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第十三話 未成熟の青二才なおパンツ


 五分間の短い研究を終えるとジップ付き密封袋の中に再度パンツを入れて棚にしまった。まるで貴重なサンプル品を扱うように。


 そして、ベッドに移り枕を抱えるようにうつ伏せになり雑誌をパラパラとめくり始めた。


 …………あれ? 


「こ、心音?! 話の続きは?!」

「あっ、そっか。嗅いだら満足しちゃって忘れてたぁ! ごめんねコタ」

「う、ううん。気にしないで」


 そう言うと雑誌を閉じ、寝っ転がったまま左手で頬杖をつくと僕のほうを向いて話してくれた。


 これは……目のやり場に困る。常に困ってるんだけど。

 挙動不審になってないかそろそろ不安になるよ……。

 

 そんなこんなで研究の成果、心音が考える海乃の心境を教えてもらった。


 ◆◆◆◆◆


「つまり、パンツが臭くないから海乃が心配したってこと?」

「そーゆうこと!」


 心音が言いたいことはなんとなくわかった。けど、


「……臭くないのは良い事だと思う」


「ちっともよくないよ? その日コタのパンツは臭くなる為の成長をしてないってことになるんだから。成長する為に部活に出掛けたんでしょ?」


 断じてそんなことはないんだけど。なんだろ、何かが引っ掛かる。


「臭く……なる、ための?」

「そっ。成長だよ?」


 首を傾げ当たり前を僕にぶつけてくる。

 成長……おパンツの……? 


 …………成長?


「…………はっ! そういうことか!! さすが心音!!」

「ふふーん。とーぜん! 伊達に研究はしてないからねーっ。コタのパンツのことなら任せてよ! この臭さは成長の証なんだからっ」


 そう、成長の証なんだ。

 本来起こるべきはずの成長を遂げなかった。


 僕のパンツは成長する為に部活へ行った。しかし、洗濯機に屠られしパンツは未成熟の青二才。


 タンスから出し履くことなく洗濯機INしたのだから当然のこと。


 それが全てで、それが答え。

 部活に行くと家を出たのに、パンツは部活をしないで帰ってきた。これが昨晩、海乃が手にしたパンツの事情。


 そのパンツは部活をサボったんだ。


 パンツとは詰まるところ僕。

 

 僕が部活をサボるなんて余程のことだ。だから海乃は僕の身を案じて……体調不良だと思ったに違いない。


 と、中々に理にかなった読みだけど、この話は前提条件が崩壊してる。だって、それはつまり……、


「……でも、やっぱり海乃が僕のパンツを嗅ぐなんて……考えられないよ」


「だーかーら‼︎ それを確かめる為に今コタが履いてるパンツにわたしの匂いを付けたんでしょお? もし匂いを嗅いでるなら、普段と違う匂いに戸惑うと思うの。って、言ってもコタにはわからないだろうけどーっ」


「ソ、ソ、ソソソソウダネ。チョットワカラナイ」


 さっきクンクンしまくったから知ってるなんて絶対言えない。そうだよ、僕は既にクンクン経験者だったんだ。


「どしたの? なぁにソワソワしてるの?」

「ううん。なんでもない。気にしないで」


 心音から視線を感じる。怪しまれてる。

 どこの世界に自分のパンツをクンクンしまくるやつがいるんだ。ここに居るけど。僕だけど。絶対言えない!!



「うん。やっぱり良いなぁ〜。コタがわたしの高校の体操服着てると同じ学校通ってるみたいっ。中学の頃を思い出しちゃうなぁ」


 ホッ。良かった話が変わった。

 次からは気を付けないと。バレたらもう外歩けないよ。


 で、えーと、想い出話かな?


「うん。そうだね! 懐かしい!」

「あー、なにそれ。すごいテキトーじゃん」


 そう言うと何故か立ち上がりタンスを開けた。

 そして体操着とハーパンが出てきた?!


「コタぁ〜、着替えるから目つぶってて。開けても構わないけど〜」

「えっ?! えっ?!」


 突然のことでパニックを起こしそうになる。

 パンツの話をしてたはずだ。なのにどうして、着替えるんだ?!


 クロスした両手がキャミソールの端を掴む。

 心音が脱ぐまで、あと二秒。


 僕は大急ぎで後ろを向いた。何も見てない。大丈夫。


「コタうけるっ。正座して後ろ向くことないのに。なぁんかショックだなぁ」

「あた、あた、あたたたたたりまえだろ!!」


「なにそれ、噛み過ぎー。下着付けてるし今更コタに隠すようなものでもないけどなぁ〜」


 言い分はわからなくもない。

 心音はきっと、僕のことを弟や女友達くらいにしか思ってない。

 それは僕も同じで心音のことを姉や男友達くらいにしか思ってない。そう、昨日までは。


 今は綺麗なお姉さん。女として見てしまう。


 外見が変わっただけで他は昔のままの幼馴染な心音なのに。ドキドキが治らない。


 このドキドキする気持ちを恋心と呼ぶにはあまりにも都合が良すぎる。わかってる。わかってるけど……


 でも、きっと……好きなんだと思う。


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