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第十二話 一泊二日おパンツの旅


「もうっ。コタはわがままだなぁ。わたしの体操服が着たいってこと?」

「そ、そうだよ。さっきから言ってるだろ」


「ふーん。わたしの高校の体操服のハーパンがどうしても着たいんだぁ?」


「だ、だからそうだって……」


 もうこのやり取りは五回目だ……。

 心音は楽しんじゃってる。ほんと、意地悪なやつだ‼︎

 

「上はもう着てるもんね。ってことは……上下わたしの体操服が着たいってことぉ〜?」


「だ、だ、だから‼︎ 着たいって言ってるだろ‼︎ 早くよこせ!! ハーパンを‼︎」


 僕はいったい何を言わされてるんだ。でも、このハーパンを逃したらスカートを履くことになる。


 縋るしかないんだよ。意地でも貸してもらうしかない。


 バスタオルは濡れてるからと取り上げられ、パンツにTシャツ(体操着)姿。

 

 心音の部屋にあるタンスは三段の小さな物で夏服しか入っていない。


 この中から好きなのを選べと言われた。

 選択肢がハーパンしかないんだよっ!


 着たいとか欲しいとかじゃなくて、単なる消去法。なのに、心音のやつ……。



「ねぇ、コタ。まさかとは思うけど……体操着フェチなの?」

「ば、馬鹿なこと言うな! そんなわけあるか!!」


「あっ、そう。じゃあ貸さなくていいね」


 く、くそう……。


 僕は正座で両手を床につき、俯いた。そして、


「体操着が……欲しいです……」


 ──懇願した。


 こんなやり取りをさらに十回ほど繰り返すと満足したのか飽きたのか……心音はハーパンを貸してくれた。


 無事に心音が通う高校の体操服上下を身に纏い、真っ当な服装になれた。


 あれ……これ真っ当かな?


 ドクンッ。


 あ。ダメだ。これ考えたらダメなやつだ。

 もしかしてスカート履いてたほうがマシだった?


 あ。あ。あ。ダメ。考えるな。もう何も考えるな。


 ………………。



 ◆◆◆◆


 そして、ようやく本題に。

 テーブルを挟み対面。会議さながら研究の進捗状況が告げれらる。


「研究不足でまだ仮定の段階だけど、……もしかしたら海乃ちゃん、コタのパンツの匂いを嗅いでるかもしれないよぉー!」


「それはないよ。嗅ぐ理由が思いあたらない」


 万に一つくらいは考えもした。けど、臭い臭いと心音に言われて億に一つも考えなくなった。


「ほんとにそうかなぁ。コタはさ、普段くっさくさのパンツが臭くなかったらどう思う?」

「どうって……そもそも嗅いだことないし……仮に一度だけ興味本位で嗅いだとして、臭かったら二度目を嗅ぐことはないと思う……」


「あのねそういう話をしてるんじゃないの。コタの部活帰りの臭いパンツが臭くなかったらそれはもう事件なんだよ! 昨日は部活があるにも関わらず洗濯済みの履いてないパンツを洗濯機に入れた。それってつまり、くっさくさのコタのパンツが臭くないってことなの。わかってるの?!」


「う、うん…………」


 僕は言葉に詰まってしまった。

 心音がなにを言ってるのか、ちょっと意味がわからなかったからだ。パンツが臭いってことは十分過ぎるほどに伝わってるけど……。


 だんまりする僕に呆れたのか、心音はため息を吐くと立ち上がり棚から透明の袋を取り出した。ジップの付いた密封されたやつだ。中には僕のパンツが。


 それはまるで、ラボに保管される研究サンプルを取り出す研究者の姿だった。


 ジップが開かれる。僕はこの後、何が起きるのか大方の想像がついた。


「いいよ心音。もう、わかったから……どうせ嗅ぐんだろ」

「そうだよ。これが臭くないなんてありえないんだから。何もわかってないコタに教えてあげる」


 なんて無慈悲な。

 臭いってことはもうわかってるんだよ?


「臭いのはもうわかったから……やめよ」


 僕は掴んだ。袋の中に手を入れてパンツを取り出そうとするその手を。


「なに?! 邪魔しないで。もう我慢できないのっ!!」


「が、我慢……って?」

「あっ、えーと。……研究衝動。そう! 研究衝動に駆られちゃったの!! 止めるなら帰って。もう用事は済んだでしょ?」


 僕の手を振り払いドアを指差した。


 まだ服も乾いてないし、研究成果も聞いてない。

 何一つ用事なんて済んでない。きっと、心音の頭の中は研究のことでいっぱいなんだ。僕なんかのために……たくさん無理をして。


「研究の邪魔してごめん……」

「ありがとうコタ。五分間だけ研究するから、良い子にしててね」


 その熱心さからは一端の研究員ではなく、博士の影をみた。



 ──そうして五分間。僕はまた綺麗なお姉さんにパンツが臭いと言われ続けた。


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