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失せ物探し(1)

目の前を、両耳に赤鉛筆を挟んだオッサンが通り過ぎた。

熱心に新聞を見て、ブツブツ言っている。

朝っぱら一杯ひっかけてきたんだろうか。

プンと酒臭さが漂った。


ふと周りを見ると、チラホラと若い女たちが目に入った。

同年代の男らとスマホをのぞき込み、キャーキャーと盛り上がっている。

どうやら、買い方と予想の仕方を説明しているらしい。


「さて。どうしようかな。どれがいい?」


『3』が大きく表示されたあと、続いて1、5、8と

脳裏に数字が浮かび上がる。


「へいへい。3-1、5、8の馬単ね。オッケー」


なけなしの3,000円で馬券を買い、

レーススタンドに移動する途中で

イカ焼きを買ってレースに臨む。


「よっしゃ! 頼むぞ! ガッツリかけたんだからな!」


さっき目の前を通り過ぎたオッサンが隣で声を張り上げいる。


ファンファーレが高らかに鳴り響き、美しき獣たちが走り出す。


(今回も頼むぞ、相棒。家賃がかかってんだからな!)


4の馬が徐々に追い上げていくと、

隣のオッサンの興奮も比例して上がっていく。


(おいおい。大丈夫かよ。頑張ってくれよ! 3!)


ハラハラしながらレースを見守る。

馬たちが次々とゴールしていく。



「ふざけんじゃねぇぞ!!!」



バサッと音がして横をみると、

オッサンが新聞を足元にたたきつけている。

ヒラヒラと馬券が風に乗って宙を舞う。

どうやら、ひとつも当たらなかったらしい。


俺はそっと息をはいて、握りしめたイカ焼きの串を持ち直した。

大丈夫と分かっていても、毎回ひやひやしてしまう。


「イカ焼き冷めてる・・・。」


せっかくの朝めし兼昼めしだったのに。

まぁでも今回もしっかり当たったし、

今月も家賃が無事払える。


「51,900円か。残りと合わせて1ヶ月乗り切れるぞ!」


あーぁ。

本当ならもっと掛け金ある予定だったのになぁ。


今回は失せ物探しの依頼があんまりなくて、

小銭を稼げなかった。

やっぱり、精度だよなぁ。

3日が限度ってのはちと痛い。


でも…


「今回もありがとな。おかげで助かったわ」


--リン…


涼しげな音が呼応するように鳴る。

どことなく嬉しそうに感じるのは気のせいじゃない。



俺に異変が起きるようになったのは高校2年のとき。

学校の帰りに自転車に乗って土手を走っていたら、

後ろから来た車に引っ掛けられた。

運転手はスマホを見ていて俺に気づかなかったらしい。


幸い、ゆるい傾斜の土手で土と草が

うまくクッションになったおかげで

大事にはいたらなかった。


が、ゴロゴロ転がった先に石があって

頭をぶつけた拍子に切れてしまった。


吹っ飛ばされた衝撃のあと、

何が何だか分からぬうちに頭に痛みが走り

生暖かいものが首筋を伝ってパニックになった。


運転手が動揺して転がるように走り寄ってきて、

俺を見てさらに動揺するのを見ていたらだんだん落ち着いてきた。

救急車を呼ぶ後姿を見ていたら、視界の端に奇妙なものが映った。


(着物?)


そちらを見ると、目に涙をいっぱいためて

着物の裾をギュッと握って

こちらを見ている人物がいた。


(え?いつから?あれ?さっきからいた??)


そいつはそろそろとこちらに歩み寄ると、

座り込んで俺の頭をぎゅうと抱きしめた。


(え? なに? なになに?? なんなの??)


またパニックになりかけたが、

そいつが震えてることに気づいて

腕の間からそいつを見上げるとボロボロ涙をこぼして泣いている。

それを見ているうちになんだか、しょーがないなぁという気持ちになって


「大丈夫だって。心配すんなよ」


と笑って言ったら、驚いたようにこちらを見た。


(うわ。すっげー綺麗な目ん玉)


なんつーか、うすい青? 緑??

涙に濡れてキラキラ光ってて、つい魅入ってしまった。


なんとなく、こいつが人間じゃないってことは分かったけど

色んな事が重なったせいなのか「そうなんだな」とだけで、

それ以上の感情がわかなかった。


ただ、こいつが尋常じゃなく俺の心配をしているってことは

しっかりと伝わった。

俺のことがすげー好きだってことも(恋愛的なもんじゃなくて)


驚いて目をパチパチしながらまだこっちを見ているそいつは、

どうやら俺がそいつの存在に気づいたことに驚いてるようだった。


「なんかよく分かんねーけど、あとでゆっくり話そっか。

これからバタバタすると思うし」


そう言うと、頬を染めて嬉しそうに笑った。


(こいつ、ペスみてぇだ)


昔飼ってた犬のペスを連想した。

こいつに尻尾があったらちぎれんばかりに振っていただろう。


病院に運ばれて、6針縫った。

他は打撲くらいで骨折とかはなかったけど、

色々検査して頭を打ったから念のために一晩入院して次の日に退院した。

そいつは現れなかったけど、気配はずっと感じていた。


家に帰って寝る時に声をかけると遠慮がちにそいつが出てきた。

そいつは声を発することはできないのか、言葉は話さないけど

なにを言いたいのかは伝わってくる。

なんだか不思議な感覚だった。


俺に見つかったことで追い出されるんじゃないかと心配していて、

少し青ざめながら心配そうに俺を見上げる顔を見てたら


(こ・・これが萌えという感覚か?!)


危うく新しい扉を開けるところだった。

なぜ、いつから俺に憑いてる(?)のかという問いには

そいつが興奮して全然伝わってこなかった。


とにかく俺と一緒にいたいということ、害はないこと。

それが分かれば、あとはもうどうでもよくなって確認することをやめた。


こいつは蛇?だかなんだか爬虫類の化身らしい。

鈴の音で応答したり、感情の起伏で音が変化したりする。

俺の役に立つことが嬉しいらしく、

失せ物探しや競馬の予想も突然してくれるようになった。


ただし、そんなに力は強くないのか限定的ではあるが。。

失せ物探しなら直近で3日程度。

それ以降は精度がどんどん落ちていく。

競馬も掛け金あげて一点狙いでやると途端に外れる。


外れると見てられないくらいしょげてしまうから、

そいつが可能な範囲内だけで掛けるようになった。


ま、そもそもが棚ぼた幸運で俺自身の力じゃないし

そんなんばっかアテにしてたら碌な人間にならない自信が

120%ある俺としてはこのくらいの幸運でいいのかもしれない。

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