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フラグ折り簡単なのでは!?

「わわ私は……一緒に、お弁当食べてくれる人が……いないので……」


 ぼそぼそと喋るアビゲイル。


「それなら明日から私と一緒に食べる?」


 考えるよりも先に、私はアビゲイルに提案していた。


「え、ええええ」


 ガタッと椅子から立ち上がって、アビゲイルは大きな声をあげる。


「ね、友達になろうよ。迷惑じゃなければ」


 思い付きで言ったけど、これってかなりいいアイデアな気がする。私もテレンシアしか友達いないし。あ、自分で言ってて悲しい……。


「めめめ迷惑だなんて、そそそそんな」


 ブンブン首を振って慌てる様が可愛い。


「わわ私なんかがと、友達だなんて、クククレア様の迷惑に……さ、さっきも食事を台無しに、ししてしまいました、し……」


 アビゲイルは人の心配ばっかりしてるみたい。さっきも、自分の服が汚れてるのに床の掃除を一生懸命したり、私の着替えを先に出してくれたり、人を気遣ってばかりの子なんだな。


 どうしてこんないい子が、闇落ちしちゃうんだろう。


「迷惑じゃないよ。だめじゃないなら、友達になって?」


 きゅ、とアビゲイルの手を握ると、彼女はびくりと震えた。


「あ、ありがとうございます……」


 俯いたアビゲイルの声は、上ずった鼻声だ。つられて私も鼻がつーんとする。


「お礼を言うのはこっちの方だよ。お弁当も、本当にありがとう! 食べよ食べよ!」


 えへへ、と笑いながら誤魔化して、私はアビゲイルを座るように促す。


「午後の授業を全てサボるわけにはまいりませんから、急ぎましょう」


「そうだった!」


 横で嘆息したアウレウスが言うのに、私は慌てた。いくらアウレウスが遅れるって伝えてくれてたとしても、必要以上に遅れるのはまずいよね。


「ごごごごめんなさい!」


 それに合わせてアビゲイルも慌てて食べ始めた。


「こんなにおいしいサンドイッチなのに、ゆっくり食べられないの勿体ないなあ!」


「まままた、つ、作りますよ」


「いいの!?」


 アビゲイルの提案に今度は私が驚く。


「いいつも沢山、作ってますから」


「やったー!」


 思わずガッツポーズを取ってから、はっとしてそっとその腕を降ろした。淑女教育受けてるのに、最近前世の記憶取り戻したからか、前よりも動作が前世ぽくなっちゃってる気がする。注意しないと。


「ふふ」


 横からかすかな笑い声が聞こえた。ぱっとアビゲイルを見ると、口元がほんのり笑んでいる。会ってから初めて笑ったんじゃない? やった!


「へへ」


 ガッツポーズを見られたのは少し恥ずかしかったけど、アビゲイルが笑ってくれたなら悪い気はしない。私はへらっと笑って、サンドイッチの続きを食べ始めた。


 そうしてその日は急いでお弁当を食べ、何とか5限目の途中で授業に合流できた。


 ちなみに翌日も、昼休憩に入った時もいつもと違うことがあった。


「クレアさん、話があるから、今から少し時間をもらえないかな!?」


 また名前を覚えていない男子生徒が話しかけてきたのだ。多分、謎の告白だったんだと思うけど、私は済まなそうに微笑んで断った。


「これから別の方と食事する予定があるんです、ごめんなさい」


 私がそう答えると、聞き耳を立てていたらしい教室内が一瞬ざわめいた。男子生徒は「わかりました、また誘うよ」と言ってとぼとぼ帰って行った。


 けれどそれだけじゃなくて、見守っていたテレンシアがすーっと私に近づいてきたのだ。


「クレア様。アウレウス様と二人でお食事するのでは?」


 笑みを浮かべたままテレンシアが、チラっとアウレウスを見て尋ねる。テレンシアは休憩時間に話したりはするけど、昼食は一緒に食べたことがなかった。


「うん、アウレウスも一緒だけど、昨日友達になった子も一緒にご飯食べるの」


「まあ…………そうなんですの? 新しいお友達……そう」


 テレンシアはまたもアウレウスをちらっと見た。


「アウレウス様とおふたりきりじゃないなら、わたくしもご一緒していいかしら?」


「テレンシアも一緒? もちろん! あ、いいよね、アウレウス」


 アウレウスの意思を確認してなかった、と思い出して彼を振り返る。アウレウスは張り付いたような笑みを浮かべていた。


「クレア様が良いのでしたら、私が拒む理由などございませんとも」


「あら、良かった」


 アウレウスの返事に、テレンシアはふふっと悪戯っぽく笑った。


 そんなやり取りを経て、私はその日から昼食をアビゲイル、テレンシア、アウレウスの4人で食べるようになった。


 アビゲイルはお弁当を時々作ってくれる。作ってもらって気付いたんだけど、これって闇落ち弁当のフラグ折れてない? お弁当を受け取る人間がちゃんと出来た訳だし。


 友達も増えて、闇落ちフラグも折れるなんて、超ラッキーだな!


 ……なんて、その時は思っていたんだけど、世の中そう甘くはなかった。

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