キー君がデートしようと誘ってきたわけ
「お邪魔しました」と言って家を出た。外は当たり前のように暗かった。家を出て少し歩いたところで僕は言う。
「せっかく愛しいお兄様と二人きりだったのに邪魔したみたいで悪かったな」
「えぇ本当、そうね」
こいつ、肯定しやがった。
「ただでさえ、お兄様は家に帰ってくることが少ないのに」
「お前、本当に兄のことが好きだよな」
「当たり前じゃない。お兄様は唯一の……」
「唯一の?」
「いえ、なんでもないわ」
そして彼女は黙った。
なんだよ、気になるじゃねーか。
でも知られたくないことならそれでいいと思った。いつか彼女から教えてくれるだろう。
それから僕と一花はお互い無言のまま歩く。だけどそこには前みたいに気まずさなんてなく、むしろ心地よかった。
僕は気になっていたことを一花に聞いた。
「なぁお前、一葉さんと一緒にあの家で暮らしてるのか?」
「えぇそうよ。当たり前じゃない」
「……そっか」
と言うことはあの二つの歯ブラシは一花と一葉さんのものになる。それがどういうことを意味しているのかと考えると、一花は両親と暮らしていないことを意味していた。
だとしたらおかしいことがある。
初めて一緒にお昼を食べた時、
「実はこれ自分で作ったのよ」
「それはすごいな」
「嘘よ。本当はママが作ってくれたわ」
「なぜそんな嘘を?」
一花の弁当をマジマジと見ている僕に対して一花とそんな会話をした。あれどういうことなのだろうか?母と一緒に住んでいないとしたら、今まで一花が作っていたお弁当は一花が作ったものだろう。
どうしてそんな嘘を?
そんなことを考えていると
「今度、キー君の家に遊びに行かせなさいよ」
いきなりそう言ってきた,
「えっ?どうして」
「不公平だからよ。キー君はは私がどこに住んでいるのか知っているけど、私はキー君がどこに住んでるのか知らないわ。それはとても不公平よ。それにキー君のお姉様に会ってみたいし」
別にあの人と知り合ってもいいことなんてないぞ。ただのフリーターだし。
本当は自分の家に来て欲しくなかったが、しかし一花の目を見たらそんなこと言えなかった。
「……わかったよ。機会があったら連れてってやるよ」
「えぇその時はパジャマを持ってくるわ」
「まさか泊まるつもりですか!?」
「当たり前じゃない。それとも私のパジャマ姿をキー君は見たくないの?」
「……」
見たかった。超絶見たかった。
それからまたお互い無言で歩き、しばらくすると駅に着いた。やけに短く感じた。
「一花、明日って暇か?」
「えぇ暇だけど。それがどうかしたの?」
僕は一花にそう聞かれて緊張しながら言うのだった。
「明日、僕のデートをしてくれないか?そして決めさせてくれお前と付き合うのかどうかを」
☆☆☆
私はキー君が駅に入っていくのをを見送ると、家に向かって歩き始めた。
キー君がどうしてデートをしようと言ってきたのか?それはきっと私がどうしてキー君に告白したのか気づいたからなのだろう。
そして明日のデートでキー君はなんて答えを出すつもりなのか私はもうすでに予測がついてたのだった。




