僕が人間を信じられないわけ。
まさかたった一日でそこまで僕のことを把握されるとは思わなかった。いや、普段の教室でも僕を見ていればそのぐらいのことは予想できるかもしれない。
でも僕はそれをできるだけ悟られないようにひた隠しにしてきたつもりだ。
でもバレてしまっては仕方がない。
そう、僕は一花の言う通り人間を信じられない。
どこか人間を疑っていて、いつか裏切るのではないかと思っている。人間なんか信じられるわけがない。
人間は好きですか?
いや、僕は人間が大っ嫌いだ。
しかしなにも僕は元からそんな破綻した性格ではなかった。少なくとも小学生の時まではどこにでもいる普通の何も知らない無邪気な少年でいられた。
何も知らないこと。それはとても気楽だった。
それはそうだろう。世界のどこかでは銃弾が飛び交い、沢山の死人がでている戦争なんて知らなければ、自分の世界は平和でいられる。安全だと思える。
小学生の僕はそうだった。
自分は安全だと信じきっていた。
でも中学校に上がった時、そうではいられなくなった。
僕はたくさん見てきた。
人間が人間を裏切るところを。
人間が人間をいじめているところを。
人間が人間を嘲笑っているところを。
たくさんの絶望。
たくさんの悲しみ。
たくさん――
たくさん――
そしていつしか僕は人間なんてものを信じられなくなっていた。そしてしだいに何事にも無関心になっていった。
スクールカースト?
リア充と非リア充?
陽キャと陰キャ?
そんなこと知るかよ。
てめーらで勝手にやってろ。そんなくだらないことに僕を巻き込むな。
僕はきっとそう思うことによって自分を守ろうとしていたのだろう。そうするしか自分を守れなかったのだ。そのために、だったそれだけのために僕はどれだけの人間を見殺しにしてきたのだろうか。
わからない。
そんなの覚えていないし、数えてない。
だから、だからこそ僕は今までそうやって生きてきた自分を赤の他人なんかに綺麗事で否定されたくない。
「もしそうだったらどうしたって言うだよ。僕が人間を信じられないことでなんだって言うだよ」
「私はできるだけ君に信じてもらいたいわ。だって私は君の恋人になりたいんですもの。だから安心して――」
そして彼女は続けて言う。
「私は処女よ」
先ほどまでのシリアルさがぶち壊れる言葉だった。
「なんならここで試してみる?」
「試さねぇーよ」
こいつは何言ってるんだよ。
しかも女子トイレで。
「お前がそんなんだから噂が流れるんじゃないのか?」
「確かに私はなんの恥じらいもなくセックスとか処女とか言っちゃう痴女かもしれないけど。それは私のせいじゃないわ」
「自分で自分のことを痴女て言っちゃったよ。そう思ってるなら治せよ。……で、じゃあ変な噂が流れているのは他に原因があるのか?」
「えぇそうよ。田部さんが、同じクラスメイトの田部由美子さんが私の偽りの噂を流してるのよ」
「田部由美子」
誰だそいつは?