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第十一話 ソノおパンツは良い匂いがした


 クンクンクン。クンクンクン。はぁはぁ。


「なんだこれ……すごい良い匂いする」


 思わず声が漏れてしまう。

 洗濯機の回る音と換気扇の音が飛び交う中、僕は脱衣所に一人。良い匂いの虜になっていた。


 クンクンクン。クンクンクン。はぁはぁ。

 やばい。綺麗なお姉さんの匂いがする。


 クンクンクン。クンクンクン


 ……ハッ‼︎


 僕は何をしてるんだ⁈


 ぁぁぁああああ‼︎


 コレ、ぼ、僕のパンツじゃないかァッ‼︎


 一泊二日。心音家パンツの旅。

 僕のパンツは僕のパンツであって僕のパンツではなくなってしまった。このパンツは……誰のだ⁈


 あっ、そうだ。これは心音のパンツ。わたしのパンツって言ってたじゃないか。


 ……ははっ。わかってる。これは紛れもなく僕が昨日履いてたパンツ。

 厳しい現実だけが残る。僕は……自分のパンツをクンクンしてしまったんだ。


 あまつさえ夢中になってクンクンした。


 末代までの恥。墓場までの秘め事。


 はははっ。ははははっ。


 …………もう履こ。



 うん。それよりも問題はこっちだ。

 丈の短いフリルの着いた白いスカート。

 くしゅっとふわっとしたデザインが可愛らしさを引き立てる。とってもキュートなスカートだ。


「……違う。そうじゃない」


 スカートなんか履けるわけがない‼︎


 他の着替えは……白いTシャツが一枚だけ。

 胸のあたりに刺繍がある。えーと“秋ノ森”


 これ、体操着だろうが!!

 心音が通う高校の体操着!


 …………おかしくないか?


 でも……スカートの前では良心的な洋服に思えてしまうから不思議だ。


 もういい。着るッ!


 とりあえずパンツの上からバスタオルを巻いてっと。ズボンは別のを貸してもらおう。


 体操着にパンツ。下半身はバスタオルをくるくる。とりあえずOKかな。



 リビングへ行くと心音がキッチンで料理をしていた。


「おかえりー、今オムライス作ってるから適当に座って待ってて〜」

「うんわかった! ありがとう!」


 キッチンからはチキンライスの匂いが漂う。心音のフライパン捌きは相変わらず手慣れたもので、どこか懐かしさを感じる。


 久々の心音特性オムライスに心が躍る。

 部活終わってからなにも食べてない。腹ぺこだ!!


 まだかなまだかなー。僕はダイニングテーブルに腰を掛けレモンを頬張りながら出来上がるのを待った。


 ……何かを忘れてる気がする。なんだったかな。そうこうしてる間に、


「じゃじゃーん! お待たせ〜!」


 ふわふわとろとろの卵は脱衣所にあったスカートのようにふわふわしていた。


 スカート……?


 何かが脳を一瞬霞めるも僕の手はスプーンを握っていた。


「わぁ!! いただきまーす!!」


「はいどーぞ! ねぇ〜なんかこうしてると懐かしいねっ!」

「ん? んーだね! もぐもぐ」


 ダイニングテーブルを挟み対面に座った心音は頬杖をつきながらニコニコと僕を眺めていた。なんだか照れくさい気持ちになるけど、今はオムライスが美味しい。とにかくスプーンを口に運ぶのに夢中だった。


 もぐもぐもぐもぐもぐ。


 ──あっという間に完食!


「ごちそうさまぁ!! 心音のオムライスは世界一だ!!」


「あははっ大袈裟だよぉ〜。あっコタ。ほらついてるよぉ〜」


 そう言うと心音の人差し指が僕のほっぺに。

 その指にはご飯粒が一つ乗り、そして事もあろうか……「はいっ」と僕の唇1cmの距離に差し出されたのだ。


「っっ?!」


「ほら残してる。全部食べなきゃダメだぞ〜?」

「う、うん」


 え、なにこれ。オドオドしてると心音の人差し指が僕の唇の中に……。


「っっ?!」


 なにが起こったのかわからなかった。


 口の中に感じるのは一つのご飯粒。


 あ……れ? これって……⁈


「全部食べれて偉いねぇ!」

「う、うん。ごご、ごちそうさま」


 そう言うと頭をポンポンされた。


 やばいやばい。ドキドキが最高潮だ。

 なにしてるんだよ心音のやつ。どうして僕も避けなかった? こんなこと、幼馴染だからって普通しないだろ。


「コタどうしたの? うん?」

「な、ななんでもない」


 心音はなにを意識するわけでもなく頬杖をつき首を傾げた。



 ──僕は平常心を装うので精一杯だった。


 確かに感じる温度差を再認識した……。


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