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第九話 女心とパンツの空


 ──女心とパンツの空。


 学校に向かうためゆっくりと自転車を漕いでいた。

 空は青くて綺麗。でも僕のパンツはくっさくさ。


 キキィー。そうだよ、僕のパンツは臭い。心音が言ってたじゃないか。こんな臭いパンツが奇跡を起こせるわけない!!



 僕は心音にメッセージを送った。


《心音‼︎ もう起きてるか?!》ポチ。送信!


 学校に着いても返信はない。既読も付かず……。

 体育館に入る前に再度メッセージを送る。


《海乃がめちゃくちゃ優しくなってるんだけど?! 研究結果出てたら教えてよ‼︎》ポチ。送信!


 もう、僕は待てなかった。一秒でも早く研究結果を知りたくて仕方がなかった。体育館までの通路でそわそわもじもじしていると、肩をポンっとされた。


「おい小太郎! 真剣な顔してスマホかぁ? 予選近いんだからまじ頼むぜ」


 それは良男だった。僕が通う下ノ着(しものぎ)学園、バスケ部エースにしてスモールフォワードの池照 良男(いけてる よしお)だ。


 長身でイケメン。誰にでも分け隔てなく優しい彼は学園のプリンスなどと言われている。ちなみに僕の親友だったりする。


「だ、大丈夫! 任せろ良男!!」

「ほんとかよ〜、お前最近何か悩んでるだろ? 相談ならいつでも乗るからな。俺らの仲だろ?」


 親友と言えど、相談できるわけがない。僕の悩みはパンツ。パンツなのだから……ごめん良男。気持ちだけ受け取るよ。


 しんみりと友情に浸っていると、あわわ! 僕は肩らへんをえいっと押され横にすっ飛んだ。心の中でため息をつき、またか。と思った。


「池照くぅん! おはよぉ!」

「まどか先輩。暑いんでそういうのはちょっと……」

「えー、まどか寒いもぉん!」


 何を悪ぶれるわけもなく僕を払い除けたのはマネージャーの冬下 円華(ふゆした まどか)先輩だ。


 真夏のこの時期に寒いとか堂々と言っちゃうような女だ。


 三年は引退したのにマネージャーの彼女だけは残った。


 ミス下ノ着学園に選ばれるほどの綺麗な先輩なのだが、僕はこの女が大嫌いだ。


 明るく染められた髪に綺麗にデコレーションされた爪、制服は着崩され巨乳が激しく主張する。つまりチャラチャラしているんだ。一言でいうならギャル。だけど綺麗系だから、いわゆる清楚系ギャルってやつだろうか。


 部員の殆どがこの女に鼻の下を伸ばしている。


「あー、居たんだナツくん。小っちゃくて気づかなかったぁ」


 これだ。もうこの言葉は何百回言われたかわからない。それでも真面目なマネージャーだったのなら、僕はここまで嫌いにはならない。


 バスケットが好きでマネージャーをやってるのならわかる。でもこの女は違う。良男のことが好きでマネージャーをやっている。


 だから良男と仲の良い僕に敵意丸出しなのだ。


 当然、来ない日もある。気が向いた時だけマネージャーでーすと我が者ヅラで来るんだ。ほんと、ふざけた女だ。


 何度か良男に告白もしているらしい。でも、今はバスケットと向き合いたいからと良男ならではの優しい振り方をしてるとかなんとか。


 言ってやればいいんだ。お前なんか興味ない! って!


 この女にうつつを抜かして壮絶なポジション争い、レギュラー争いから脱落した者もいるんだから!!



「おっ! ナツの二の腕らへんをまどか先輩が触ったぞ!!」

「な、なんだって?!」

「捕えろー!!」


 そしてこれなんだ。僕がちょこっとまどか先輩に触られたからって、その箇所を神に触れるかのように称える。


 通称、”間接まどか先輩タッチ”


「いえーい! ワンタッチ!!」

「俺なんかスリスリしちまったぜ?」

「甘いわ! 俺は揉み揉みしたぞ!」

「夏先輩っ、失礼しますっ!」


 殆どの部員が冗談でやっている。いわば部の恒例行事みたいなものなのだが、中には本気で喜ぶ者もいる。そう、彼のように。


「ふふっ。これで今日のシュートは全部入る」


 左手で右手首を握りニヤニヤ。

 彼は一年の根暗くん。壮絶なポジション争いを唯一勝ち取った一年生。ポジションはシューティングガードだ。


 身長は僕ほど低くは無いがそれでも170cmしかない。


 中学時代ベスト5にも選ばれた天才が他県強豪からの誘いを断り、うちに来た。

 

 何を考えているのかわからない。とっても不思議な後輩だ。


 みんなが体育館へと去ったあと、キョロキョロしながらもう一人。コーチが近付いてきた。


「夏海。すまんな」

「いえ、遠慮なくどうぞ」


 揉み揉み。スリスリ。


 コーチもまた、間接まどか先輩タッチを本気で喜ぶ一人だったりする。


 もうこんなのは慣れっこだ!!



 そうして、今日も部活に励む。はぁはぁはぁ。疲れた。



 ◆◆◆


 部活が終わると心音から返事が来ていた。


《研究中だよ〜けど、なんとなくわかるかなぁ〜。知りたかったら早くおいで。コタ! ダッシュ!!》


 もったいぶりやがって!

 心音のくせに生意気な! …………でも、綺麗なお姉さん。良い匂いするんだよな……。


 僕は全速力で自転車を漕いだ。


 決して良い匂いを嗅ぎたいわけじゃない。絶対に違うんだからな!!


 そんなことを考えながら、猛ダッシュで自転車を漕ぎまくった。



 ──そんな、夏休みの部活帰り。

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