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そんなキャラでしたっけ?

 ルーナ先生は、ドアに向かって半ば叫ぶように焦った声をあげた。


「薬学の先生が鍵を持ってるだろ!? そうだ、予備が学園長室に保管されている! それを持って来いよ!」


 焦りからなのか、ルーナ先生の口調は随分と砕けている。


「薬学の先生も学園長もご不在のため、学園長室に入室できないのです。ですから……」


 アウレウスの返答を聞いたルーナ先生は、くしゃりと濃紺の髪を乱して、クソっと小さく毒づいた。


「緊急事態だ、鍵屋を呼んで! いや、魔法でドアを壊したっていい! 早くここから出せ!」


「この学園は建物全体に魔法防護が掛けられています。壊すのは無理ですよ。この錠前も、偽造防止の魔法がかかっているので、鍵屋を呼んでも開けられません」


 ルーナ先生の荒々しい言葉にも動じずに、アウレウスは飽くまで丁寧に答える。


「えっじゃあ本当に、閉じ込められちゃったってこと?」


「残念ながら……」


 ドア越しに聞こえるアウレウスの声は、焦りが滲んでいる。もし鍵が見つからなければ、明日は休みだから、下手すると休み明けまで閉じ込められたままということになってしまう。ルーナ先生のフラグは折れてると思うけど、流石にこの状況は……。


 イベントフラグで思い出した。こんな風にルーナ先生と閉じ込められるイベントあった気がする。場所は準備室じゃないし、時期もゲーム終盤だけど……。えっ強制力のせいで、無理やりイベントが進んでるってこと!? さっき恋愛フラグが折れたのに!?


 私は慌ててドアに近寄り、ドアの向こうのアウレウスに話し掛ける。


「アウレウス、どうにか先生を探して、開けてもらえないかな? このままだと、まずいの」


「まさか……例の件関連ですか?」


 ぼかしてしか言わなかった言葉に対して、アウレウスもぼかして聞いてきてくれる。


「そうなの」


 私がそう答えるとアウレウスは短く「わかりました」と答えた。肝心な言葉を言わなくても察してくれるアウレウス優秀!


「実は既に先生を探すようには手配しております。……しかし、先生がどこにいらっしゃるのか判らないため、少し時間がかかるかもしれません」


「……じゃあ、明日までに出られるんだよな?」


 ルーナ先生は相変わらず砕けた口調のまま、アウレウスにそう確認する。


「恐らくは……」


「よかったあ……」


 アウレウスの返答に思わず胸を撫でおろす。ゲームの中でも、ヒロインとルーナ先生が一晩一緒に過ごしてたもんな。閉じ込められてるとはいえ、その状況を再現しなくて済むのは良かった! ルーナ先生も、安堵の息を吐いてずるずると崩れ落ちて座り込む。そのまま、立てた膝に頭を埋めるような体勢になった。


 ……先生が焦ってるのって、閉じ込められてるからだよね? 何か、焦り方が、尋常じゃない気がするけど……。丁寧語の高圧キャラも、元のゲームのルーナ先生のキャラじゃないけど、言葉が砕けてこんなに取り乱すのもルーナ先生のキャラじゃないよね。ルーナ先生は、丁寧語の穏やかキャラだったはず。


 そう考えていると、小さな囁き声が聞こえた。


「あ~もう本当にこのゲームはクソ。これだけ回避しても、イベント強制発生とかマジで無理だわ。つーか、アウレウスいるのに何でこうなるんだよ、は~マジでクソ……いやアウレウスいるだけマシか」


 ルーナ先生が、とんでもないことを呟いている。ルーナ先生は聞こえないように呟いているつもりのようだけど、その言葉は、静かな部屋の中ではしっかりと聞こえた。そんな愚痴言うキャラでしたっけ。それよりも、愚痴ってる内容が、どう考えても……。


 私はルーナ先生の言葉の意図を確認する前に、廊下のアウレウスに声を掛けた。


「アウレウス、ここを離れる必要がないなら、そばにいてくれる?」


「私としましても、お二人を密室に置き去りにはできませんから、ここで待機させていただきます。何かありましたらすぐにお知らせください」


 力強くアウレウスが言ってくれるので、安心する。


「あ、ああ。そうか、そうだよな。うん。アウレウス・ローズ、頼もしいな!」


 はっとしたように、ルーナ先生は顔を上げると、急激に機嫌が良さそうにそう言う。丁寧語威圧キャラはすっかりなりを潜めている。私とふたりきりになることがとても嫌なようだから、恋愛フラグは折れていると見て間違いない。


 アウレウスがすぐそばにいるから、一か八かのかけなんだけど確認してみよう。


「あの……ルーナ先生」


 私がそう声をかけると、ルーナ先生はびくりと震えて、私に目を向ける。その顔は再び不機嫌そうに引き締まる。

「僕は君とは話すことはないと言ったはずですが?」


 再び高圧的な声音になっている。ゲームに出てこなかっただけで、あの砕けた口調の先生が素なのかもしれないし、キャラが違うというのも、あんまりゲームをやりこんでいない私の勘違いかもしれない。それでも、聞いてみる価値はある。もし違っても、謝って誤魔化せばいい。


 私は、きゅ、と拳を握って気合を入れると、まっすぐにルーナ先生を見つめ返した。


「はぁれむちゃんすって知ってます?」


 私の問いに、ルーナ先生はぽかんと口を開けて、黙り込んだ。


「……………君も、知ってるの?」


 たっぷり数十秒の沈黙の後に、やっと言葉を発したルーナ先生の顔は、驚きと戸惑いばかりが浮かんでいた。

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