第2話 指針
俺は天国にも地獄にも行けなかったらしい。
▒▒▒にとどめを刺されてから次に目覚めたのは光の差すことの無い水中だった。
一体目覚めるまでの間にどれだけ時間が経ったのか分からない。
身体が動かない事に安心する毎日。
時間が流れているのかも分からない今、毎日とは言えないかも知れないが、しっかり自分の魔法が機能していると確かめるのが唯一俺がやるべき事なのだろう。
とは言え、何も無い空間で何もしないのはとてつもなく暇で、孤独だ。
ふと自分がまだあの世界にいた時の記憶を掘り起こして見ることにした。
遠いまだ自分が科学文明に囲まれて生きていた頃の記憶。
今思えば何時だって俺が貪るのは過去の遺物だったのかも知れない。
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「は・・・」
私は目の前に迫る凶器がなんなのか最期まで分からなかった。
何時もならただただ煩い喧騒が奏られるだけの廊下。
相手の女生徒が持つのは教科書でもノートでも参考書でも無い。ただ無骨にさらけ出されたカッターナイフ。
咄嗟の腕での防御や、周りの一部の生徒と、先生方の救援も間に合わなければ無に等しく、突き出されたカッターナイフは私の頸動脈へ真っ直ぐ吸い込まれた。
昼下がりの中学校を舞台に起きた殺人は瞬く間に話題になり、翌日の朝刊や、情報番組で取り上げられた。
彼女の名は千丈 旭。
この年のこの都立中学校における”三人目”の犠牲者である。
「は・・・」
私はまたも目の前の光景に驚く羽目になった。
所々抉れた床。
傷まみれの壁。
何より目の前に倒れる大勢の人達と青筋を浮かべ苦笑いをする一人の男性。
「・・・失礼」
男性はそれだけ呟くと部屋の外へ駆けて行くと向こう側からこんな声が聞こえた。
「あぁんのぉクソ司教がぁぁぁぁぁぁっ!」
この場の空気はカオスそのもので、私は隣にいた銀髪の女性と社交辞令的な笑みを交わした。
「先程は失礼しました」
男性は先程とは取って代わって落ち着き払った表情で私達を案内する。
一通り案内された後、最後に通された部屋には長い机の上に様々な食事が用意されていた。
「皆さん、どうぞお好きな席にお掛け下さい」
使用人の様な人に催促され席につくと、男性が口を開く。
「申し遅れました。私、この施設の理事長を務めております。ダルグドール=ダザイと申します。以後お見知りおきを」
ダルグドールさんが自己紹介するとさっき笑みを交わした銀髪の女性が立ち上がった。
「私はセーレ=ゼン=フォルンと言う。ダルグドール殿。私は、いや、私達はあなたとその同志の意向により此処へ呼ばれたという認識で間違ってはいないだろうか」
その質問の答えを聞く為ここにいる全員がダルグドールさんへ視線を向けた。
何故私達がこの場所に呼ばれる事となったのかその理由を知るのは私達が何をさせられるのかを知ることにも繋がる。
しかし、ダルグドールさんは驚いた様な表情をして言った。
「いや、私は存じ上げませんが皆さんが望んでお来しになったのでは無いのですか?」
「ちょっと、いいかよ」
次に立ち上がったのはやけに耳の尖った男女。
「あちしらは別に呼ばれた呼ばれないはいいけどさ、ここ何処だよ?少なくともあちしらが住んでいた星じゃ無い。それに、あちしらは死んで目覚めたらここだったんだ。別に方法の説明までは求めちゃいねぇ。ただここが何処なのかだけ教えろ」
「私の受けている説明では、あなた方は外界からの来訪者であると聞いているのですが、その説明があっているならぁ・・・」
バタッ!ズズズ・・・
ダルグドールさんは突拍子も無く倒れると、糸で吊るされた人形の様な動きで再び立ち上がった。
「やぁ。初めまして。皆さん」
「ダルグドール殿っ!大丈夫か?」
駆け寄ろうとするセーレさんを尖った男性が制止した。
「まてっ!そいつはさっきのおっさんじゃ無ぇ」
「何を根拠に?」
「心音が聞こえなくなった。つまり、脳死とか昏睡とか色んな原因が思い当たるが少なくとも今のそいつはおっさんの意識下じゃないとは確かだ」
「おぉ。君頭悪そうだけど案外切れるじゃないか。ご名答。正解だ。この体はダルグドールの意識下に無い」
「なんならさっさと失せっ・・・」
”誰か”は男性の後ろの壁を指差すと何かを放つ。
バンッ!と
鳴った後ろの壁には穴が空き、今度はその指先を男性の眉間にピタリと合わせた。
「うん。良い感度だ。今の君達に発言権は無い。歯向かった者は有無を言わせず撃ち抜く。良いな?」
全員が黙り込むのを見た”誰か”は満足気に頷くと語り始めた。
「君達に求める事は一つ。学ぶ事だ。この世界で学んだ事を元の世界へ持ち帰れ。幸い君達の目の前にいるこの男はこの世界最高峰の学び舎の理事長だ。君達が頼めばこの男は一つの条件と引き換えに喜んで場所を、立場を与えるだろう。そして、その条件と言うのが強いて言うなら兵役だ。私としても君達に死んで貰っては困る。近いうちに王都のムーリャピ教教会を訪れると良い。待っているぅ」
バタッ!
二度目の転倒。
「痛っ!」
コンクリートの様な素材で作られている床に度重なる転倒でダルグドールさんの額は赤く腫れている。
「んあぁ。すみませんが皆さん。今日は体調が優れない様なのでこれで失礼します」
「お、おう」
「お大事に~」
「君、鍵を渡すから来訪者の方々を案内してくれ」
「畏まりました」
私達は使用人に案内され街へ繰り出す事となった。
頭痛そうですね。
今回は前作の様に死亡エンドで終わらすつもりはありません。