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あんたもパートナーいるでしょ

 編入翌日の授業は、校庭で実技訓練だった。魔法学園の名前に相応しく、魔法の使い方を学ぶ授業である。


 入学式から既に2か月程経っているから、学園に通い始めたばかりの私にはちょっときつい。


 そこで起きるのが、バシレイオスの親密度アップのイベント。二人一組で行うこの授業で、魔力の操作に慣れないヒロインは進捗度が合う人がおらず、なかなかパートナーが組めず困るのだ。聖女ということで、他の生徒が一緒にやってくれようとするんだけど、先生が「実力に合わないペアは事故の元だから」って言って、他の人と組むように言うためだ。だけど、生徒の中でも魔力操作に秀でており、相手の実力に合わせることのできるバシレイオスがヒロインのパートナーを買って出てくれ、ヒロインはバシレイオスと共に授業を円滑に進めることができた、という内容だ。ちなみに、このイベントを通してバシレイオスとの親密度が上がると、悪役令嬢であるテレンシアの闇落ちフラグを一個回収することになってしまうので、注意したいイベントなんだよね。


 さて、私は今回のイベントに対して、対策は考えて来ている。


「二人一組になって、魔力操作の練習をしましょう」


 女の先生がそう告げるとゲームのイベントと同じような流れで、クラスメイトたちが私に近寄ってきた。


「あの、クレア様、良かったら一緒に組みませんか?」


「いえ、私と……」


 まだ名前を覚えていないクラスメイトが次々と話しかけてくれる。この中から適当にペアを組めたらいいんだろうけど、私、まだ魔力操作とか一切できないもんなあ……ごめんね。


「あなたたち、クレアさんと一緒に組みたいのは判るけど、実力の拮抗している人同士で組まないと、事故の元よ」

 私に生徒が群がっているのを見て、先生が声をかけてくれる。ちなみに、「一生徒として授業を受けたい」と学園長に言ったおかげか、ルーナ先生以外は普通の生徒と表面上は接してくれている。他の生徒同様に、丁寧語は使うけど、敬語ではない。……まあ、聖女ってことで多少萎縮してそうな先生はいるけど、この女の先生は普通そうだ。


「判りました……」


「またの機会にお願いします」


 そう言って、クラスメイト達は散り散りに去って行く。


「クレアさん、魔力操作は初めてでしょう? 最初は私が手ほどきした方がいいんだろうけど……」


 どうしましょうか、と思案する先生のの後ろから、赤い髪の頭が近寄ってきた。全くゲームと同じ流れだね。


「俺が組もう」


 先生にすら丁寧語を使わないバシレイオスが登場した。


「殿下」


 先生もそれを良しとしてるんだもんなあ。魔法学園って、身分の差を気にせず学ぶ場所ってお膳立てになってるんだけど、何故かバシレイオスだけは王子風吹かせまくっていることに、誰も疑問を持たないのかな。


「俺なら、クレアの実力に合わせて魔力操作の練習をさせることもできるだろう?」


 おっと、いきなりの呼び捨てがきた。


「確かに……殿下なら、クレアさんに合わせることもできそうですね。殿下がよろしいのでしたら……」


「どうだ? クレア」


 バシレイオスが笑顔でこちらの意見を聞いてくるが、その顔には「組んで! 俺と組んで!」と書いてある。口調が俺様な割に私に向けてくる態度が子犬な件について、誰か説明して欲しい。ゲーム内では俺様一辺倒の中のたまのデレ、くらいだった気がするんだけど。


 ちなみに私の答えは決まっている。


「お断りしますわ」


 キラキラな背景を背負って、いい笑顔で答えられたと思う。


「そうか、やはりお断り、えっ」


 うんうん、と頷きかけて、バシレイオスがサーっと青ざめる。


「殿下の手を煩わせるのは申し訳ないですもの」


「いやそんな気遣いは」


「普段殿下はテレンシア様と組んでらっしゃるでしょう? 私が組んだらテレンシア様はどうなさるんです?」


「それは……」


 後ろから遅れてやってきたテレンシアに目を向けて言う。私がこの授業に参加するのは初めてなのに、どうしてそれを知っているんだと聞かれたら困るけど、バシレイオスは後ろめたさでそれどころじゃないはず。


「それにご安心ください。私にはパートナーがおります」


 横でずっと立っていたアウレウスの袖を引っ張る。実はアウレウスには、今日の登校中に訓練のパートナーをお願いしていたのだ。もちろん、アウレウスは二つ返事で了承してくれた。


「彼なら、私と同じでまだ他の人と組んでおりませんし、何より一度学園を卒業していますから、魔力操作にも長けています。先生は他の生徒の指導もありますからお願いできませんし、これ以上良いパートナーはおりませんでしょう?」


 ニコニコと説明すると、バシレイオスの顔からしおしおと元気がなくなっていく。


「どうでしょうか、先生?」


「そうですね、アウレウスさんなら、クレアさんの魔力に合わせて訓練を行えるでしょう。いいと思います」


 先生が同意してくれる。


「殿下はお優しいので、初心者を放っておけなかったのだと思いますが、安心していつも通り、テレンシア様と組んでくださいね」


 愛や恋じゃなくて、あなたの気持ちはただの親切だと思っていますよ、というアピールである。不意に、バシレイオスの後ろのテレンシアと目が合ったので、ぐっと親指を立ててウィンクしておく。


「では、時間も押していることですし、移動して始めましょうか」


「そうですね、では訓練を開始してください」


 先生がそう言ったのを合図に、アウレウスが私に手を差し出す。バシレイオスの見ている所でエスコートをしてもらう、というのはいいかもしれない。私はその手を素直にとった。


「じゃあ、テレンシア、また後でね」


 未だショックで動けないままでいるバシレイオスは放置して、テレンシアに手を振ってから、私はアウレウスとその場を離れる。これで一つ、テレンシアの闇落ちフラグを折れたかな?


 そうであることを祈りながら、私はアウレウスと訓練を開始したのだった。

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