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変な噂流さないでもらえます?

「クレアさん、俺と婚約を考えてもらえませんか?」


 真剣な面持ちで言って来たのは、まだ名前も覚えていないクラスメイトだった。昼休憩に話がある、と言われてアウレウスが一緒でも良いならと承諾して、中庭で話を聞いてみればこれである。


 お茶会から一週間、ここ数日人からチラチラ見られていることが多いとは思っていたけど、聖女として編入しているからそういうものだと思ってたのに……。


 待って、このクラスメイトって私が覚えていないだけで、もしかして攻略対象者の一人なの? こんな婚約を申し込まれるイベントなんてあった?


 アウレウスは私の半歩後ろで立っているだけで、何も口出しして来ない。


「え……と……何て言っていいか……」


 そもそもこれがイベントじゃなかったとしても、名前も覚えていない人との婚約を考えて欲しいと言われても困る。だから私の答えは、これしかない。


「……ごめんなさい。今はそういうことが考えられなくて」


 頭を下げると、クラスメイトは落胆の息を吐く。


「……諦めないので、心に留めておいてください」


 そう言って、クラスメイトは踵を返して去って行った。


「ふう……」


 何とか揉めずに、去って行ってくれて良かった。ちょっと次の授業とか、気まずいかもしれないけど。


「大丈夫ですか?」


「うん」


 アウレウスが声を掛けるのに応えて教室に帰ろうとすると、クラスメイトとすれ違う形で別の男子学生が中庭に入ってきた。


「クレア・バートンさん」


 すれ違う前に声を掛けられて驚く。よく見れば、この人もクラスメイトだ。


「はい?」


 何で呼び止められたんだろう、と思う間もなく、男子学生は私の前にさっと手を差し出してきた。


「俺と結婚して欲しい」


「へ?」


「俺は婚約者が居たことがないし、現状付き合っている女性も居ない。婚約を受け入れてもらえるなら、今後他の女性に目を向けることもないと誓おう。だから、クレアさんが求める男性像には合致すると思う。いかがだろうか?」


 いかがだろうかと言われても困る。私が現状を把握しきる前に、まくしたてないで欲しい。どうしてこんな立て続けに求婚されてるんだろう。私の知らないうちに魅了スキルでも獲得したっていうの?


「あの……ごめんなさい。急に結婚と言われても考えられないです」


「結婚は今すぐというわけじゃない、まずは交際だけでもいい」


 ずい、と更に手を差し出してくる。


「お試しでお付き合いなんて、不誠実なことはできません。ごめんなさい」


 頭を下げてから恐る恐る顔をあげると、何故か男子学生は破顔して笑っていた。


「噂にたがわぬ誠実さだ! ますます嫁に欲しい。いや、うん。まずは友人からでもいい。なに、学園に通う時間でお互いを知れよう。昼時にすまなかったな。では失礼する」


 一方的に私の手を握ってそう告げると、男子学生は爽やかに去って行った。


「えっと……」


 どう反応していいか判らず、アウレウスを振り返る。彼は微妙な顔をしていた。


「あれで諦めないなんて面倒ですね。素直にコネ目当てなら判りやすいものを……」


「アウレウス?」


「いいえ、何でもありませんよ」


 にっこりと笑っているけれど、さっき何かぼやいてたよね。


「ねえ、何かおかしくない? 急に告白連続で受けるなんて……それにさっき噂って言ってたよね。アウレウス何か知ってる?」


 私が問うと、アウレウスは片眉を上げた。


「ご存知ないんですか? お茶会でクレア様が話されていたことが、噂になっているんですよ」


「えっ?」


 テレンシアのお茶会と言えば、バシレイオスを振るために辛辣なことしか言ってない気がするんだけど、どの話?

「『婚約者が居る人は好みじゃない』『一途な方が良い』とおっしゃってましたよね?」


「……あれ、他の人に聞かれてたの?」


 各テーブルは結構離れてて、他のテーブルの話し声なんて聞こえなかった気がするんだけど、どうしてバレてるんだろう?


「貴女は常に注目を集める聖女なのですから、会話は気にされるものです。それが王族との会話ともなれば余計にですね」


 つまり聞き耳をたてられてたということ?


「……全部聞かれてたのかな?」


 不敬発言を全部聞かれていたら、聖女とは言っても本当にやばい。


「音声遮断の魔法をかけておいたので大丈夫ですよ」


「そんな便利な魔法、何で最初からかけといてくれないかなあ……」


 人に聞かれる可能性があるのに、王族に対する不敬な発言をしまくった私が一番悪いんだけどさ。


「いえ、最初からかけてましたよ。テーブルでの会話は誰にも聞かれていません」


「うん?」


 頭を抱えて呻いていたけど、アウレウスの言葉で顔をあげる。


「盗み聞きされたから噂になってるんじゃなくて?」


「いいえ。お茶会に出席された他の方に、殿下と何を話していたのかと尋ねられましたので、クレア様の男性の好みの話をお伝えしておきました。その方が他の方にもお話されたんでしょうね」


 さも当然、というようにアウレウスが言う。


「変な噂流さないでもらえますか!?」


 再び頭を抱える。


「変な噂も何も、クレア様が語られた異性の好みの話ですよ。紛れもない真実でしょう」


「それは、そうなんですけど! 音声遮断とか気が利いてたのに、何でわざわざ言っちゃうかなあ!」


 私が言うと、アウレウスは自分の顎に手を当てて面白そうな笑みを浮かべた。


「そうですね、強いて言うなら牽制です」


「牽制?」


 意味が判らなくて、眉間に皺を寄せる。するとアウレウスは目を細めた。


「ここに通う生徒のほとんどは、婚約者がいます。当然でしょうね、生徒のほとんどは貴族ですから。あるいは卒業後に婚約することが決まっている方も多い。そんな方々に、クレア様に近づいてもらっては困りますから。クレア様が一途な方が好きで、婚約者が居る方とはお近づきになりたくない方だと知られれば、安易に近づく男も減るでしょう?」


 これは、何で牽制したいのか、って聞いたらいけない奴だ多分。


「まあ……婚約者の居ない男が調子づいたのは誤算でしたが」


 ふう、と息を吐いてアウレウスは呟いたが、すぐに笑顔に戻った。


「虫除けのための牽制ですよ。私以外の男が近づいてもらっては困りますので」


 突っ込んでないのに、わざわざ言ってきた。


「それに、クレア様もそう言う意味で言われたのでしょう? 殿下に対して、『私に近づいてくれるな』と」


「うっ当たってる……けど……」


 何で私がバシレイオスを遠ざけようとしていたの、判ってるんだろう。


「その調子で、他の男を遠ざけてくださいね」


「別に、アウレウスと付き合いたいから他の人遠ざけてる訳じゃないよ!?」


 私の言葉に、アウレウスはにっこりと笑った。


「でも、今、告白してきた彼らと付き合うつもりはないのでしょう? なら、結果は同じですよ」


 顔のいい男が自信たっぷりに言う。多分、これは自意識過剰とかいうのじゃない。


「……アウレウスの腹黒!」


 外堀をガンガン埋めて囲いこまれているのをひしひしと感じつつ、私はむなしく叫んだ。

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