私の両親が死んだわけ
私は家に戻るとお風呂に入った。
シャワーで身体を洗い、それから湯船に浸かる。そして私は昔のことを思い出すのだった。
私の両親が亡くなったのは小四の時――買い物に出かけた両親は車を運転していると信号無視してきた車とぶつかり、両親が運転していた車は横転し、両親は頭から血を流して死んだ。
ぶつかってきた車の運転手は奇跡的に生きていて、信号は青だったと証言していたらしいのだが、両親が運転していた車についていたドライブレコーダーでその証言は嘘だと言うことがわかった。しかし、なぜか運転手は捕まらず、不幸な事故として処理された。
今でも私は思う。
あれは決して不幸な事故ではなかった。
私は悔しかった。
とても悔しかった。
どうして私たちのパパとママの命が奪われたのに、ぶつかってきた車の運転手は捕まらないのだろう。だけど私は何もできなかった。できるわけがなかった。
そして私はお兄様と二人っきりになった。
それが辛かったのかといえばわりとそうでもない。お兄様のことは当時から好きだったし、幸いにもお兄様はみかんソフトウェアに就職していて生活には苦労することはなかった。だけどお兄様は仕事で家に帰れないことが多く、家では一人でいることが多かった。
そしてそれは学校でも同じことだった。
同級生や周りの大人に両親を失った可哀想な子供という目で見られ、私はそれが嫌で仕方がなく一人でいた。私は平気だと言うことを周りの人達に証明したかったのだろう。
でも本当は寂しかったんだと思う。
そんなある時、彼女が私の目前に現れた。
「ねぇ水泳をやってみないかい?」
それはアクアちゃんだった。
最初はそんな余裕なんてないし、そもそも当時の私は泳げなかったので断っていたが、でもそれでも彼女は諦めず私を誘い続け、家にまで来ることもあった。そしてそれを知ったお兄様まで
「試しに行ってみたらどうだ?金なら心配するな」
と言い始めてしまい、私は仕方なくアクアちゃんが通っているスイミングスクールに体験しに行くことをした。
最初はキー君と同じように水の中で目を開けることさえできなかった。だけど先生やアクアちゃんに教えてもらい、だんだん泳げるようになっていった。
「どうだい?一花、泳ぐって気持ちいいだろ」
「うん、気持ちいい」
笑いながら聞いてきたアクアちゃんに私はそう言った。
何も考えずに泳ぐことは、まるで何もかも水に洗い流されているような気分になる。両親を失った私にとってはそれは気楽で気持ちいいことだった。
それから次第にアクアちゃんと仲良くなり、私は水泳を始めた。
もしも水泳を始めてなかったら私はどうなっていたのだろうかと思う。きっと辛くって死んでいたかもしれない。
だから私は水泳に、そして誘ってくれたアクアちゃんに救われたのだろう。
そんなことを考えた後、息を思いっきり吸いこみ湯船に潜った。
浴槽だと狭い。やはりプール場じゃなければダメだった。
ごちゃごちゃ考えてしまう。アクアちゃんのこと、海原さんのことを、キー君のことを。
キー君の気持ちを利用しようとしている私はきっと最低の人間なのだろう。でも私はやらなければいけないのだ。
これは私が始めた復讐劇なのだから。
そして明日のデートで私の復讐は終わる。




