第30話 目前
「では、私達はこれで」
「お疲れ様です」
アルムンストで教師を勤めているという講師陣が帰って行く。
残るのは俺一人。
俺はダンマから貰ったこの体の設計図を広げた。
あの”備えよ”という警告は目覚めるまでの間に見た束の間の出来事であったとしても蔑ろにして良い気は微塵もしない。
「武装は、付いてないのか」
この体にどれ程の戦闘能力があるのか確かめたかったのだがやはり武装の面から見て皆無だった。
動力部はしっかりしているので身体能力は高いだろうが逆に言えばそれだけである。
「・・・やっぱ作るしかねぇか」
作るにしても材料はどうしたものか。
ダンマに相談すれば貰えない事もないだろうが、俺には一つの懸念があった。
それは俺がそこまでフェルや女王様達に信用されていないのではという不安だ。
思えば当然の事。
三百年前の暴走が自身でも分かっていない事故的な出来事だったなんて当時から知り合いなフェルでさえ知らないのだ、史実のみで俺を見ればただただ当時の総人口八割を殺した大罪人だ。
護衛を命じられたアサヒという少女の”命令”とやらに縛られているのだとしても信用出来る筈がない。
こうして悩んでいるうちに夜は更けていく。
魂と機械の体だけとなり睡眠欲求が湧かなくなってしまったこの状況が恨めしかった。
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パチパチと燃える篝火の炎が目にしみる。
このアルムンストとやらに向かう一団に加わって暫く経ち、移動生活にも慣れてきた。
私は当番制の見張りに就いていた。
隣にいる彼、ロイが口を開く。
「なぁ、ミーヤ。俺達メタルムって子供作れると思うか?」
・・・またか。
ロイは、やれ愛情だの、子供は作れるのかだのメタルムは人間であるのか、生物であるのか、哲学的な疑問をぶつけてくる事がある。
因みにミーヤというのは一団が私につけた名前だ。
「・・・この体からは血も出ないし、多少勝手が違うのかも知れないけど、やってみないと分からないんじゃないですか?」
その質問にやたら、恋愛的な要素が多く含まれているのはあの歩いている時にも隣にいた盾の少女が原因なんだろう。
「まぁ、モノはあるんでしょう?出るかどうか試して見れば良いじゃない。相手がいないと出来ないって言うならアムリアだっている訳だし」
ここで少女の名前を出してやる。
「・・・そこでなんでアムリアが出てくるんだよっ!」
「じゃあ相手は誰でも良いの?」
「っ!・・・」
面白い。
普段から何かと上に立とうとしてくるロイをからかうのは私の日課になりつつあった。
ここは敢えて勘違いをさせる様な素振りをしてみるのも面白いだろう。
ロイの頭に手を回し顔をグッと近付ける。
「ちょっ・・・何、やめろってっ!」
そのまま口でも付けようかと思ったのだがロイに押し退けられてしまった。
「・・・あながち誰でも良いって訳じゃないんだ」
「そりゃそうだろっ!それにお前だって嫌じゃないのかよっ!」
・・・嫌、か。
そういった感覚は感じなかった。
これはロイに好意を抱いているという訳でもなく、ただ慣れている、そんな感覚。
経験は無い筈なのに。
「ごめん、少し最近仲良くなってきたと思ってたけど・・・調子乗ってたよね?」
なんだか真剣な気持ちにさせられたお礼に儚げな表情を浮かべて謝ってやる。
こうすると大抵ロイは必死になり、面白い反応を見せてくれるのだ。
「お前、今俺の事からかってるだろ。話はきちんと最後まで聞いてくれよ」
バレたっ!?
「はぁ・・・そんな信じられないっ!みたいな顔されても、俺だってそう何度も同じ轍は踏まないよ」
「・・・」
黙る。
「自分でも突拍子が無くて、分かる筈も無い質問だって分かってるけどよ。話くらい真剣に聞いてくれたって良いじゃねぇか」
全くもってド正論、ぐうの音も出ない。
「分かりましたよ。この私めになんなりとお話くださいね?・・・ふふっ」
「なんだよ。それ・・・くくくっ」
こうして夜が明けていく。
着実に進めれば後十五日でアルムンストに着いてしまうのだろう。
そうしたらこの移動生活は終わり。
私は自身のこれからに若干の不安を感じたがそこから目を逸らすように仲間との話に華を咲かせた。
夢に浮かぶ、誰のかも分からない懺悔の言葉。
複数人の男に取り囲まれた地獄の様な記憶。
普段は蓋をされて見ることの出来ない誰かの想いが寝ている時だけ流れ込んでくる。




