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第十話 全てはおパンツのために仕組まれた罠


 キキィーーー。ズザザザザッ!!


「はぁはぁはぁはぁ。ふぅ……到着!」


 もう脚がパンパンだ。

 止まることなくダッシュで来た!!



 ピンポーンピンポンピンポン。

 いけないこととわかりつつも焦る気持ちが僕にインターホンを三連打させてしまう。許せ心音!! 研究の成果を知りたいんだ!


 ガチャンッ。


 ドアから姿を現したのは昨日と同じ綺麗なお姉さん。

 今日も短パンにキャミ。相も変わらず無防備なけしからん格好じゃないか。


 気を確かに持つんだ。心音は幼馴染。

 クンクンするのは背を向けた時だけ。今じゃない。……よしっ。


「や、やぁ。昨日振りっ! はぁはぁはぁはぁ」

「……う……わぁ」


 ななな、なに?! なんで嫌そうな顔?!


 僕なにか悪いことしたかな……。


 とりあえず玄関へ入り靴を脱ごうとすると、


「…………コタ汗だくじゃん。勘弁してよ」


 なん……だ……って?


「こ、心音が汗だくで来いって言ったんじゃないか‼︎」

「待って。そんなこと一言もいってないし。なんかそれ色々やばくない?!」


 …………確かにそんなことは言ってなかった。少し話を盛ってしまった。反省。


「でも、着替えて来たら家入れないって言ってた! ダッシュで来いってメッセージも来てたから急いで来たんだぞ」

「そうは言ったけど……どうしてこうなっちゃったかな……もーう。コタは……」


 そう言うと心音は困り顔でため息をついた。


 僕も同じ気持ちだよ。

 どうしてこうなっちゃったかな……。


 これって僕が悪いの? などと思うも果てしなく汗だくな自分の様をみると、ぐうの音も出ない。こうしてる今も額を伝い汗が玄関のタイルへ。


 ポツンッ。


 どうしようかな。謝ろうかな。帰ろうかな。と考えていると、僕の頭をタオルが覆った。


「あぶぶぶぶぶ」


 突然のことにびっくり。


「髪までびっしょりじゃん。あー、動かないの!」


 …………なんとなく身を任せちゃってるけど今僕なにされてるんだろ。うん……心音に汗を拭き拭きされてる。


 やめろーーって声を上げる場面なのに、汗だくな事への後ろめたさが勝る。あぶぶぶぶ。


 でもタオルなんていつの間に。最初から持ってたのかな。


「うーん。お風呂入っちゃいなよ。ちょうどお風呂沸いてるし。うんっそっちのほうが早いッ」


「えっ、お風呂?」

「いーから。ほらっ。風邪引いちゃうでしょ。良い子だから入ろう、ね?」


 そう言うと諭すように頭をポンポンからの撫で撫で。


 うん。心地良い。僕はこれに弱い……。


 静かに頷くと手を引かれあっという間に脱衣所へ。


「着替えとバスタオルは今持ってくるから、入っちゃってていいよ〜。脱いだ服は適当にこの辺置いといて」


 カゴを指差すと脱衣所から出て行った。戻ってくるまでに風呂入っとけよ。と、言われたような気がした。


 仕方ない。ひとっ風呂浴びるか。


 汗を流せば心音の機嫌も治るだろう。


 ジャッバァーーン。


 「ブクブクブクブクブク」


 久々の心音家のお風呂。懐かしさが漂う。

 そう言えば、ミニバスの後によくお邪魔してたなぁ。

 

 「ブクブクブクブクブク」


 でもどうしてお風呂沸いてるんだろう。まだお昼なのに。ちょうど沸いてるとか言ってたっけ。心音が入った後ならわかるけど、この水の鮮度は一番風呂。


 沸き立てホヤホヤで僕好みの熱々な湯加減。


 湯船に浸かりリラックス。


 ……何かがおかしい。なんだろう。なに……かが。

 

「コタぁ〜! 着替えとタオル洗濯機の横のカゴに置いとくからね〜!」

「うん。ありがとー」


 そのおかしな何かがひしひしと近づいてくる。

 あれ? 着替えって。ここ、心音ん家だぞ。


 この家に僕の着替えなんてあるわけないだろう……。


 ハッ!!


 ようやく事の次第に気付いた。

 温かいお風呂に浸かっているはずなのに背筋が凍る。身の毛もよだつとはまさにこのこと。



「それにしても、まさかこんな汗びっしょりで来るとは思わなかったよ〜。Tシャツ絞ったらヤバそうじゃん……うげぇー」


「っっ?!」


 曇りガラス越しに心音が映る。たぶん僕がさっきまで着てたTシャツを摘んで「うげぇー」って言ってる。


 そして、洗濯機を開けるような仕草をを見せると、放り込んだ。


 ピッピッ、ピッ。ピーー。


「っっ?!」


 まさか、洗濯するのか?!


「ちょっ、心音?! なにしてるの?!」

「うーん? 洗濯だよぉ〜」


 それは最後通告だった。汗だくと言えど、まだ衣類としての役割は果たせたはずだ。


 僕はお風呂から上がっても着る服がない。


 いや、心音の服を着るんだ……。


 しかもノーパンで……。


 待て。心音がなにかを手に掴んでる。全部洗濯機に入れたわけではないのか?

 曇りガラス越しでわからない。けど、顔に……近づけた⁈


 ワンクンカ。プハァ。

 ツークンカ。プハァ。


 そんな絵面に見えるのは気のせいだろうか。

 綺麗なお姉さんが見せるそのシルエットからは手に持つそれがパンツとは到底思えない。


「こ、心音なにしてるの?」

「うーん? 研究だよぉ〜。それにしても相変わらずくさくさだねぇ。ほんと無理ぃ〜!」


 スリークンカ。プハァ。

 フォークンカ。プハァ。


「くっさぁーーい!! あははっ。脱ぎたてやばぁーい」


 ファイブクンカ。プハァ。


「うけるっ。なにこれ臭すぎぃ!」


 ──はい。パンツでした。


 でも今は臭いと言われる事よりも、まだそこにパンツがあるということが、なによりも嬉しい。


 ノーパンになってたまるかぁ!!


「心音‼︎ そのパンツまた履くから研究終わったら置いといて!!」

「ダメだよ。これはもうわたしのパンツだから」

「な、なに言ってんだよ?! このままじゃ僕ノーパンになっちゃうだろ?!」


 まただ。わたしのパンツってなんだよ。

 それは僕のパンツだから!!


「あー、そっか。じゃあ昨日のパンツ置いとくよ。もうこれいらないから」

「おぉ、さすが心音!! ありがとう!!」


 言い方が少し刺々しいのはなぜだろう。でもこれでノーパンは回避できる!


「ちなみに、昨日のパンツにはわたしの匂い付けておいたから。読み通りなら海乃ちゃんにまた変化があるはずっ! ちゃ〜んとお家帰ったら洗濯機に入れるんだぞぉ〜?」


 その言葉は立派な研究者のソレだった。


 この様子から察するに研究成果は確実にあがってる。


 ほんと、僕は自分のことばかり。心音は臭いと言いながらもパンツを嗅いで研究してくれているのに。


 ごめんね心音……。心の中で精一杯の謝罪をした。



「コタの好きなレモンを砂糖に漬けたやつ用意してあるから、早くお風呂上がりなよぉ〜!」


「うん!!」



 ──そうして、お風呂から出た僕は絶句する。


 バスタオルと一緒にスカートが置いてあるんだ。

 それはもう綺麗に畳まれていて、履いてもらうのを待っているかのように。


 …………なにかの間違いだよね?


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