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第二十八話 おパンツが心を開くとき(前編)


 泣いてしまった。こともあろうか妹の前で。


 この家には僕と海乃しか居ない。だからずっと強くあろうと、頼りになる兄であろうと……そう思っていたのに。


 泣いちゃった。


 弱いところを見せてしまった。

 情けない。お兄ちゃん失格だな。


 そんなことを考えながらベッドに寝転がり、ただただ天井を眺める。


 ……明日が、来なければいいのに。


 考えれば考えるほど辛くなる。考えたくないのに考えてしまう。


 ……ずっと、今日のままならいいのに。


 思考はひたすら真っ暗闇に進んでいく。出口なんてない。続くのは無限の暗闇。


 そんな常闇を一掃するかのように、僕の部屋をノックする音が聞こえた。


 ──トントン。


「お兄ぃ〜! 開けるよ〜?」


 ハッ! う、海乃⁈

 急いでベッドから起き上がり勉強机の椅子に腰掛ける。一呼吸置いて返事をする。


「ど、どうぞ!」


 大丈夫。元気な姿を見せるんだ……!


 ガチャン。


「やぁ! ドウシタンダイ?」


「うん。耳かきしようかなぁーと思って」


 ……うん。聞き間違えかな。

 今、耳かきって聞こえたような。そんなまさかな。ないない。


 そう思ったのだけど、海乃の右手に見えるのは梵天付きの耳かき棒。ふわふわが付いたやつ。


「み、み、み、み、み⁈ 耳かき⁈ す、するのか⁈ 僕に⁈」


「なにそれ。感じ悪っ。お兄感じ悪すぎだよ。そんなに驚くことないのに……」


「ちょ、あっ、違うんだ。これは違くて……ぜ、ぜひにお願いします!」


「そっ。じゃあしてあげる」


 ありえない。あの海乃が僕に耳かきをするなんて。絶対にありえないことだ。


 でも、目の前の海乃は耳かきをすると言っている。


 ……やっぱりそういうことなのだろうか。

 僕が突然泣き出したから、心配して気を使ってくれてるのだろうか。


「ほらお兄。ここにころーんってして」


 海乃は床に座ると太ももに手を置いた。

 “ここ”とは太もも。つまりは膝枕……!


 耳かきなのだから……当然のこと。


 わかっちゃいるけど……部屋着の短パン姿。

 倫理的に脳内にNGが湧き上がる。


「……嫌?」

「そ、そんなこと微塵もない!」


「じゃあ、おいで」


 太ももをポンポンとした。


 は、恥ずかしがってどうする。僕はお兄ちゃんだろ……!


 こういう時は……気にする素ぶりなく振る舞うのが、兄としての務め……!


 妹の優しさを素直に受け止め、喜ぶ器量を見せずしてなんとする!


「あっ、じゃあ……お邪魔します」

「なにそれ。お兄ぃ変なのー」


 あ。ダメだ。ドキドキし過ぎて喋るとボロが出る。


 ◇◇

 つい先日、体調を崩したと誤解されたことを思い出した。


 あの時も海乃は優しくしてくれた。


 ずっと、嫌われているものだとばかり思っていた。


 でもそれは、少しだけ違ったのかもしれない。

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