表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/36

第十六話 目が覚めると、そこに見えたのはおパ◯ツでした(中)


 ダメだ。知りたくて震える。

 パンツを見られたというのに、恥じらうことなく余裕のまどか先輩。


 知りたい。その、おパンツ心のバイタルを。

 パンツへの探究心が僕を掻き立てる。

 


 ……でも、良男とは友達だ。

 僕が応援したくらいでなびくとも思えないけど。そういう問題じゃないよね……。


 だって、これじゃまるで、パンツのために友達を売るようなこと。


 ダメ。絶対。


 苦渋の……選択。ううん。答えは初めから決まってる。


 パンツのために友達は売れない‼︎


「せっかくの申し出ですが……すみません。良男とは友達です。裏切るようなことはできません」

「ふーん、断るんだぁ? 見たくせに」


 椅子に座るまどか先輩は脚を組み、頬杖をついた。

 ベッドに仰向けで寝転がる僕と視線を合わせるように、相も変わらず挑発的な態度だ。


「本当にすみません。たまたま見えてしまっただけで……」


「そうだね。でも、水玉模様ってはっきりと柄まで言うのはマナー違反だよ? 謝るならさ、ちゃんと謝ろっか」


 断ったのはまずかったかな。まどか先輩と言えどパンチラならぬパン見えをベットしたんだ。もう少し、気持ちを汲むべきだった。


 いいよ。まどか先輩。

 まがりなりにも見てしまったパンツの代償は払うよ。


 僕のちっぽけなプライドでお支払いだ。


「……この通りです。このたびはご不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした」


 上半身だけ起き上がり、まどか先輩のほうへ頭を下げる。これで満足だろう。


「そうじゃなくってぇ、『まどか先輩の水玉模様の下着が見れて幸せでした。勝手に見てしまいすみませんでした。ワンワン!』でしょぉ?」


「……はい?」

「言って。言わないと許さない」


「待ってください。ワンワンって意味が──」

「あー、そういうのいいから。言うのか言わないのか、どっち?」


 なにをむきになってるんだ。減るもんじゃないだの、見せてるようなもんだの言ってたくせに。


 女心は本当にわからないや。もう、めんどくさくなってきちゃったよ。


 まどか先輩の女心とかどうでもいいし。


 僕が知りたいの”おパンツ心”だし。


「それで不問にしていただけるのなら、言いますけど……」

「はいはい。するするぅ。不問って言うかぁ、後腐れなくおしまい。的なっ?」


「わかりました。…………まどか先輩の水玉模様の下着が見れて幸せでした。勝手に見てしまいすみませんでした。ワンワン!」


「あはっ! ありがとぉ♡」


 その顔は愛らしくも喜びに満ちた顔だった。

 満足したのかすぐにスマホを弄り始めた。


 終わった。僕の中の大切な何かがすり減った気はするけど、終わったんだ。


 僕は他に考えなきゃいけないことがある。我が家のおパンツ事情に心音とのこれからのこと。


 昨晩は心音へのお断りメッセージを送れなくて朝になってしまった。それで寝不足。さらに追い討ちをかけるように、海乃が朝のリビングに顔を出さなかった。


 もう、ズタボロなんだよ。


 だからまどか先輩に構ってる余裕なんて、初めから無いんだ。


 おパンツ心が知れるならと淡い期待を抱いたけど、聞けそうにないし。


 とりあえず、寝れるうちに寝ておこう。

 ……そう思った時だった。

 


 『まどか先輩の水玉模様の下着が見れて幸せでした。勝手に見てしまいすみませんでした。ワンワン!』


 その声は僕だった。まどか先輩が手に持つスマホから、声がしたような……。


「まさか⁈ 録音したんですか⁈」

「うん。録れちゃってたみたい」


 なんだその他人事みたいな言い方。自分で録ったくせに。


 ……ははっ。そうだよ。まどか先輩はこういう人だ。


 気持ちを汲む? 汲む必要なんてなかったんだ。


 おパンツのことばかり考えていて、冷静な判断を欠いていた。この女はこういう奴だ……。


 く、くそう。

 こうなったら、強行手段だ。音声データを……消す‼︎


 僕は手を伸ばした。まどか先輩が手に持つスマホ目掛けて。

 ボールをカッティングするかのように、えいっと!


 右手!! 左手!!


 ひゅいっと僕の手を阻むようにスマホは上へ。体勢と距離のせいで届かない。でも、あとちょっと。もう、少し。


 僕は必死に手を伸ばした。


 〝あぶぶっ〟


 〝ぽよよんっ〟


 目の前が突然、真っ暗に。

 なんだろ……顔がむにむに柔らかい。ましゅまろ?



 〝パシャッ〟


「あー、なつくん。事案……発生してる……」


「っっ?!」


 シャッター音で我に返る。

 僕はベッドから倒れ込むように、まどか先輩の胸に頭をダイブさせてしまったんだ。


「…………」


 言葉が出ない。


「な、なつくん……そろそろ顔退けてくれるかな」


「っっ?! す、すみません」

「うん。見えちゃうの仕方ないけど、さすがにこれは、ね? これ以上先は言わなくてもわかるよね」


「はい……。本当にすみません」


 く、くそ……このましゅまろ……妙に落ち着いてしまった。


 それにしても、ほんと……け、けしからんな……こ、このましゅまろ。むにむにしやがって! け、けしから……ん。


「だから……なつくん……早く退こうよ」


「あああああ、すみません‼︎」


 やって、しまった……。

 退けと言われたのにすぐに退かなかった。これは……もう言い逃れできない。


「いいよいいよ。これは仕方ないよ。事故みたいもんでしょ。ちゃんとわかってるから、安心して?」


「は、はい……」


 カメラで撮ってた。シャッター音鳴ってた。

 どこに安心できる要素があるっていうんだ。



「それで、話戻すけど、なつくんはわたしと池照くんが付き合えるように応援したいんだっけ?」


 わかりきったことをしらじらしくも聞いてくる。

 人差し指を口に当て、何かを思い出すような仕草までして見せた。その目は確信的。


 さすが、まどか先輩。

 お見それしました。まさかこれほどとは。


「はい。そうです」


 僕の返答は決まっていた。もう、導かれるままにまどか先輩の欲する言葉を返すだけ。



 応援……するしかないようです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ