第7話 王都後編
「ようこそ。また会ったわね」
教会に辿り着いた矢先見に写ったのは金色の雲が眼下に広がる幻想的な書斎の様な部屋。
そして正面に佇む布を一枚羽織っただけの女性。
意味が分からない。
女性はこちらに柔和な笑顔を向けているので取り敢えず質問してみる。
「あの、他の人達は・・・?」
「こことは違う場所で違う私が対応してるわ」
女性が指を鳴らすと空中に十一の画面が現れた。
映し出されているのは私の目の前にいる女性と瓜二つな女の人が他の人達と会話をしている場面。
あの耳の尖った男女が何かを必死に訴えているのが見える。
「神様って複数人いるんですか?」
「いや、全員私よ」
「そうですか」
それから沈黙が続く。
向こうはこちらが質問をするのを待っていたのだろう。
神様は咳払いと共に話を始めた。
「さぁ。今回は君達の選考基準等を話すつもりは無い。話すのは君達がすべき事のみ」
「学ぶことですか?」
「確かに平たく言えばそうだげど、それに加えてその知識を元の世界に持ち帰るのが君達のやるべき事よ」
そこまで言いきると唐突にこちらへ手を差し伸べてくる。
「?」
「ほら、手をこちらへ。力を与えるっていう話だったでしょ」
「はっ、はい」
神様の手に私の手を重ねると身の毛がよだつ様な感覚を味わい、その直後身体に何かが入り込み、本能が全身全霊を用てそれを吐き出そうとしているのが分かった。
「うっ」
思わず嗚咽が漏れてしまったが、直ぐに吐き気の様な感覚は無くなり、神様も手を離す。
「どお?その身に人智を超えた力を植え付けられた感覚は?」
特段、力が溢れるだの私は最強っ!だのといった感想も浮かんで来る訳でもないが、何となく自分にどんな事が出来る様になったのかは分かる。
「”命令”、ですか?」
「そうね。そこに信頼や、忠義は存在しない、ある種最も正統な命令だけれど気に入ってくれたかしら」
「もし、嫌だと言って取り替えて貰えるものなのですか?」
「いや、そういう訳ではないのだけれど、一応渡した側としては感想も聞いてみたいものよ」
「そうですか・・・」
私は神様に感想では無く質問をしてみる事にした。
「神様。質問を一つしてもよろしいでしょうか」
私が質問を口にしようとすると神様は突如現れた椅子に腰を掛け、その右人差し指を唇へとあてる。
「分かってる。あの街並みについてよね?」
「はい」
神様には全て分かっていたらしい。きっとこの一連の会話も全て想定されていたものだったのだと私の頭は勝手に理解してしまう。
「あなたが知りたくなるのも分かるけど、この話はまた別の機会にしてあげるわ」
神様は唐突に少し急いでいる様な素振りを見せ私を書斎から追い出す。
それから一度私の意識は遠のいて・・・
次に目が覚めたのは教会の中だった。
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ふぅ。と私は息をついた。
危なかったが正直言ってワクワクする。
彼女は賢い。
”命令”なんて目覚めさせる彼女のそれは別格だ。
三百年前とはまた違う興奮が私を満たす。
彼らの場合はどう彼らを動かすべきか考えていて楽しかったが、彼女らはどんな味がするのだろうか。
そう言えば、彼がそろそろ目覚める頃だろう。
後ろで本が輝く。
取り出すと運命に新たな未来が刻まれていた。
これは面白い。
三百年ぶりの大舞台。
見ない訳にはいかないだろう。
私は久しぶりの娯楽に向けて心躍らせた。