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 セロは、破壊した門の縁から顔を出し、城内の様子を素早く窺った。


 リュトヴィッツ領主の城は、単純な構造だった。

 中庭を通じて、正面に4階建ての塔。右手に居館。左手に小さな礼拝堂がある。

 入り口の近くには、木造の馬屋が建っていた。


 アスカン兵は、見える範囲では8人。

 城壁の上に5人。中庭に3人。


 状況をおおまかに把握すると、セロは門の縁から射撃を行った。

 わずか1秒のうちに、中庭の3人の兵士をなぎ倒す。

 

 城壁の上の兵士たちが反撃してくる。

 大口径弾の重い銃声が重なり合って響き、石壁の縁が紙細工のように砕かれる。


 アスカン兵が装備するリー・エンフィールドコピーには、303ブリティッシュ弾が装填されている。そのマズルエナジーは、2500フットポンドに達する。

 単純な弾丸1発あたりの比較では、セロの持つ5.56ミリ弾装填のHK416をはるかに凌駕する威力だ。


 まともに食らえば致命傷を免れないだろう。

 もっとも、どれほど強力な弾であろうと、当たらなければどうということはない。

 

 セロは城内へ大胆に突入すると、馬屋の陰へと素早く身を隠す。

 遮蔽物の陰から射撃を行う。流れるような早撃ちで、城壁の上の5人を排除する。


 これで、見える範囲の敵は片付けた。

 だが、まだ建物の中からこちらを狙っている連中がいるはずだ。


 セロは馬屋の中へと入り込む。


 馬屋は平屋の木造だった。

 向かい合わせの仕切りが連なっており、10頭以上の馬がそこで繋がれている。


 一頭の栗毛馬を引っ張り出して、尻をはたき、中庭を走らせた。

 乗る人とてない馬は、10メートルも進んだところで、塔や居館に潜むアスカン兵からの集中砲火を浴び、ひとたまりもなく絶命した。


 罪もない栗毛馬は犠牲となったが、そのおかげで、セロは屋内に身を潜める敵の位置を把握できた。

 塔の2階と3階の銃眼。

 居館2階の右から3番目と4番目、3階の1番目と3番目の窓。

 計6人の銃兵が、こちらを狙っている。


 ライフルの点射で、6人の見張りを一斉に排除する。

 居館の窓はともかく、塔の銃眼は幅10セルチにも満たない小さな縦穴だったが、セロの弾はその間隙をあっさりと通り抜けて敵を射抜いた。


 セロは、アサルトライフルなら25メルト先のコイン10枚を3秒で撃ち抜く技量を持つ。

 この程度の射撃は、彼にとって難しいものでも何でもない。


 マイヤーは、恐らく塔の最上階に陣取っていることだろう。


 セロは塔の裏手に回り込む。


 まだ残弾の残っているカービンを捨てると、地面に手を置き、召喚を行う。

 喚び出したのは、M5指向性充填爆薬。

 安全シールを剥がし、塔の石壁に貼り付け、起爆スイッチを押し込む。


 発破。

 頑丈な石壁が、内側に向かって吹き飛んだ。


 セロは腰のホルスターからHK MARK23自動拳銃を引き抜く。


 こじ開けた大穴から突入する。

 エクステンデッドの構えから、素早く2連射。

 爆破の衝撃で体勢を崩していた2名の敵兵を始末する。


 近くに立っていた敵がライフルの銃口をこちらに向けようとするが、左手でその銃身を払い除けて狙いを逸らす。

 同時に右手の拳銃のトリガーを引き、45口径のホローポイント弾を、至近距離から相手の土手っ腹に叩き込む。


「ぶっ!」


 倒れかける敵の体を、自分の方へと引き寄せて盾とする。


 室内に残るアスカン兵たちは、同士討ちを恐れて発砲を躊躇する。

 その隙に、セロは悠々と彼らを撃ち殺した。


 用済みとなった盾も、こめかみに鉛玉を撃ち込んで処分する。


 これで、塔の1階には、動くものはセロ以外にいなくなった。

 

 セロは周囲を見回した。

 部屋の奥に、上階へと続く階段が見える。


 セロは、ゆっくりと螺旋階段を上り、2階に到達する。

 ドアが半開きになっていた。

 爪先を使って蝶番を僅かに動かすと、部屋の中からの集中砲火によって、ドアは蜂の巣になった。


 セロは、敵が槓桿操作によって次弾を装填する間に室内に突入し、4人のアスカン兵を皆殺しにした。


 3階に進んだセロは、同じように部屋を制圧し、4階へと上がる。


「マイヤー。ここにいるのか?」


 部屋の外から声をかける。


「よ、寄るな。化け物!」


 恐慌によって上ずった声が、セロに応える。この声には聞き覚えがあった。


「こっちには人質がいる。当代のリュトヴィッツ卿だ。ヘレナの父親だぞ!」


「マイヤー。会いたかったぜ」


 セロはハンドガンをリロードし、腰のポーチから金属製の円筒を取り出した。

 ピンを抜き、後ろ蹴りでドアをこじ開け、金属缶を素早く室内へと投げ入れる。

 バン、と凄まじい爆発音がして、100万カンデラの閃光が室内を満たす。


 M84スタングレネード。

 マグネシウムを主体とした炸薬は、強烈な音と光を生じるが、亜音速の爆燃であるため致命的な被害には至らない。

 標的の生け捕り、もしくは人質の解放を目的とした非致死兵器である。


 セロが室内に踏み入ると、中の人間は全員茹でた海老のように身を丸めていた。

 方向感覚と見当識を失調した人間は、決まってこのような反応をする。


 セロは室内を見回した。6名の人間がそこにいた。

 武器商人のマイヤーと、護衛のアスカン兵が4人。

 そして、ベッドの上で身を横たえる壮年の男がひとり。これがリュトヴィッツ卿だろうか。


 セロは護衛を手早く撃ち殺すと、マイヤーの襟首を掴み上げ、手近なところにあった木箱の上に投げ出した。


「わあっ、止めろ!」


「騒ぐなよ。お楽しみはこれからなんだからよ」


 セロは拳銃の銃口をマイヤーの薄い胸板に押し付ける。


「まず、はじめに言っておくが、俺はお前に個人的な恨みはない。ただ、聞きたいことがあるだけだ。素直に答えりゃ、五体満足でここから帰してやる」


 逆に言えば、質問に答えなければ命の保証はないということだが、マイヤーの表情を見る限り、セロの真意は十分伝わったようだ。


「聞きたいのは、お前がアスカンに流した銃を開発した組織のことだ。フォルトムのことを俺に教えろ」


 フォルトム。

 その言葉を聞いた途端、マイヤーの白い顔が、さらに血色を失って青くなった。


「お前に接触してきたフォルトムの人間がいるはずだ。そいつの名前、人相、性別、人種、年齢層、着ていた服。思い出せる限り、すべての情報を話せ」


 マイヤーは額から滝のような汗をかいていた。

 瞳孔は完全に開き切り、痙攣を起こしたかのように全身を震わせている。


「い、い、言えない。言えない。言えない! それは絶対に言えない!」


 マイヤーは狂ったかのように叫んだ。

 セロの暗い瞳が細められる。


「言えないじゃねぇよな、マイヤー。言わないの間違いだろ。言えるのに言わないなんて、ひどいじゃないか。俺の頼み方が悪かったのか?」


「お、お前は、一体何なんだ。なぜ、組織のことを知っているんだ」


「名前しか知らねーよ。だから聞いてるんじゃねぇか」


「あの組織のことを嗅ぎ回るなんて、自殺行為だ。消されるぞ!」 

 

「消しに来てくれるなら願ったりだ。こっちから探す手間が省ける」


 マイヤーは狂人を見る目でセロを見る。


「セロ!」


 その時、セロの背後から、甲高い少女の声が割り込んできた。

 ヘレナだ。いつの間にか、塔を登ってきていたらしい。


「お父様! ああ、よかった。無事だったのね」


 ヘレナはベッドに横たわる男を見て、ほっとした声で言った。

 しかし、彼女はすぐに表情を険しくしてセロに向き直る。


「セロ、マイヤーの尋問は後にして! アスカンの援軍が町に入ってきているわ。領民が殺されてる。お願い、やつらをやっつけて!」


 言われてみれば、先ほどからパン、パン、と、銃声が遠くから聞こえてきている。

 それに、人の悲鳴らしきものも、かすかに聞こえる。

 絶え間ない銃声から察するに、敵はかなりの規模だ。どうやら、アスカンの本隊が襲来したらしい。


「セロ、お願い……」


「てめーは、お願いで人が動くと思ってんのか」


 ヘレナの懇願に対して、セロは冷たく言い放った。


「言ったろ。俺は、最後までお前に付き合うつもりはない。リュトヴィッツがどうなろうと、俺には何の関係もない」


 この、ヘレナという少女の虫のいい考えには、呆れるというよりも感心するような思いだった。

 極端な世間知らずとは、このようなものなのだろうか。この期に及んで、他人がすべて自分の思い通りに動いてくれると錯覚しているのか。


 この箱入り娘のことは、もうどうでもいい。

 それよりも、今はこちらの武器商人のことが先決だ。


 セロは拳銃の銃口をマイヤーの腹に充てがう。


「マガジンには、あと8発の弾が残ってる。しかも、予備弾倉も一本ある。これだけあれば、俺なら拷問の方法が百通りは考えつく。いいか。どのみち、お前は謳うことになる。だったら、五体満足のうちに喋っておいた方がいいだろ?」


「い、いや、言えない。本当に、これだけは言えないんだ。頼む、勘弁してくれ」


 マイヤーは手を合わせて懇願する。


 セロは彼の膝に銃口を当てて発砲した。

 ホローポイント弾が膝の皿を砕き、血と肉片を散らす。


 中年男の汚い絶叫が響いた。


「繰り返しになるが、どの道、お前は謳うことになる。手間をかけさせるな」

 

 他人の痛みにはまったく頓着しないくせに、我が身の弱みには人一倍弱い武器商人は、早くも心が折れたようだった。


「ふ、フォルトムは……」


 しかし、マイヤーがその先を話すことはなかった。

 至近距離から放たれた303ブリティッシュ弾が、その眉間に命中し、セロの求めていた情報ごと彼の脳髄を吹き飛ばしたからだ。


「あ?」


 セロは、不覚にも一瞬何が起こったのか分からず固まった。


 顎から上を失ったマイヤーの体がゆっくりと傾いていくに至って、ようやく理解が及び、セロは拳銃を背後に向けた。


 そこには、アスカン兵の死体から拝借したライフルを構えるヘレナの姿があった。

 その銃口からは、硝煙が靡いていた。

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ブックマークも頂けたら、めちゃくちゃ喜びます。


何卒m(_ _)m

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