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アウレウスに相談して良かった

 アウレウスがお見舞いに来た日から、3日後、私は久々に登校することになった。翌日以降はアウレウスに会っていない。ヒラルドお兄様とお父様が私に面会謝絶を言い渡したからだ。リーンは、私がアウレウスと会っている時に泣いていたことは黙っていてくれたみたいだけど、結局寝室に彼が入るのを許したことをヒラルドお兄様に伝えてしまったようで、私はお兄様にお小言を頂いてしまった。と言っても、体力のない私に対して、そう長い時間お説教する訳でもなかったら、良かったのだけど。


「お前は本当に、淑女としての自覚を持ちなさい。お兄様は気が気じゃないよ」


「見舞いに来ていただいた方の気持ちを大事にして会うのは優しいクレアらしいけど、お前は今身体が弱っているんだから、大事にしなさいね」


 そんな風に2人に言われては、頷くほかない。幸い、アウレウスは次の回復を待つつもりのようで来てはなかったけれど。


「お嬢様、今日は久々の登校なんですから、ご無理をなさらず、今日は早めにお帰りくださいね。補習も今日はありませんよね?」


「うん、ないから大丈夫」


 朝の支度を手伝っていたリーンが心配そうに言うのに、私は少し笑って答える。いつもなら少し脅すニュアンスで言ってくるリーンだけど、やっぱり倒れたのは心配かけちゃったんだなあ。


「絶対ですよ。ヒラルド様もご心配なさいます」


「リーンも心配してくれる?」


「……知りません」


 ふい、とそっぽを向いたのに笑う。そんな会話を経た後に、迎えの馬車に乗り込んだ。もちろんいつものように、アウレウスのエスコート付きである。


「体調はいかがですか?」


 馬車が走り始めてすぐに、アウレウスは私に問いかける。


「数日横になってたから体力が落ちてる感じはするけど、もう元気だよ」


「それはよろしかったです」


 ほっとしたようにアウレウスは言う。


「さっそくですが、今後の対策について、クレア様の心づもりをお伺いしても?」


 アウレウスに頷いて、私は考えていたことをアウレウスに伝える。


「私はルーナ先生のフラグを折りたい。……けど、本来ならルーナ先生と何度か遭遇してるはずなのに、全然会わないんだよね。編入の初日以来会ってないんじゃないかな」


「……ふむ」


 アウレウスは顎に手をやって考える風にする。


「ただ、手をこまねいて待ってると、この先どんな風にイベントが強制的に発生するか判らない」


「クレア様のお話ですと、その『イベント』という物が小説のストーリーをなぞるように起こるはずだということですよね」


 確認するようにアウレウスは聞いてくれる。正直、乙女ゲームの世界だなんて眉唾な話を信じてくれただけでもありがたいのに、アウレウスは私がたどたどしく説明しただけの内容で、しっかりと状況を飲み込んでくれている。聞きなれない『イベント』なんて単語も覚えてくれてて、頼もしい。やっぱりアウレウスの言う通り、もっと早くアウレウスに相談したほうが良かったのかも。


「では、イレギュラーなイベントを避けるために、ストーリーに沿って動くのですか?」


「そう……した方がいいんだよね、きっと」


 言いながら、沈んだトーンになってしまう。ストーリー通りなら、ルーナ先生のフラグを折ろうが折るまいが、ルーナ先生の婚約者は闇落ちしてしまう。ストーリー通りに進んでしまえば、闇落ちを避けられないから、どこかでストーリーを捻じ曲げる必要が多分ある。けれど、どんな変化を与えれば強制力の影響を受けずに、闇落ちを避けられるのかが、判らない。


「まずは、そのルーナ先生との恋愛フラグを折るのは、一番でしょうね」


「うん……やっぱりそうだよね」


 少なくとも、私とルーナ先生の恋愛フラグが残っている限りは、闇落ちフラグは残り続けるんだから、恋愛フラグを折った後に闇落ちフラグを回避できればいいのかな?


「次に闇落ちモンスター化を食い止める方法ですが、『身体に何が起こってモンスター化するのか』を突き止めることも必要でしょうね」


「えっ?」


 考えてもみなかったことを指摘されて、私は思わず驚きの声を上げてしまう。


「だってそうでしょう。人間は普通モンスター化などしません。文献に記されているのは、人間以外の生物のモンスター化です。それに、貴女という聖女がいるにも関わらず、学園内でモンスターが発生するということ自体が異常でしょう? 何らかの原因があるから、モンスター化するのだと考えるのが妥当です」


「そ、っか……そうだよね……」


 震える手で私は口を抑えた。私はゲームの世界だから、ストーリーのフラグを折れば、モンスター化を回避できると、勝手に思っていた。ゲームのシナリオで決められた流れだから、モンスター化するのであって、その『原因』が何かなんて、考えてなかった。


 私は、この世界で生まれて15年も生きてきて、前世の記憶が蘇ったのは、ついこないだのことなのに。


「ふ……ふふ」


「どうかしましたか?」


 急に笑いだした私を、アウレウスが怪訝そうな顔で見てくる。でも多分、この気持ちをアウレウスに伝えるのは難しい。


 この世界は、現実なのに。ゲームじゃないのに。……15年生きてきた私が判ってるはずなのに、『ゲームだから』って思い込んでるとこがあった。きっとこれは、アウレウスが言ってくれなきゃ、私は気付かなかったんだろう。


「何でもないの。ただ、アウレウスに相談して良かったな、って」


 全てはいえないけれど、私はアウレウスにそう言う。


「そう……ですか。ならよろしかったです」


 ふい、と目を逸らしてアウレウスは照れたように言う。こういう反応は珍しいな。


「よし。じゃあ、その原因究明は同時進行することにして……ルーナ先生の方は、まずは研究室に届け物をするイベントをしようと思う」


 何気ないイベントだが、ルーナ先生のイベントは基本的に回数をこなすことで好感度を上げていくものなのだ。一目惚れで即落ちするバシレイオスや女たらしのグランツはゲーム内ではイベントを何度もこなさなくても好感度がすぐ上がって付き合い始めるけど、ルーナ先生がゲーム内でヒロインと付き合うようになるのはゲームの終盤だ。


 アビゲイルのモンスター化イベントが終わった今となって、ルーナ先生とのイベントが出会いイベントだけというのは、ゲームから大きく逸脱しているはず。


「そうですか……そのイベントに私はご一緒しても?」


「多分……今までずっと一緒にイベントこなしてたから、アウレウスも一緒に居られると思う」


 私が返事すると、アウレウスは頷いて微笑んだ。


「では共に参りましょう」


「うん、お願い。ルーナ先生の好感度を下げるように、頑張る……」


 頑張って好感度を下げれば、恋愛関連のイベントフラグは一度で折れて、後は婚約者さんのモンスター化を防ぐ手だてを考えるだけで良くなるはず。


 よし、方向性が決まってちょっと前向きになれそう!

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