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第七話 それはおパンツがもたらす奇跡


 僕の周りで起こるおパンツ事情は何一つ解決には至っていない。けど、問題のすり替えというのだろうか。久々に頭の中はリラックスしていた。


 だってパンツ履いてるし!!


 パンツを当たり前に履けることがただただ幸せだった。たった、それだけのことがなによりも嬉しい。──そんな就寝前の深夜0時。


 部屋の明かりも消して布団に身を包み瞳を閉じた時だった。


 トントン。


「えっ?!」


 ドクンッ。

「あああーーっ」バタンッ。


 僕は突然のノックにベッドから転がり落ちてしまった。


 だ、誰?! 僕の部屋をノック?! えっ?


 部屋をノックをされることが久々過ぎて恐怖に震えた。

 この家に僕の部屋をノックする人なんて居ないからだ。


 親父もお母さんも居ない。まさか、泥棒さん(・・・・)?!


「だ、誰だ?!」


 僕は声を荒げて言った。


 ドクンドクンドクンッ。


 やばい。海乃は大丈夫かな。け、警察に電話しないと。スマホを取り110を押したときだった。


「お兄……わたしだよ。入ってもいい?」


「っっ?! っっっっ?!」


 う、海乃?! なぜ海乃が?!

 僕に何の用だ……な、なにか不手際起こしたっけ。え、あれ? 昼間のノーパンが脳裏を霞める。


 ドクンドクンドクンッ。


 ドアをノックしたのは泥棒さん(・・・・)ではなく家族である妹の海乃だったのに、僕の心臓は先ほどまでとは比べものにならないほど脈を打っていた。



 ガチャン。そうして海乃が僕の部屋に初めて入ってきた──。


「や、やぁやぁ! 珍しいね。海乃がボクノヘヤニクルナンテ!」


 な、なるべく平常心で。でも珍しいどころじゃない。初めてなんだよ。僕、何か悪いことしちゃったかな。


 部屋に入るなり海乃は僕に冷めた視線を向けた。

 正座する僕。ドアの前で視線を落とす海乃。


 ひぃっ! 


「はぁ? ダメなの? ていうか、なんで正座?」

「だだだだめじゃないよ! ヨウコソボクノヘヤニ! セイザ……ナンデダロウネ。マァユックリシテイッテヨ」


 動揺が止まらない。

 僕もどうして正座をしているのかわからない。まるでオスワリをする犬だ。こういう時はきっと勉強机の椅子に座るのが兄としての立ち振る舞い。


 ”やぁ、なんだい?” 


 兄としてこれくらいの余裕を持たずしてなんとする‼︎



 急いで立ち上がるも、“コロン”と倒れてしまった。


 突然の訪問に動揺し過ぎた僕の足は感覚が半分くらいなくなっていたんだ。


 そのまま四つん這いになりながらもどうにか、椅子に腰をかけた。


 ふぅ。これでオスワリする犬ではない。格好良いお兄ちゃんだ! と、一息つきドアに目を向けるも海乃は居ない。あ……れ? ど……こ?


 しかし次の瞬間、僕の心臓は一瞬だけ止まることになる。


「お兄どこか悪いの? もしかして、足怪我してる?」

 

 えぇぇぇええ?! 海乃が僕の足首やら膝を触り始めたんだ。


「別に捻挫してるわけじゃなさそうだけど。今さっき歩き方おかしかったもんなー」


 こ、このアングルはダメだよ海乃。女の子座りで僕の足をスリスリ揉み揉みしてるんだ。捻挫なんてしてないから……触っちゃダメ‼︎ 超元気だから‼︎



 落ち着け。ぼ、僕はお兄ちゃんなんだから……。

 天井を見上げ明鏡止水。賢者の心。


 

 僕はお兄ちゃんなんだから‼︎ よしっ。


「う、海乃……お、お兄ちゃんは至って普通。げ、元気だよ?」


 脈打つ鼓動と戦いながら、精一杯に平常心を装い言葉を絞りだす。


「はぁ。そうやって気を張って。どこか悪いところがあるなら言えばいいのに。ほんとお兄って────」


 海乃は何かを言いかけてやめてしまった。

 

「ほ、本当に元気だから!! ほらこの通り!」


 僕は手をブォンブォン回して元気アピールをした。


「もうわかったから。無理しなくていいよ」


 そう言うと海乃は何やらコンビニ袋をガサゴソし出して箱のような物を取り出した。


「はい。今日はこれ飲んでゆっくり寝ること」


 渡されたのはちょっと高そうな栄養ドリンクだった。“滋養強壮”と書いてある。箱はほのかに冷たい。


 よく見ると海乃は少し汗ばんでいて、服装もちょっとコンビニまで用のスキニーパンツを履いていた。


 コンビニ帰り……? こんな遅い時間に……?


 僕にこれを渡すために?


「あ、ありがとう海乃! 本当にありがとう!!」


「別にいいから」と素っ気なく言うと海乃は僕の部屋から出て行った。


 いったいなんだったのか。まったくもって意味はわからないけど、とにかく嬉しかった。


 あの海乃が僕のために!! 考えるだけで顔がニヤついてしまう。



 僕はすぐに最後の一滴まで味わうように栄養ドリンクを飲みほした。


 あぁ、なんて言うか海乃の優しさの味がした!

 これが、海乃の味か!! この栄養ドリンクはどうして“海乃”って名前じゃないんだ!!


 箱と瓶は記念に取っておくことにした。大切な宝物だ!



 そうして言いつけ通りすぐに布団の中へ。

 こんなにも幸せな気持ちで眠りに着くのは初めてかもしれない。


 ──ありがとう海乃。……意味はわからないけど。そんなことは、どうでもいいや!! あはははっ!


 兄妹の距離がグッと近付いたような、そんな気がした。


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