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第十七話 目が覚めると、そこに見えたのはおパ◯ツでした(下)


「どーしてもって言うなら特別に応援させてあげる。と・く・べ・つ・に!」

「はい。どうしても、応援……したいです。特別が欲しいです」


 あくまでも僕の意思を尊重するかのような言い回し。

 特別感まで演出して、思いやりの心まで見せてくる。


 そして白衣。この武装の前では正しいことを言っているかのような錯覚に陥る。……保健室における白衣とは正しさの象徴。


 もう、ここまでくると女優だよ。主演女優賞もんだ。僕が応援したくないこと、わかってるくせに。


 でも、応援したところで……たぶん、まどか先輩は良男とは付き合えない。僕は知っている。良男は絶妙にまどか先輩をバスケ部に縛り付けているんだ。


 まどか先輩が居ることによって、バスケ部の指揮が上がるから。だからこそ良男は、“来るな”とか“嫌い”などの直接的な言葉を避けて使う。


 それに、まどか先輩と良い感じを装っておけば、部員たちは告白をしたり、ワンチャンスの夢を見ることもない。


 都合が良いんだよ。どうして、そのことに気付かないんだ。

 

 応援するだけ、無駄なのに。



「わかった。しかたなぁーい。じゃあなつくん、はいっ」


 そう言うと手のひらが差し出された。


「え……?」

「右手をグーにしてワンって。あとは言わなくてもわかるよね?」


 わたしと契約してワンちゃんになってよ。みたいな軽いな乗りだった。


 ……掌握。心身共に僕を支配しようと言うのか? いいかげんにしろよ。そう易々、言うこと聞くと思ったら大間違いだからな?! 


「……ワンっ」


 正解です。言うこと、聞くしかないよね。

 たとえ、応援するだけ無駄だとしても、僕に拒否権はない。


 でも、なんだよ『ワンっ』って。意味わかんない。まどか先輩は犬好きなのかな。僕は猫派だよ……。


「うん。なつくんは物分かりが早くていいね。次からわたしが手のひらをだしたら、こうすること。わかった?」


「ワンっ」

「いや、返事は普通に“うん”とか“はい”でいいよ。犬じゃないんだから、さ?」

 

「……はい」

 

 もう、消えちゃいたい。


 なに……これ。


 ◆


「とりあえず連絡先交換しよっか。学校でゆっくり話せる機会はそうないだろうし」


「そうです……ね。こればかりは仕方ないですね」


 適当なように見えてちゃんとわかってるんだな。

 僕がまどか先輩と仲良さそうに話してるところを部員に見られたら大変だ。異端審問会にかけられてしまう。


「ほんと、なつくんて変わってるよねぇ。わたしと連絡先交換できるんだよ? 嬉しくないの?」


「特になんとも思わないです」


 あぁ、返答を間違えたとすぐにわかった。

 まどか先輩はムスッとした雰囲気を見せると手のひらを出してきたんだ。


 僕は右手をグーにして、まどか先輩の手のひらへと置く。


「ワンっ」


 二度目のワンっ。……なるほど。こういうことか。

 なんとなく、お手の意味がわかったような気がする。


 言葉はいらない。お手で語る。察しの悪い僕とプライドの高いまどか先輩を繋ぐ架け橋。


 って、何してんだよ僕。冷静に分析している場合か。


 ◆


 結局、そのあとは自撮りを手伝わされたり、良いように使われてしまった。最適な応援プランを練るから、それまでは普段通りに生活すること。他言無用と念を押すと、保健室から去って行った。その目は恋する乙女のようにキラキラしていた。



 事あるごとに差し出されたのは手のひら。

 次第に『ワンっ』とすることにも慣れていった。


 怒るわけでもなく、脅すわけでもない。それでも、お手をするだけで断れない雰囲気を作られる。


 まどか先輩のペースに乗せられていく。


 このままじゃ、僕はワンちゃんになってしまう。

 嫌だ……そんなの……嫌だ。ワンちゃんなんて嫌だ。


 でも、恋する気持ちは本物。

 つい先日までは理解できない感情だった。


 ワンちゃんルートまっしぐらの絶望の淵で思い出したのは、一昨日の僕のパンツ。


 昨日、洗濯機にパンツを屠った際にさよならしたはずなのに、頭の中は心音で埋め尽くされていた。



 ──あの匂いを、もう一度……嗅ぎたい。


 心音に……会いたい。


 会いたい……よ。

 

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