私は小さく「ううん」とだけ言っておく。それを見て、アウレウスは小さく息を吐いた。


「そちらを、預かりましょう」


 言われたところで、私は未だにペンダントを強く握りこんでいたことに気付く。恐る恐る手を開いて見ると、三日月のペンダントは割れていた。


「あ……アビゲイル、ごめん」


「いいいいいえ! わわ私の、方こそ、すすすすみません、すみません、クレア様、ここ、こんなあ、危なそうな、もの……」


 じわり、とアビゲイルの目に涙が溜まっていく。アビゲイルにとって、大事なお守りだったのに。でもどうして、私が触れた途端に、こんなことになったんだろう。


「アビー、大丈夫か?」


 ショックを受けた様子のアビゲイルに、グランツが寄り添うと彼女は黙って俯いてしまった。


「……今は何の魔力も感じませんが……これはアビゲイルさんのものなのですか?」


 私を支えたままペンダントを取り上げると、アウレウスは割れてしまった三日月の部分を見つめる。


「は、い……そ、そうです」


「断定はできませんが……先日の事件は、これが原因かもしれませんね」


 難しい顔でアウレウスが言う。


「っ!?」


「事件……?」


 アビゲイルの声にならない叫びに、テレンシアが小さく疑問符を浮かべる。テレンシアには、まだアビゲイルがモンスター化しそうだったことを、話していないのだ。


 部屋の中に緊張が走る。

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