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第二十二話 こんにちは!ぼくおパンツ!


「おうふ……」


 洗面台の鏡に映る、自分の姿に呆然。


 リボン付きオフショルワンピース。

 このなんとも言えない女の子らしさが溢れんばかりのデザイン。


 それでいて布面積の少なさ。

 可愛いとセクシーが絶妙に絡み合い、色っぽ可愛いを演出させる。



 ……だが、それをいま着ているのは僕だ。……うん。



 くるりと一回転してみる。


「お、おうふ……」


 ……オフショルが幸いだったか、サイズ感は良さそうだ。


 でも丈が……短い。

 トランクスの裾が僅かにこんにちはをしている。


 それは、ルーズなTシャツからショーパンが見え隠れするようなガッカリチラリズム。


 体を左右に振ってみる。

 ひらひらなびくワンピース。僕のおパンツがチラッチラッと顔をだす。


 〝こんにちは! ぼくおパンツ!〟


「かぁぁああ」


 羞恥心の極致に到達してしまいそうだ。


 ……でもやるんだ。


 〝ふざけたおパンツ〟を履いてきてしまった僕にいま、できること。


 このワンピースが着替えと称して脱衣所に置かれた意味。


 言葉じゃなくて行動で示すんだ。


 理由はわからない。でも心音は僕にこれを着てほしいんだ。だったら期待に応える。


 それ以外にできること、ないんだ!


 そして、明日も明後日もくっさくさの僕のパンツに心音の匂いをつけてもらうんだ!


 全ては〝おパンツイリュージョン〟のために!


 ◇


 ガチャン。


 リビングのドアを開けると昨日同様、チキンライスの風味が僕の鼻を喜ばせた。


 心音はフライパンをゆっさゆっさ、

 しゃもじでチキンライスを混ぜ混ぜしていた。


「おかえりー、もっとゆっくりでも良かったのに。もう少し掛かるから適当にくつ……ろ……い……で」


 こちらを振り向くと静止した。


 僕がしっかり着替えて来たためか、驚いてるようだ。


「どう、似合ってるかな?」


 右足を軸にゆっくり一回転。

 嫌々着ましたよという雰囲気を出さないようにワンピース姿をお披露目した。

 

 と、次の瞬間。


 しゃもじが床へと落ちた。


 ハッとした様子でコンロの火を止めると、勢いよく僕のほうへと近づいてきた。


「どうしたのコタ、その格好⁈」

「え、あ……」


 僕は言葉を失った。

 喜んでくれるものだとばかり思っていたのに、様子がおかしい。


「昨日はあんなに嫌がってたじゃん、スカート履くの。なのにどうして? なんでそれ着てるの⁈」

「う、うん。そうなんだけど……。なんていうか……その、ちょっと」


 着て欲しいわけではなかったんだ。

 ここにきて間違いを犯してしまったことに気づく。


「ねえ、言ってくれないとわからないよ。こんなのいつものコタじゃない。やだよ。変だよ」


 その言葉は直球だった。

 心音は顔を悲しげに曇らせると、僕の手を掴んだ。


「言えないような……ことなの? ねえ?」

「ごめん。ごめん心音……僕、実は……」


 手を掴まれたことで、勇気をもらえた気がした。

 もう、好きだと言ってしまいたい。匂いつきおパンツが欲しいと言ってしまいたい。


 ……でも、言えない。

 言いかけるまでが限界でその先を言うことへは届かない。


 この気持ちを伝えて傷付けることと

 このまま言わずに傷付けること

 天秤にかけるまでもなく、後者を選択する。


 気持ちを伝えて振られるだけなら良い。

 でも心音は優しい子だから。責任を感じてしまう。


 それこそ、僕に気を使ってOKとさえ言ってしまうかもしれない。


 そんなのはダメだ。絶対にダメなんだ。


 沈黙が長過ぎたのか、心境が顔に出ていたのか。心音は何かを悟ったような顔を見せると静かに口を開いた。


「そうだったんだね……そういうこと……か」


 サト……ラレ……タ?


 やばい。

 やばいやばいやばいやばい。


「ち、違う‼︎ それは違うから‼︎」


 声を荒げ必死に否定した。

 喧嘩をしようが、嫌われようが、この気持ちだけは悟られてはならない。


「大丈夫だよコタ。なにも心配はいらないよ」


 そう言うと抱きしめられた。温かい。温かい……けど。


 なんだよこれ……。もう、手遅れなのか。


「コタ……今まで気付いてあげられなくてごめんね。……幼馴染失格だ」


 どうしてこんなことに……。

 幼馴染失格なのは僕じゃないか。


 心音は良い子だから、責任を感じているんだ。

 こうなること、わかっていたはずなのに……。


「悪いのは全部、僕だから。こんな気持ち……消すから。だから──」


「大丈夫だよ。誰にも言わないから。二人だけの秘密だよ」


 僕の言葉を遮るようにそう言うと、抱きしめる手は頭へと回ってきた。そのまま床に座ると、僕の頭を包み込んだ。


「……心音。僕……、僕……」


 気持ちが限界に達した瞬間だった。

 涙が止まらなくなった。


「いいこいいこ。大丈夫だからね。コタはなにも悪くないよ」


 思い返してみると色んなことがあった。

 

 僕の心はとっくに限界に達していたんだ。

 それなのに、無理をした。


 無理をした分だけ、涙がこぼれる。


 出口の見えないおパンツミステリー。

 暗闇に向かって進むことしかできない。


 でも、ここに感じる確かな温かさ。安心感。

 全てを包み込み、浄化してくれる聖母のような包容力。


 この先になにがあるのかはわからない。


 それでもいまは、心音の胸に埋まり頭を撫でてもらおう。こんな機会、きっともう二度とないのだから。


 ──いまはただ、この温もりを。心音を……感じていたい。


 クンクン。スゥゥゥ。……プハァ!



「いいこいいこ。大丈夫だよ。なにも恥ずかしがることないからね。わたしはコタの女装癖を受け入れるよ。だって幼馴染だもん! お化粧して、ちゃんと可愛くしてあげるから。任せなさい!」


 ……あれ?


 …………あれれ?


 流れる涙はピタッと止まった。



 ──これは、夢かな?

 

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