第一章 学園にて
「はぁー」
「どうしたんだ? 話、聞くよ?」
「あなたのせいなんですけど」
「昨日はキスしなくてごめんね……」
「しばきますよ?」
「そんな事言わないでマイハニー」
「誰がマイハニーですか」
「あと今日ホテル泊まらない?」
「サラッと言わないでくださいキモイです」
「ショック!」
いや、クラスメイトがショックだと……いや全然違うかった。もう慣れてた。
「そんなうるさい口はーー」
『ゴツン!』
「リテイクしていいですか」
唇と唇が当たる前に鼻と鼻にゴツンと当たる。
リテイクしたくなる気持ちも分からんでもない。
「今度隣国の王都で『かっぷる✩︎ラブ×ラブ♡こんてすと!』っていうのがあるんだけど一緒に出ない?」
「出ません」
「どうして!? 前世から定められし僕達の愛を知らしめるチャンスだよ!? 棒に振っていいの!?」
「前世から定められてないです」
ていうかあなた最難関キャラじゃないですか、どこをどうしたら悪役令嬢にぞっこんになるんですか。
「隣国の王子と公爵家がそんなコンテストに参加したら王家はどう思いますか!?」
「守りたい、この愛情」
ストーカーは話が通じないってこの事だったんだなぁ……。
私はしみじみとそう思った。
「(じぃ~っ)」
「でさぁ……」
「え? マジー?」
「(じぃ~っ!)」
「ちょっとごめん、先帰ってて」
「了解っ!」
私は友達を帰らせて電柱の影から私を見つめる怪しい影(第1王子)を叱咤する。
「何やっとんじゃおのれはァァァ!」
「求愛行動です」
「それストーキングって言うんだよ知ってた?」
「すごぉ~い! お姉ちゃん博識ぃ~!」
「ショタキャラ作れると思ってるんですか!?」
「うん」
見よ、これが我が国の第1王子クオリティである。
「放課後こそ、さ。ストーキングのフィーバータイムだと思うんだ」
「何変態じみたこと言ってるのこの人は」
王位継承権1位が変態という先が不安になるようなステータスである。
「キス……していい?」
「ダメに決まってますでしょうが」
「嘘……だろ……」
「何『マジかよ』みたいな顔してるんですか当たり前でしょう!」
「ごめん、まさか断られるとは思ってなかったからショックで……」
「いや、断る未来しか見えませんから」
こんなやり取りをしていると自分が悪役令嬢ということを忘れてしまいそうになるーー正確にはハッキリと覚えてはいるが。
「キス……していい?」
「なぜ何事も無かったかのように始めるのですか」
「だって! アナタが!! チュキダカラ!!!!」
噛んだ……。思いっきり噛んだ……。
「ごめん、もう一回言わせてもらえるというのは……」
「無いです」
「デスヨネー」
とぼとぼと歩いていく我が国のエリート中のエリートの王族・第1王子。
王城ではなく、私の家へ。